19 花菜の夜
花菜は自室で一人、勉強机で教科書と向かい合っていた。
パジャマにも着替え終わっており、寝る前の試験勉強である。
だが、向かい合いながらも花菜の頭の中は別のことでいっぱいになっていた。
(響ちゃんの寝顔かわいかった……響ちゃんの頭なでなでして……)
今日あった、響との思い出。
(響ちゃんの頭が乗ってたんだ……嘘みたい……)
自分の膝を見やりながら、反芻する。
響は膝枕をされる方がご褒美だと考えていたようだが、花菜からすればする方もかなりのご褒美であった。
仮初の恋人として、かなりの役得と言えた。
響が眠ってからは、伸ばしてきた手を絡めて好きなだけ握っていられたし……髪の毛も触りたい放題であった。
気恥ずかしくなかったかと言われれば、そういう感情もあったが……それ以上に幸せが勝った。
そう、幸せだった。
(というか、響ちゃん……生足で膝枕勧めてきたのだけは……本当勘弁して欲しかったよぉ……)
響はごく自然にやったことなのだろうが、花菜の理性的にはとてもではないが耐えられることではなかった。
支離滅裂な代替案だったが、なんとか通って九死に一生を得た思いである。
相原花菜は自身の理性に対する見積りが低い。
花菜としては、そうなってしまった場合にうつ伏せになって顔を埋めないまでも近い行為を行わない理性があったかどうか分からなかった。
そうならないまでも、まともに話すことができたか自信は皆無であった。
(そんなことになったら、響ちゃんに嫌われちゃう……!)
それだけは何としても防ぎたい。
(そうだ……。響ちゃんとは、ちゃんと……)
花菜は響との関係のことを思い、気持ちを引き締める。
自身の理性のできる限りでもって、響を支えよう。
仮初の恋人として、響のことを癒せているだろうかと考える。
(私なんかが、嘘でも恋人になれたんだ……。頑張らなきゃ……)
花菜は響との過ごす毎日を噛み締めるように生きている。
響との毎日を、充実した毎日を。
嘘に彩られた、真実の毎日を。
「んぅ~~!」
花菜は伸びをすると、教科書を畳んだ。
(今日はもう、勉強は無理かも……)
そんなことを考えながら、花菜は眠る準備に取り掛かった。
《響ちゃん、おやすみなさい》
スマホを操作して、響に就寝のメッセージを送る。
響と過ごす日々、馴染んできたその操作ですら未だに愛おしく感じられた。
《おやすみ、また明日》
早速の返信が返ってくる。
何気ない日々の一言でも、花菜にとっては宝物のように輝いて見えた。
(私は今、幸せ者なんだ……)
響の隣にいることができる。
叶わないと思っていた夢が、偽りでも叶った。
(私はやっぱり、響ちゃんのことが……好きで……。世界で一番好きで……)
偽りない真実。恋焦がれる気持ちは、決して一時のまやかしなどではなく。
(響ちゃんの癒しになれていたら嬉しいな……)
貴女を思う心が溢れて止まらない。
(響ちゃんの笑顔が好き……。もっともっと笑ってくれたら嬉しいな……)
世界で一番幸せでいて、貴女。
響のことを考えながら、部屋の灯りを消す。
そうして花菜は、幸せで辛い夢の中へと落ちていく。




