17 響が膝枕に感じるところ
「膝枕って、思ってたよりいいね……」
「そぅお……?」
花菜は自分から提案しておきながら緊張しているのか、少し身体が強張っているようだった。
それでも少しで済んでいるのは、響を受け入れようとしている心故だろうか。
今現在響は、提案通りクッションの上に座る花菜の膝の上に横になっていた。
長い黒髪が花菜の膝を通してカーペットの上へ流れていっている。
前髪が少し横に流れ、日頃は見えていない響のおでこが花菜から見て露わになっていた。
「近いからかな、花菜の香りがする」
「香りって……」
暑い季節に汗をながしてもいない状況。
花菜は焦ったように身じろごうとするが、今は響が膝の上である。
動くことが叶わない。
その動作の一部始終が響には伝わってきて、ついついおかしくて笑いそうになってしまった。
「大丈夫、落ち着く……。いい香り……。私は好きだよ」
「ううぅ……」
暫く感触を堪能していると、花菜が響の頭を愛おし気に撫でてきた。
響はそれが気持ちよくて、思わず目がスゥと細める。
「あっ、撫でられるの嫌だった? そのっ、あまりにもベストポジションにあったので……つい……」
そう言うと、慌てて花菜は手を離した。
本当についといった風であった。
「ううん、気持ちよかった。よかったら続けて……」
「う、うん……」
おずおずといった感じで、撫でるのが再開される。
頭を撫でられるなんていつ以来だろうと、響は心地よさの中でぼんやりと思考を巡らせた。
思わず続けて欲しいとねだってしまった。
気持ちよさを味わっていたかったのだ。
「響ちゃんの髪、やっぱりサラサラで綺麗だね……」
響は美人だとは言われ慣れていないが、髪に関しては昔からそこそこ綺麗だと言われていた。
だが花菜からの言葉は、そんな言われてきた言葉とは別になにか既視感のようなものを感じた。
「髪はね……あの……いや、身内含め色んな人に褒められたから伸ばしたの」
「…………そうなんだ」
「たまに、ケアがめんどくさいんだけどね。流石にここまで伸ばすと、もったいないが勝つよ」
「その調子で、覚えた料理ももったいないが勝とうね」
「それは……善処します……」
髪を伸ばした経緯などに関して語っていると、唐突にお料理教室の花菜先生が顔を出す。
それに対して響は、力強い返答を返すことはできなかった。
「花菜が撫でてくれるの……気持ちいい……」
全身が脱力していくのが分かる。
花菜に全てを委ねるような感覚に陥る。
響は段々と瞼が重くなってくるのを感じた。
「響ちゃん、眠い?」
「気持ち……よくって……」
「寝ちゃってもいいよ」
響が少しうとうとしていると、花菜から誘惑の言葉が投げかけられる。
「勉強しなきゃ……。それに寝ちゃ、花菜との時間が……もったいないよ……」
いつもは二人で食前食後に勉強をしたり、他愛ない話に花を咲かせたりしている。
響はその時間が大好きなのだ。
だから、その時間が失われるのは言葉通り惜しかった。
だが、現状に身を委ねるのにも惹かれている。
「響ちゃんは頑張ってるから、いいんだよ」
「なに……それ……」
甘美な言葉で花菜は、響を誘う。
まるで、許しを与える天使か……堕落を誘う悪魔のよう。
「花菜……」
意識を途切れさせまいと、花菜へと手を伸ばした。
それは花菜に届く前に手を添えられて、花菜の頬へと押し当てられた。
花菜の体温が、手のひらからも伝ってくる。
「響ちゃん……」
花菜の愛おしそうな目がこちらを見ている。
その瞳からは、なにか……それ以外の感情も読み取れるような気がした。
だが、うつろう意識がそれ以上の想起を許してはくれなかった。
そんな中でも、優しく撫でられる感触から慈しみは感じられた。
今はただ花菜の香りに包まれて、花菜の温もりを感じていたいと思ってしまった。
そして、響の意識は心地よい眠りの中に落ちて行く。
花菜に、包まれる。




