14 好きな人のお部屋に訪問するということ
響の部屋には調理器具一式自体はあるので、花菜は響に事前に聞いていたリクエストとそれに見合う食材での調理が可能であることを確認する。
どの道ご飯が炊けるまでそれなりに時間があるのだから、余裕はあるだろう。
コンロも口は二つあるので時間を取られることもなさそうである。
一人暮らしの部屋にしては立派なキッチンであった。
そして確認を終え……炊飯時間や夕食までの間もあってか、その間に響の部屋にお邪魔する運びとなった。
花菜はキッチンでのいざこざがあって忘れそうになったが、好きな人の部屋への訪問という一大イベントである。
もちろんのように緊張している。
響も響で初めての肉親以外の来客ということもあってか、多少の緊張が伺えた。
「まぁ、何にもない狭いところだけど」
フローリングの床に勉強机にベッド、背の高い本棚に中央にはカーペットの上にローテーブルが見てとれる。
隅の方にはダンベルやストレッチ用のマットやチューブが無造作に纏めてあった。
「どうぞ、座って」
来客用の物も用意があるのだろう、響はクッションを勧めてきた。
「ありがとう……」
好きな人のプライベートな空間に踏み入るという行為。
先程からドキドキが止まらない。
「響ちゃん、筋トレとかよくするんだよね」
腰を下ろしながら、部屋の隅に目をやり尋ねる。
何か気を紛らわそうと、質問が口から出たような感じであった。
これは事前に響から聞いていた。
毎日の通話中にもダンベルを持ち上げたりしているようだった。
「うん、こっちに来てからは一人の時間多かったし。暇だから専ら勉強か筋トレばっかりやってた。体動かすの好きだから、ジョギングとかもするよ」
「だから、体育の授業も成績良いんだね……文武両道だぁ……」
花菜も軽いストレッチ程度ならするが、響とは次元が違いそうである。
「実家にいた頃から、鍛えてはいたんだけどね。腹筋結構あるよ? 触る?」
「ええっ⁉ そんな! ダメ! ダメ!」
響の唐突な提案に、強い否定を示す。
そんなことは、間違っても正気でいることができなかった。
「花菜は過剰に反応し過ぎだって」
「響ちゃんが平気でも、私が平気じゃないよぉ……」
花菜は自分の理性の限界がかなり低いことを自覚している。
響をどうこう……というより、自分の思考回路が焼き切れてしまいかねない。
「じゃあ、代わりに花菜のを……」
「もっとダメだよ⁉」
花菜は自分の腹部を庇う様に覆った。
「ええーっ」
響が心底残念そうな声をあげる。
「なんで残念そうなの⁉」
それに対して、花菜は訝しがらざるを得ない。
「こう、手が滑ってたわわな物を……。いや、お腹自体結構アリなのか……?」
響は花菜の胸部への羨望を諦めていなかったが、その目標は移ろっていた。
「なんでそんなに触りたいの⁉」
花菜はそれを受けて、胸部も併せて覆って庇うことになる。
「触れるものなら」
響は至極真面目な顔で答える。
「色々ダメです!」
「ちぇーっ……」
「ひっ、響ちゃんのエッチ!」
花菜は真っ赤になりながら、絶え絶えといった体で返した。
「ち、違うよ! これは純粋な興味であって……! 決してやましい気持ちではないんだよ!」
「凄い……本当だとしても、ビックリするぐらい嘘っぽいよ……」
「ええっ……」
響は自分の沽券のために言い訳を募るのだが、花菜に対して効果はあまり見込めなかった。
その後もは話に花を咲かせていると、台所から炊飯を告げる音が鳴り響いた。




