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花の音  作者: 高山之信
うたかたの恋
12/58

12 初めてのデートで食事

ひとしきり買い物を満喫した二人は、遅めの昼食を兼ねて冷房の効いたカフェの室内で休憩を取っていた。

響はアイスティー、花菜は冷房対策にかホットレモネードを注文している。

店内はピークを過ぎた時間もあってか人も(まば)らで、ゆったりと会話を楽しんでいる客層が見て取れた。

二人は四人掛けの席で向かい合いながら座り、荷物を隣の席に置いている。


花菜の外出用の鞄とは別に、購入した洋服が入った店舗の紙袋が並べられている。

花菜は人生で、こんなに可愛い服を買ったのは初めてだった。

それもされるがままに店員ではなく、仮初の恋人に押し切られて。


「花菜、結構買ったけど……お金大丈夫だった?」

「あ、うん。私お小遣いあんまり使わないし、結構あったから……。私服とかこういう機会に買わないから、逆に服買ったって言ったら……お母さんに喜ばれるかも……」

友人と遊びに行くことはあるが、服を買ったりすることはない。

なので今日服を買って帰ったら、娘を気にかけている母は喜ぶかもしれなかった。

それなりに奮発はしたが、高校生のお小遣いの範疇ではあった。

ブランド物ではなく、量販店のものである。


「そんなことある?」

相原家の母娘(おやこ)関係がいまいち掴めないのか、響が(いぶか)しんだような声を返した。


「ウチ一人っ子だから、お母さん私に甘いのかも?」

「う~ん、そういうことかー」

疑問形の花菜の返答に、響は暫定的ではあるが納得してくれたのかもしれない。


「また、行こう。花菜を着せ替えるの本当に楽しかった」

気を取り直した響が、そう言ってきた。


「アハハ……うん……。疲れたけど、楽しかった……。あんなに着替えたの初めて……」

今まで着ないような服に袖を通すのは、少し気分が高揚した。

絶対に買わないようなロリータ系のファッションまで響に勧められるまま着替えてしまったのは、流石に少し恥ずかしい記憶ではあったが。


「でも、次は響ちゃんも着替えてよぉ……。ズルい」

結局あのあと、花菜ばかり着せ替えられて響は一度も試着を行っていなかった。


「分かったって、今日は興奮して花菜ばっかりだったけど。今度は私も試着するから……。花菜のお願いも聞くって言ったの私だしね」

「絶対だよ」

もう、と言いながら膨れる花菜だった。


(今度って言ってくれるの……嬉しいな……)

だが心の中ではそんなことを思い、満たされていた。

今回だけではない、約束ではないが次があることを示してくれていることに喜びの感情が浮かぶ。


「お待たせしました」

そんなことを話していると、注文していた昼食が運ばれてくる。

響はオムライス、花菜はグラタンのセットだった。


「美味しそうだね。冷めない内にいただこうか」

「あっ、ちょっと待って。写真だけ撮らせてもらっていい?」

「ああ。構わないよ」

返事を聞くと、花菜はスマホを取り出してカメラを構えた。

美味しそうに見えるアングルを探して試行錯誤し、数枚写真に収める。


「花菜って、SNSとかにこういうのアップするタイプ?」

さしてそういうものに興味を抱かない響は、花菜の行動を物珍し気に眺めていた。


「ううん、調理部でこういうのシェアするために撮ってるだけだよー」

「ああ、なるほどね」

花菜は自身のグラタンだけではなく、響のオムライスまで写真に収めて満足げな表情を作る。


「ごめんね、お待たせしました」

それほどかからず花菜はそう言いながら、いそいそとスマホを仕舞っていた。

友人や家族とだと一緒になって写真を撮ったりするので気にならないが、こう一方的に見詰められることはないので少しの申し訳なさがあった。


「いや、いいよ。なんか新鮮で面白かったし」

響はそんな花菜を笑顔で見守っており、言葉通り嘘偽りなく新鮮だったようだった。


「じゃあ改めて、食べようか」

「うん」

「「いただきます」」

食べ始めると暫く、二人の会話は鳴りを潜める。

花菜は熱いグラタンを冷ましながら食べていると、響からの強い視線を感じる。


「…………?」

「花菜の美味しそうだね。というか、花菜って美味しそうに食べるよね」

なにごとかと響に視線を返すと、そんな言葉が飛んで来る。

自分はそんなに美味しそうに食べていただろうか。


「うん、美味しいから……」

「一口貰っていい? 私のも一口あげるからさ」

「あ、うん。どうぞ」

花菜はグラタンのプレートを響の方へと差し出す。


「そうじゃなくて……」

(?)

花菜はこのときになって、首をひねった。


「あーんって、してくれないの?」

悪戯(いたずら)っ子のように微笑んで、響がおねだりしてきた。


「えっ……ええーっ……」

花菜は、響がこの仮初の恋人をどのように捉えているのか距離感が分からなくなるときがある。


「今は恋人同士だし、それに女子同士なら普通でしょ?」

そう言われると弱い。

自分が意識し過ぎているだけな部分も確かにあるのだ。


そうなのだ、自分が意識し過ぎているだけだ。

こんなこと女子同士なら普通なことではないか。

花菜はそう決心すると、グラタンを一(すく)いして少し自分の息で冷ましたら腰を浮かして向かいの席の響へと差し出した。


「あっ、あーん……」

「あーん」

響が自分の使っていたスプーンに口を付けると、グラタンを絡めとり咀嚼(そしゃく)する。


「ん、やっぱり美味しい。花菜が美味しそうに食べてたから」

「ええっ、本当にそんなにだった?」

「そんなにだった」

響が笑いながらそう答えた。

花菜は自分が食べているところなど客観視しないので、そんなことを言われると純粋に照れくさい。

響とのデートで気を張っていたのが、会話が途切れて少し気が緩んだのかもしれない。


「今度は私の番だね」

そう言うと、自分のオムライスを一掬いして同様に花菜へと差し出してくる。


「ほら花菜、あーん」

(うわっ! 何これ、恥ずかしい! 自分でやるより恥ずかしい!)

花菜は自分がしたことの重大さを我が身で思い知ることになる。


「わっ、私はいいから……」

「そんなこと言ってないで、ほら。ほーら」

「ううっ……」

やんわりと断るが、響が引く様子が見受けられない。

響の性格からして、これはなんとかして実行しなければいけない状況であろうことが伺える。


「あっ、あーん」

意を決した花菜が口を開けると、響が使っていたスプーンと共にオムライスが口内に飛び込んできた。

ここまで来ると花菜も欲望に忠実になってしまうのか、オムライスを絡め取りながらスプーンを舌で舐めとった。


(響ちゃんと……間接キス……!)

オムライスを咀嚼して味を堪能しながらも、花菜はどこか上の空になってしまっている。

顔が真っ赤になっているのが自分でも分かった。

それを眺めて響は終始ニヤニヤと笑っている。


「フフッ、間接キスだね」

「~~~~!!」

言葉にされて、耳まで真っ赤になってしまうのではないかと紅潮していくのを感じる。

思わず(うつむ)いてしまう。

ドキドキが体を駆け巡って止まらない。


「花菜はこういうのって嬉しいの?」

「…………」

外していた視線ををはたと響と合わせる。

悪戯っ子の瞳。

でも、どこか自分を(いつく)しむような瞳。


「嬉しいの?」

「…………。は、はいぃぃ……」

繰り返される質問。

響の瞳に圧されるように、絞り出すように……だが素直に言葉を口にした。

好きな人と触れ合える喜びを噛み締めながら。


「シェアする感覚って分からなかったけど……。こういうのもいいものだね」

響はしみじみといった感じで言葉を口にする。


「私って、家族とでも好きな物って自分で独り占めしたくなっちゃうタイプだったから」

響は独占欲が強い。


「でも、花菜とならシェアするの悪くないかも」

それなのに、自分を特別のように言ってくれる。


「やっぱり……響ちゃんが本当に恋人だったら良かったのに……」

思わず、言葉にしてしまう。


「花菜は、本当に私のこと好きだね」

そんな花菜の言葉も、響は軽く受け取って(ほが)らかに笑う。


その笑顔を見て、花菜は勝てないなと感じた。

そんなこと、自分は頷くことしかできはしないのだから。

響の前で、自分はよほど馬鹿になってしまう。


「花菜って、さっきも言ってたけど調理部なんだよね?」

そんな心持を気にした風もなく、響がそう切り出した。


「うん、そうだね」

なので、花菜も気にしないよう努めて返す。


「花菜の手料理って……食べれたりしないかな?」

「えっ」

おずおずと聞いてくる響に、花菜は思わずといった声をあげる。

願ってもないことなのだ。

好きな人に自分の手料理を披露(ひろう)する。

気恥ずかしいが、夢の一つだ。


「部活で作るのも、急に響ちゃんが来るのはなんだか無理があるし……」

思案してみるが、学校ではどうにもなりそうにないだろう。

秘密の関係である以上、芳川響がいきなり調理部に来るなど言語道断である。

となると、家に響を呼ぶぐらいしか花菜には思い付かないが……。


「ウチに作りに来てくれたりしない?」

「へっ?」

思案していると、響側からお誘いが来た。


「いいの? あ、でも……ご家族になんて言おうか……?」

花菜としても響の生活圏に興味はあるし、お呼ばれされるなら願ってもないことだった。

だからといって、いきなり娘の友人が台所を借りて料理を振る舞うのはどうかと花菜的に躊躇(ちゅうちょ)があった。


「あ~……」

質問に、響がそういえばと視線を外して言葉を濁す。


「これは別にわざと言ってなかったとかじゃないんだけど……」

バツが悪そうに言うので、花菜は首を傾げた。


「私って一人暮らしなんだよね」

「えっ」

毎日話していたが、初耳であった。

ということは、一人暮らしの響の部屋にお呼ばれすることになるのかと花菜の中に衝撃が走る。


「だから、家族のことは気にしなくていいよ。二人っきりになるけど……まぁなにかあるわけじゃないし」

「あっ……うん……。そうだよね、なんにもない……なんにもないよね……」

花菜の頭が一瞬でピンク色に染まりかけたが、無論そんな展開があるわけではなかった。

自分達は秘密の約束で恋人になっているのだから。


「それとも、花菜と二人っきりだとなにかあるの?」

「ありませんよ⁉」

「でしょ」

思わずといった風に否定する花菜に、響が笑って返す。


「また、楽しみが増えちゃった。あ、でも花菜が来るなら掃除しなきゃだね」

響は嬉しそうに、未来予想図を描いているようだった。


「でも、一人暮らしなら響ちゃんもお料理できるんでしょ?」

花菜は当然の疑問を口にした。


「え? いや、多少は……うん……」

「へっ?」

「いや~、まぁほら? 今は便利な世の中だからさ」

突然響の口が重くなってしまう。


(????)

「まぁ、気にしないで」

響はこの話はおしまいと軽く流してしまった。

花菜は何事か分からず、更に質問することができない。


そんな会話をしながら、昼食を食べ終えた二人。

午後からは雑貨などのウィンドウショッピング、他にも遊技場などを巡って満喫するのだった。

花菜にとって、幸せで忘れられない一日。

好きな人と一緒に過ごした、掛け替えのない時間。

初めて、デートをした日。

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