10 初めてのデートで待ち合わせ
花菜はデート当日、集合時間の30分前には集合場所に到着していた。
時間に余裕はあったのだが、集合場所自体が地元ではなかったのもあるが……いてもたってもいられなかったのだ。
花菜達が住む地区からは少し離れた大きな駅では休日ということもあり通勤する人々はあまり見受けられず、部活に行くであろう学生や花菜と同じ休日を過ごすために出掛けてきた人達が人の流れを作っていた。
まだそれほど遅い時間でもないためか、息苦しいほどではなくまばらに人が流れていく。
(変じゃないかな……)
自身の服を見下ろし、本日何度目になるか分からない不安に苛まれた。
今までファッションなど気にせずに生きてきたため、服など家族で買いに行ったときに買った服や通販などが殆どだった。
こんな日が来るならもう少し気にすればよかったと後悔が立つ。
しかし、気合を入れすぎるのもそれはそれでどうだろうという思考にも捕らわれた。
そんな思惑が混在し、本日は無難な色のブラウスとスカートというコーデに落ち着いた。
そんなことに頭を悩ませていると、鞄の中のスマホが震えた。
《もう少ししたら着くよ》
画面を確認すると、響からのメッセージであった。
《私も、もう着くよ》
実際にはもう着いている。が……早くに着いていることを悟られまいと、曖昧に返した。
花菜は開いたメッセージの画面の履歴を遡り、響との会話に思いを馳せた。
メッセージでの他愛ない会話や、何度も交わした通話の履歴が目に入ってくる。
通話の内容も響からすれば取るに足らない内容なのだろうと花菜は考えている。
花菜からすれば、ただの一つも取りこぼすまいと必死だった。
なにもかもが、かけがえのない言葉であった。
仮初でも響が恋人でいてくれること、そのことは花菜にとって……。
「花菜!」
花菜が響のことで頭をいっぱいにしていると、渦中である人物の声が聞こえた。
「響ちゃん」
視線を動かすと、シャツにパンツスタイル、更に髪を結ってポニーテールにしている響がこちらに駆け寄ってくるところであった。
(待ち合わせって、なんかいいな……)
外出先で好きな人が自分に駆け寄ってくるのを見て、花菜は胸が高鳴るのを感じた。
それに通話ではなく実際に会って話すのは久しぶりである。
「早いね? 待ち合わせまで、まだ結構時間あるよ? 待った?」
「ううん、全然。さっきもメッセージで言った通り、私も今来たところだから」
花菜は笑顔で答えた。
花菜は待っている間、確かに不安だった。
ただ、それ以上に花菜の中には大きな感情があった。
響とデートができるという、何にも代えがたい喜びである。
(わぁ、響ちゃんの私服だぁ……それに髪型! 新鮮!)
事実花菜は目の前の響に夢中になって、不安より喜びが既に上回っている。
「本当?」
「うん!」
響も花菜の笑顔につられて笑顔になる。
そして顔を寄せると、
「なんか、今の会話デートっぽいね」
そう囁いてきた。
「そ、そうだね……」
その言葉に、急に照れの感情と緊張が蘇ってきた。
「外行きの花菜新鮮。かわいい」
更に追い打ちをかけるように、響が言葉を紡ぐ。
「響ちゃんこそ、綺麗で素敵……」
「そうかな? 綺麗って言われるの……いまいちよく分からないんだけど……」
本当によく分からないといった風に響は言う。
「そんなにお美しいのに⁉」
「ええっ……」
響の容姿は客観的に見ても、美しいと評される部類であるだろう。
背が高いとまでは言わないが平均以上で、細身で脚が長くスラっとしたスタイルをしている。
本日はパンツスタイルで脚の長さも相まってか、シンプルで引き締まって見えた。
ポニーテールにしているのもあって、活動的な印象を強める。
学校では優等生で隙を見せない着こなしをしているが、本来の彼女はこういうタイプなのかもしれない。
「響ちゃんは綺麗だよっ!」
「それは、花菜目線だからじゃない?」
「そういう補正があることは否めないけどぉ……そんなことないよぉ!」
更にフォローをするも痛いところを突かれた花菜だったが、力説を崩さなかった。
「アハハ、そういうことにしておいてあげる」
そんな反論を流すように、響は笑って答えた。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
そう言うと、響は右手をこちらに差し出してきた。
(?)
花菜は差し出された右手の意味が分からず、思わず響を見詰め返してしまった。
「手、繋ぐでしょ?」
「いやいやいやいや! 誰か知り合いに見付かっちゃったりしたら、何て言うの……」
学校の知り合いでもいたら、それこそ一大事ではないかと考えてしまう。
なのだが、それ以上に好きな人と手を繋ぐという行為自体が花菜にとってハードルが高い。
「そのための遠出でしょ」
「でも、絶対じゃないし……」
「女子同士だから、大丈夫だって。花菜は考え過ぎ。ほら!」
そう言うと、響は強引に花菜の左手を取った。
心臓が跳ねる。
その日あった緊張やバレるかもしれないという恐怖、そんな物をなにもかも忘れて響の手の感触を感じていた。
幸せが手の中にギュッと詰まっていた。
笑顔の響に手を引かれ、花菜は歩き出す。
響と手を繋いで歩く街並みは、いつもと違って見えた。
花菜の歩幅に合わせてくれる、優しさが嬉しかった。
あそこに行こうと指さす笑顔が間近に見られることで胸を弾ませた。
何より手を伝って感じる響の体温が、愛おしい人の温もりをくれた。




