01 相原花菜とお昼と
春が終わり気温が高さを増し、夏の到来を思わせる気候が多くなってきていた。晩春から初夏にかけて、日差しの強さが季節の変わり目を感じさせた。
アスファルトの照り返しの中、気休めのように植樹された針葉樹に囲まれた高等学校の校舎があった。
外観はくすんだクリーム色の塗装のコンクリートの罅が目立ち、欄干の汚れが培った年月を感じさせた。
そんな校舎の2年Bクラスの教室。
昼のチャイムが流れ教諭が教室をあとにすると、生徒は各々の席で弁当を広げる者や、仲のよい者同士で集まる者、購買や学食に行く者とで賑やかさを増していた。
男女とも白のワイシャツに紺のブレザー、グレーのスラックスにスカートの制服であったが、季節がら上着の着用者はまちまちであった。
男子はネクタイ、女子はリボンであったが、男子は着崩している者が散見された。
「相原さん、一緒に食べよう」
ざわつく教室の中で、一人の女生徒が昼食の誘いをかけてきた。
「うん、一緒しよう」
少し色素の薄めといっても黒髪といって差支えない程度の髪を肩口より少し長めに切り揃えた相原と呼ばれた学生、相原花菜は女生徒の誘いに応えた。
花菜はいそいそと自分の席を寄せて、鞄からお弁当を出していた。
花菜はブレザーを羽織って、リボンをきちんと留め、スカート丈も既定のまま。
優等生然としている。
だが背丈は平均身長より低く、少しだけ制服が大き目なのか着られている感があった。
少し幼顔なのも相まって、見た目は人好きのするものが感じられた。
「私もね」
もう一人の女生徒が花菜の方へと近くの席を寄せてくる。
この学校には購買と学食がある。
このクラスではおおよそ、学食、購買、弁当と派閥が分かれる。
今集まってきた二人とは、弁当派閥の女子が集まってできた昼グループと言える。
そんな折、もう一つの机が強引に近付けられた。
「じゃあ、俺も一緒に混ぜてもらってと」
一人の男子生徒が当たり前かのように女子の輪の中に入ってくる。
「吉田、相変わらずだね」
「いいじゃんいいじゃん。お邪魔しないんで、さぁ続けて続けて」
友人に吉田と呼ばれた生徒、吉田和樹は飄々としながら自分も昼食の準備を始めていた。
「和樹くん、そんなこと言いながら大体話に割り込んでくるじゃない」
毎度のことなので、お約束のように花菜が窘めた。
「そういうこともあるさぁ」
このクラスになって以来和樹は昼食を常に花菜と共にとっているので、悪びれた様子もない。
「あんたら本当に仲いいね」
二人のやり取りを見て、友人が呆れたように言う。
「幼馴染パワーってヤツですよ」
和樹が言う通り、二人は家が近所で幼馴染であった。
それこそ、幼稚園、小学、中学、そして高校までも同じというなかなか堂に入った幼馴染である。
別々のクラスになることもあったが、その間も和樹が花菜によく会いにくることもあって学校での縁がなくなることはなかった。
それに加えて家族での親交もあり、和樹は花菜にとって数少ない気の置けない男子の一人である。
「相原さんも、こいつのこと甘やかしちゃダメだよ……」
「ええっ……そんな甘やかしたりなんてしてないよぉ」
「こいつ、絶対相原さんに対してつけあがるよ」
花菜は大人しく少し気が弱いタイプだと思われている傾向があるのか、友人達に度々心配されている。
「なんだなんだ、今日はいつにも増してってヤツですか?」
和樹にケロリとした様子で、花菜と友人とのやり取りに横やりを入れている。
「和樹くん、案外真面目さんなんだよ……。部活だって頑張ってるし……」
そんな友人の言葉に、なんとか花菜はフォローを入れようとする。
「そうだぞ、俺はこれでもサッカー部のレギュラーだぞ。もっとちやほやされたり、もててもいいんだぞ?」
和樹は自身が言う通り運動部に所属しており、体格もガッシリしているし背丈も高い。
短く切りそろえられた髪から除く顔も、それほど悪くはない。
「いやいや、そういうんじゃなくてさ……」
だがこの場合、少々論点の見当が違う。
そんな和樹に対して、友人達は二の句がなかった。
「相変わらず花菜の弁当は美味そうだな、その卵焼き一個くれよ」
そんな友人達の話を他所に、和樹は花菜の弁当のおかずに興味が向いていた。
「ダメだよ、和樹くんにはおばさんが作ってくれたお弁当がちゃんとあるでしょ」
花菜は自分の弁当を取られまいと懸命に死守する。
「ちぇーっ、けちー」
和樹はそんなことを口にしながらも、自分の弁当に口を付けていた。
「それに、今日は調理実習があるでしょ? 少な目にって話じゃなかった? 和樹くんのお弁当いつも通りに見えるけど……」
本日は午後から調理実習があり、昼食に関しては控えめにという事前連絡があった。
和樹の弁当は、運動部なこともあってかそれなりの量がある。
「食べられるなら、いくらあってもいいっすねぇ」
「食べ盛りだねぇ……。そういうのは、おばさんと相談してください……」
「いやいや。こればっかりは、花菜の料理が美味そうなのが悪いだろ」
「もう、褒めても何も出ないし。あげないよ」
そう言いながら、花菜は先程取られそうになった卵焼きを頬張った。
花菜は弁当を自作しており褒められて悪い気はしないが、それとこれとは話が別であった。
(いや、こんなことしてるからもてないんでしょ……)
とは友人二人、心の中だけに留め置くことにした。
実際二人の距離間がおかしいのか、二人が付き合っているのだと思っている者も多数いた。
本人が否定しようが、照れているだけなんだなと思う人間までいる。
友人二人に関しても、半信半疑であった。
だが、実際は付き合ってなどいないのである。
このことが防波堤になってか、花菜に告白しようとしてくる猛者はいなかったし和樹も同様だった。
初投稿になります。
拙い部分もありますが、何卒よろしくお願いします。




