後編
大沼希江子と目が合った瞬間、米良は激怒した。
彼女は目を剥いて叫びながら家の中へと飛び込む。
「おい! 何ガンつけとんねん! ちょい表に出ろやァッ!」
リュックサックからネイルハンマーを引き抜いた米良は、手当たり次第に家具や壁、床を殴って破壊する。
容赦ない暴力がテレビを粉砕し、テーブルに穴を開け、窓ガラスを砕き割り、冷蔵庫を陥没させた。
ゲラゲラと大笑いする米良は、ネイルハンマーを振り回して室内を駆け回る。
「ギャハハハハハッ、全部ぶっ壊したるわ!」
米良がふと足を止めて、二階へと続く階段に注目する。
そこには大沼希江子が立っていた。
大沼希江子は僅かに浮遊すると、金切り声を上げて米良に飛びかかる。
米良は嬉々としてネイルハンマーを振り上げた。
「来たなボケコラァッ!」
渾身のフルスイングが大沼希江子の頬に炸裂した。
肉が抉れて歯が飛び散る。
悲鳴を上げる大沼希江子が転倒し、そこにネイルハンマーの追撃が襲いかかる。
「こんなザコが国内トップクラスかいな! 悪霊のレベルも下がったもんやわ!」
滅多打ちにされた大沼希江子は白目で痙攣している。
米良は凶悪な笑みでリュックサックを漁り、再びダイナマイトを取り出した。
「ええで、新感覚を教えたるわ」
米良は大沼希江子の尻にダイナマイトを差そうとする。
ところが不可視の力が彼女を吹き飛ばした。
壁に激突した米良は、間髪入れずに回転し、今度は天井にぶつかる。
そこからさらに床へと叩きつけられ、凄まじい力で押し潰されそうになる。
全身の骨を軋ませながらも、米良は気合で抗ってどうにか立ち上がった。
「ぐおおおおおおおおぉ……」
鼻血を垂らす米良は一歩ずつ大沼希江子に迫り、その胸倉を乱暴に掴んだ。
彼女は絶叫に近い勢いで怒鳴り散らす。
「こんなヘボ念力で、殺されるかァッ!」
叩き込まれたネイルハンマーが大沼希江子の額を打ち抜く。
霊体の頭部が霧散し、そこから黒い靄が噴出した。
同時に断面から蠢く髪が飛び出して米良に押し寄せる。
「……っ!?」
米良が身構えた直後。髪が発火して床に落下した。
苦しむようにのた打ち回って端から蒸発していく。
頭部を失った胴体も同様に消えつつあった。
そこに現れたのは数珠と蝋燭を持った海老原だった。
「結界の構築が完了しました。弱っていたので即死したようですね」
「おう、お疲れ。もっと早うやってくれたら楽やったのに」
「あなたが勝手に突撃したんでしょうが……」
ぼやく海老原は、白いハンカチで髪の残骸を包んでポケットに仕舞う。
それを見た米良が尋ねる。
「悪霊コレクションなぁ……次は何に改造するん?」
「自動防御型にしようかと思います。安全第一ですから」
「何言っとんねん。殺られる前に殺ったらええやろ」
「その脳筋スタイルやめましょうよ……」
海老原は深々とため息を吐く。
袖で鼻血を拭った米良は「なはは」と笑った。




