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第9話 深層の白と影の呼び声

白い。


最初に認識したのは、それだけだった。


光でも闇でもなく、

ただ境界のない“空白”が広がる世界。


足も地も感覚が曖昧で、

身体が浮いているのか沈んでいるのかさえ分からない。


(……またここか)


深層――

いや、もっと“奥の層”だと直感する。


昨日見たのと同じ白の世界。

だが、今回は前よりも“はっきり”していた。


胸の奥に、小さな痛みが走る。


(……呼ばれてる)


白の世界の中心で、黒い何かが揺れた。


最初は影の塊だった。

だが、近づくにつれて“形”を帯びていく。


揺れる黒い線がまとまり、

輪郭が、手足が、身体が――

俺と同じ形をつくりあげる。


黒い影が俺へ向かってゆっくり歩く。


顔の部分だけが“穴”になっていて、

何も映らない空白なのに……見られている気がした。


そして影は口を開く。


「ようやく……来てくれたね。」


声は、俺自身の声だった。


少し幼いような、

少し疲れたような――

そんな響き。


「お前……誰なんだ。」


問いかけると、影は楽しそうに笑う。


「誰って……“僕だよ”。

 君が忘れた、もうひとつの“僕”。」


理解できない。

けれど、言っている意味がなぜか分かる気がした。


影は一歩近づき、白い床が波紋のように揺れる。


「シン。

 君は本当の名前を“置いて”ここに来た。

 だから世界の外側に落ちた。

 本来いるはずだった場所じゃない。」


胸が強く痛む。


影は続ける。


「深層の奥……“原層”では、すべてがひとつだった。

 そこから落ちてきたのが、君だよ。」


(俺が……落ちた?

 どこから……?)


頭の奥で思考がざわつく。


影はゆっくり手を伸ばし、俺の胸元へ触れようとする。


「思い出して。

 僕らが“ひとつ”だった頃を。

 本当の名前を。」


指先が触れそうになった瞬間――


「シン!!」


現実の声が世界を割った。


白い空間に亀裂が入り、

そこから現実の森の色が溢れ出す。


影の表情が、初めて揺れた。


「……邪魔をするんだね。」


裂け目の向こうで、ルフェリアが手を伸ばしていた。


「シン! 早く戻って!!

 そこは“原層の入口”よ!!」


影が俺の腕を掴む――直前で、白の世界そのものが崩れ落ちた。


影は裂け目の向こうへ吸い込まれる。


その最後の瞬間、

影の俺が確かに囁いた。


「必ず迎えにいくよ。

 君が……戻るまで。」


世界が反転した。



◆ 現実へ


「シン! しっかりして……!」


視界が戻ると、ルフェリアが必死に俺を抱きとめていた。


森の空気は乱れ、粒子が散っている。


「……はぁ……っ……」


呼吸が追いつかない。


身体の奥が、まだ白の世界と繋がっている気がする。


ルフェリアが震える声で言う。


「影の……あれは、深層の存在じゃない。

 もっと……もっと下の層。

 あなたを“取り戻し”に来ていた。」


「取り戻す……?」


「ええ。

 あなたの“本来いた場所”に。」


胸の奥で、黒い線が静かに震える。


(本来いた場所……?

 本当の名前……?

 影の俺……?)


視界が少し揺れた。


ルフェリアが手を握りしめる。


「大丈夫。

 シンは、ちゃんとここにいるから。」


その温度だけが、

深層の残響から俺を引き戻していた。


だが胸の奥では、別の声がまだ響いていた。


――戻ってこい。

――君の名前を思い出して。


影は消えていない。


むしろ、より深く俺へ繋がった気がした。


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