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第2話 真相を見る目

寝不足のせいにできればよかった。

でも、昨日感じたあの“影の揺れ”は夢でも幻でもない。


歩道の粒子。

動いた影。

そして、名前を呼ぶ気配。


どれも、頭のどこかに貼りついたまま離れない。


(……何だったんだ、あれ)


学校へ向かう道。

いつも見慣れた風景のはずなのに、今日は色が薄い。


街のざわめきも、車の音も、まるで薄い膜越しに聞こえるようだった。


信号待ちでぼんやりしていると、

ふっと視界の端に黒い“線”が走った。


(また……?)


振り向くが、そこには何もない。

ただ、胸の奥で微かにノイズが震えた。


――パチ。


昨日と同じ音。


思わず立ち止まる。


「……聞こえるの?」


不意に声がした。


振り返ると、そこに立っていたのはひとりの少女だった。

銀色に近い淡い髪。

透き通った瞳が真っ直ぐこちらを見ている。


知らない顔だ。


「いま、ノイズが走ったでしょ?」


「え、あ……まあ……」


驚きが声に出なかったのは、相手の雰囲気のせいだろうか。


少女は少しだけ微笑んだ。


「なら、やっぱり“視えてる”のね。」


「視えてる……何を?」


「世界の歪み。

 普通の人には届かない“深層の揺れ”。」


彼女は当たり前みたいに言う。


(深層……?)


俺が黙ると、少女は首をかしげた。


「名前、まだ言ってなかったわね。

 私は――ルフェリア。」


そう名乗った声は、不思議な透明感があった。


ルフェリアは俺の目を覗き込むようにして、ゆっくり言葉を続けた。


「昨日の夜……あなた、影に触れたでしょう?」


心臓が跳ねた。


(なんでそれを……)


言葉が出ない。


ルフェリアは淡々と告げた。


「あれは“シャウル”と呼ばれるもの。

 未処理の感情が形になった残渣みたいなものよ。」


「感情……?」


「ええ。

 でも、最近はただの影じゃ済まない歪みが増えている。

 まるで何かに“煽られている”みたいにね。」


昨日の呼び声が頭をよぎる。


――戻ってこい。


あの声は感情なんかじゃなかった。

もっと深いところから響いていた。


ルフェリアは森の方へ視線を向ける。


「あなたが触れた影……深い場所に繋がってた。

 普通の人間なら、気づいた時点で引きずられてる。」


「……じゃあ、俺は?」


ルフェリアは静かに言った。


「あなた、境界が“開いて”るの。

 だから深層が見える。

 本来、こんな世界の『奥』なんて視えないはずなのに。」


わけが分からない。


けれど、嘘を言っているようには見えなかった。


ルフェリアは優しい声で続けた。


「大丈夫。

 あなたには、まだ何も起きてない。

 ただ……影はあなたを放っておかないはず。」


その言葉に背中が冷たくなる。


ルフェリアが歩き出す。

まるで導くように、森の方向へ。


「行きましょう、シン。

 あなたが昨夜見た“揺れの根”を確かめないと。」


「なんで俺の名前……」


「あなたの“名前”に反応したのは、影だけじゃないわ。」


振り返った彼女の瞳には、

どこか悲しげな光が揺れていた。


「深層は……あなたを“知っている”。」


その一言で、息が止まった。


何かが始まってしまった。

そんな確信だけが、妙にはっきりしていた。


俺は、ルフェリアの後を追った。



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