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第10話 境界の軋み

影の亀裂が閉じた後も、世界は完全には戻っていなかった。

街の喧騒は聞こえるのに、どこか半拍ずれてついてくる。


(……まだ、ズレてる)


足元の影がふわりと揺れた気がした。

だが地面の影は動いていない。

揺れたのは、胸の奥で震える“黒い線”の方だった。


「シン、大丈夫?」


ルフェリアが横で支えてくれる。

彼女の温度だけが確かで、現実へと繋ぎ止めてくれている気がした。


「……なんとか。でも、世界がまだ変だ。」


「仕方ないわ。深層に触れたんだもの。」


ルフェリアは息を整えて、静かに続ける。


「さっきの影……“原層の縁”に近いわ。

 普通の人なら、触れた瞬間に戻ってこられなくなる。」


「俺は……まだ大丈夫なのか?」


「大丈夫。でも――境界が揺らいでる。」


「境界?」


「ええ。あなたをこの世界に“固定”する線。

 それが今、少しずつ薄くなっている。

 影に呼ばれやすい状態なの。」


胸の奥が冷たくなる。


(影のシン……)


耳の奥に残る声がまた震えた。


――戻ってこい。

――君は半分だ。


言葉だけで胸が軋む。


「ルフェリア……俺、なんなんだ?」


小さく揺れる声に、ルフェリアは目を伏せた。


「本当は、もっと後で話すつもりだったわ。でも……

 今のあなたを見てると、もう隠せない。」


彼女は一度息を吸い、俺の目をまっすぐに見る。


「シン。あなた……“視えてる”のよね。」


「……ああ。影の線とか、感情の根とか。

 形じゃなくて、構造で分かる。」


するとルフェリアは言った。


「その力、正式には――

 《構造視ストラクチャーサイト》 って呼ばれているの。」


風が止まったように感じた。


名前を与えられた途端、

曖昧だった“感覚”が確かな輪郭を持ち始める。


「深層の揺れ。その奥にある感情。

 普通の人には絶対に視えない。

 それが視えるのは……“深層と同調しやすい”証拠。」


「だから影のシンに……呼ばれたのか。」


「そう。

 あれはあなたを“戻したい”のよ。

 本来いた場所に。」


「……俺の本来いた場所ってなんだよ。」


「それは……私にも分からない。

 でも影は確信してる。

 あなたが“半分”の存在だって。」


胸の奥で、黒い線が小さく震えた。


街に近づくほど、ざわつきは強くなる。


ルフェリアが突然足を止めた。


「……シン、感じる?」


「……ああ。街の気配が変だ。」


建物の影が、一瞬だけ二重に揺れた。


風は吹いていない。

なのに影だけが、まるで深層の“黒”を飲み込んでいるようだった。


――パチ。


空気の端で、森で聞いたあの音が弾けた。


「これ……」


「ええ。誰かの“未処理の感情”が街で溢れ始めてる。

 新しい影が、生まれかけてる。」


胸の奥の黒い線がまた震える。


――迎えにいく。


影のシンの声が、笑うように響いた。


(……まだ終わってない)


深層の残響は、街の影へと静かに染み込み始めていた。


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