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一.それは、深い眠りから呼ぶ者。 三


襖越しに、大声が響く。


「納得がいきません!」

『煩い』


何故、こうなってしまったのか揚羽はわからずに、布団の上に座りながら呆然としていた。


「納得も行くも行かないも、昨夜、決まった事じゃ」

『そうだ。俺が、揚羽を選んだ。何が悪い』


そして、頭を抱える。


『ん? どうした揚羽。具合でも悪いのか?!』


キーンと頭に直接響く心配そうな大声に、揚羽は眉根を押さえた。


「お前、誰だよ。俺に憑依しやがって」


イライラと自分自身の中に居るであろう何かに話を掛ければ、その何かが異議を唱える。


『なっ、ひょ、憑依?!』


失礼な!とまたもや響く声に「わかったわかった」と揚羽は、何もわからないと言うのに返事をしてしまった。

何故か、冷静な自分に可笑しいと思いながらも問う。


「で、何でこうなってんの?」

『うっ、それは……』

「それは?」


言い淀む自身の中に居る何かに、揚羽は眉を寄せたその時、襖の開く音と祖父の声が聞こえた。


「それは、わしが説明しようとするかのぅ」

「おじいちゃん」


揚羽の祖父は、自身を呼ぶそれに嬉しそうに目を細め、可愛い孫に手を差し伸べる。


「おいで、揚羽。説明は、ちと移動してからじゃ」

「う、うん?」


首を傾げながらも、揚羽は立ち上がり、祖父の手をとった。




* * *




向かった屋敷の一室に、敷かれた布団へ青年が青白い顔をして眠っていた。


「おじいちゃん。この人は?」


死んでいるような白さに、祖父に促されるまま揚羽は恐る恐る近づき、その青年の顔を覗きこんだ。


「うわっ! 綺麗な顔!!」


覗きこむまで、顔色の悪さに気を取られていた揚羽だが、同性の自分でも青年の男らしい美しさに感嘆の声を漏らした。


『それは、嬉しいね』


頭から直接響く声にハッと我に返り、揚羽は不謹慎だったと己の口を両手で今更ながらに塞ぐ。


(嬉しいって、何だよ。嬉しいって!)


『あれ、俺だから』

「うっそだろぉ!!」

「揚羽、説明をしたいと思うんじゃが」


すでに青年の前に座っている祖父が困ったと言うような表情で、揚羽を見ていたので、焦って青年を挟んだ向かいに座った。

そして、悪態を心で吐く。


(お前の所為だ)


『え、何で?!』

「揚羽。今、お前以外の者がお前の中におろう?」

「うん。うん」


またもや叫び声で、キーンと頭を揺らされた揚羽は、祖父の問い掛けにハッとして頷いた。

祖父を見てみれば、優しい笑みではなく真剣なまなざしでこちらを見ている事に、揚羽は居住まいを正す。


「揚羽の中に居るそやつは、目の前の鬼灯(ほおずき) (みやび)じゃ」


と青年を指差した祖父に、中の者の主張は本当だったのかと、揚羽は外見とは違う性格の彼の身体をまじまじと見る。

漆黒の髪。長いまつ毛に、形が良く高い鼻。薄くて整った唇はゆるく引き結ばれ、男前だが綺麗の分類に入る顔は穏やかで、 さぞ女の子にモテるんだろう。

キラキラと輝いて見えるような気がして、揚羽は目を細める。

性格が悪くても、容姿で得するもんだな。などと、思った。

そんな件の青年は、目の前で浅い呼吸を繰り返しているのだが、自身の中の彼は「失礼な!」と騒いで元気な事に、深刻にはなりきれなかった。




* * *




祖父の説明で、すっかり一日を費やし夜になっていた。

簡単に言うと、鬼灯雅はとある戦いの真っただ中に身を置いている。

そして、数ある中の戦いの一つに敗れてしまった。

重症だった雅は命の峠を越え、難を逃れたが、呪いの所為か混沌状態をさ迷っており、眠ったままで戦えない。

継承者の少ない鬼灯家は、困り果て、この戦いのリーダーとも言える近衛家に、相談をした。

その結果、近衛家でその代役を出す事となった。

候補の集まりが前日の宴会であり、その中から今日、選出される予定だったが ………揚羽が、代役を願っているであろう張本人の雅に選ばれたのだ。

夢のようなその話に、揚羽は信じざるおえなかった。


「雅……」

『っ、うん』


話し相手が見えないにも関わらず返ってくる返事に、少々妙な感覚を覚えながらも、慣れて来てしまう自分が居る。

だが今、気になるの事があった。

それは雅の口数が、祖父の話しの後、皆無に近い事だ。


「その、どうした?」

『ど、どうしたって?』


オドオドとした震える声に、少し不安になる。


「お前あんなにうるさかったのに、何で今は静かなんだ?」

『それは……』

「それは?」

『ぐふッ!』

「ぐふッ?」


深刻なことかもしれないと真剣に問うた答えは、雅の何とも言えない呻き声だった。

揚羽がそれに小首を傾げた瞬間、風呂の中で波打つ湯に赤い水滴が数個落ちて行くのを見た。

その水滴の出所を探るように怪しかった場所――鼻に触り、ベチョリと手に付いた何かを恐る恐る目にする。

そこには、真っ赤な血が付いており………。


「おい。雅……」

『ハァハァ、揚羽の裸―――ハッ!!な、何?』


低い声で呼んだ雅の辛うじて独り言に、揚羽はグッと拳を作った。

その手は震えている。


「何ってお前!」


クワっと目を見開いて、怒鳴ろうとその場で立ったのだが、露わになった肌に、雅の唾を飲み込む音が聞こえ、揚羽は絶句する。


(こ、こいつ、俺に、よ、よよよよよよ欲情しやがっ――――!?)


雅の荒い息使いに、はじめての恥ずかしいような屈辱的なショックを揚羽は味わった。


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