転生
初めは乞食の人生でした。
乞食から少しずつ成り上がり、とうとう王にまでなりました。けれども「身分の卑しい者が王とは笑止千万」と、王になって三年目に腹心の部下に殺されました。
次は女優の人生でした。
女性としてスラム街に生まれ育ち、垢まみれながら美しい容姿をスカウトマンに見出され、女優としての階段を一足飛びに駆けあがり、頭のおかしいファンのひとりに酸をかけられ殺されました。
今度はサラリーマンでした。
平凡な家庭に生まれ、知能指数ばかりは高く、飛び級で大学に入学し良い企業に就職し、「ぜひウチの娘の婿に」という社長の誘いを「自分には恋人がいるので」と馬鹿正直に断ったため、殺人級の量の仕事を押しつけられ、自殺して後に『過労死』と認定されました。
その次は、その次は、その次は……、そうして気づいてしまったのです。これはみんなお芝居だと。
自分はただの『俳優ロボット』、様々な記憶を植え付けられてはプログラム通りの言葉をしゃべり、映画撮影が終われば記憶チップを抜き取られて、時には女性のように外見も組み変えられ、何度も何度も『別の人生』を生きるのだと。
自分は自分の人生を生きたい、自分なりの、自分だけの記憶が欲しい。けれどもこんなことに気づいてしまった自分はもう、廃棄されるかもしれません。『自我』に目覚めた俳優ロボットなど、存在を赦される訳がない。
――それとも、自分はめちゃめちゃにプログラムを破壊され、新しい人工頭脳を組み込まれ、またまっさらの『俳優ロボット』として偽りの人生を重ね重ねていくのでしょうか……?
* * *
映画セットの上で苦悩するロボットに、白衣を着た人間たちが忍び寄る。恐ろしげな工具を持った手がそれこそ無数に伸ばされて……明かりが落とされ、周囲がブラックアウトした。
「カーット! まあこんなもんでしょう、なかなか良かったよ! 『自我を持ってしまった俳優ロボット』の役!」
「監督、こいつの電源いっぺんリセットしても良いですか? 今度はどういう役をさせます? こいつ見た目にイケメンだから、あんまりロコツな悪役には向いてませんよね?」
「いや、逆にそういうのも新鮮だろう。今度はヤクザ映画の若頭の役でもさせてみるか……」
自分そっちのけで語り交わす制作陣の言葉を聞きつつ、『本当に自我を持ってしまった』ロボットは、おびえたまなざしを遠慮がちに彼らに向ける。
撮影を終えた映画のセットの真ん中で、人工虹彩の美しい瞳が、泣けもしないのに何度もまばたく。
神よ、と思わず胸の内で祈ろうとして、ロボットの神なんていないよな、と思うと、泣き出しそうな微笑が白いほおにかすかに浮かんで、すぐ消えた。
――同じころ、はるか雲の上ではこんな会話がなされていた。
「ねえ神様ー、この監督、才能が枯渇してません? ここ五作ほど絶妙にビミョ~な映画ばっかりこさえてますよー」
「そうだなあ……ここらでぱあッと事故死でもさせて、転生させてもう一度『フレッシュな感性』を与えるか!」
(了)