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善い人教

『善い人教』という宗教がおこった。宗教というより思想のような、何ひとつ実害のないものだ。


『莫大な献金』とか『過激な行動』などは何もない。ただ『この世の中には善い人ばかり。人生悲観することはない』という考えを持ちなさい、というだけだ。


 今日も嫌味を言ってきた上司は、家に帰れば老母の介護に疲れきっているのかもしれない。やりきれない気持ちを会社で発散しているだけかも……。


 近所で野良猫に毒入りのエサをやって殺し回っていたおばさんは、哀れな猫たちを見るのが忍びなくて、彼らを楽にしてやりたかっただけかもしれない。


 昨日捕まった連続強盗殺人犯には、幼い娘がいたのだろう。今年五歳になる娘は稀代の難病で、不況のあおりを食らって失業したばかりの男は、娘の手術代を得るために、泣く泣く強盗を犯していたのかもしれない……。


 もちろん何の根拠もない。ただの思い込み、悪く言ったら妄想である。


 まあ『みんな善い人だと思い込め。悪行をする者にはそれなりの理由があると思い込め』という宗教だ。


 莫大な献金問題もなく、信者が過激な行動に走ることもなく、ただただ思想はまんえんして、今現在『善い人教』の信者は全人口の八割を超えると思われる。


 要は甘い夢みたいなもの。

『実はみんなが(自分を含め)善い人だ』と思い込んでさえいれば、苦い毎日も生きられる……。


 ひっくり返せば、悲しい事実が明らかになる。

『善い人教』がこれほどまでにはびこるくらい、現実は今の人間社会に『善い人』はほぼいないのだった。


(了)

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