プロローグ
「ねえねえ! 最近、めっちゃ良い本手に入れたって本当?」
「うん……うーん……」
「え、何そのしぶい反応」
「良い本っていうか、何かなあ……」
「えー、他の友だちから聞いたよー? 最近ひいじいちゃんの形見で、『全ての本が一冊になった本』を手に入れたって! しかもその本、めくるたびに溶けるみたいにページが移り変わるから、本当に『古今東西全ての本』の内容がびっちり詰まってるってー!」
「うん、まあ……でもさ、その本プロローグしか書いてなくてさ。書き出しばっかり読まされんのよ」
「え、何それホントにビミョー!」
「だろー? また出だしから続きが気になんの、この本ちょっとめくってみ?」
青年はそう言って、あかがね色の絹張りの一冊の本を手渡した。友だちはそれをぱらぱらめくる。
『生贄は全身が白かった。さらさらと長い髪まで白く、練れた絹糸のようだった』
『「食ってやろうか、小娘」……わたしと初めて出逢った時、人外のお兄さんはそう言った。「黄ばんだ服にぼろぼろの素足……お前、奴隷の娘だな? 苦役に耐えかねて逃げ出して来たな」と言い当てた』
などの言葉がページごとに連なっていた。
「……いやあ、マジこれ続き気になる……でもさ、そしたら『次に読む本ガイド』みたいに使えない? 気になる順に自分で手に入れて読みゃあ良いじゃん!」
「いや、これ異世界で手に入れたらしいから、出てくる出だしがみんな異世界の本なのよ。この世界じゃあ手に入らない本ばっか」
「うおー、マジ使えねー!! しかもきちんとこの世界の言葉に『翻訳』されてんのが逆にもどかしー!!」
「そうなんよ、マジで続き気になる……だからさ、もう自分で続き書いてみようと思ってさ。いろいろ勉強しだしたわけよ」
「おお、そうなん!? 何か書けたら読ましてよ!!」
「でもさー、ひとつ悩みがあってさー。いちおうこの出だしって、異世界のとはいえ『既存の本』じゃん。仮にだよ、もし万が一『出版しましょう!』って話になった時、これ俺のオリジナルって言えんのかなって……だからさ、今この国の著作権のことから勉強してんの」
「……律儀だな。ていうか先は長いな……」
(了)




