第十話⑬
第十話は、視点が切り替わりながら話が展開します。
今回は緑原橙子です。
話は15分くらい戻ります。
(こ、ここは…… どこ?)
私のいる場所は、さっきの場所とは違うようだった。床は白いタイルに覆われ壁も白い…… バスケットボールのコートくらいの広さの空間にだった。後ろには大きな扉が、右と左にはそれぞれ2本の通路があった。
中央奥には大きな階段があり、その前に1つの人影が見えた。それは…… 青木さんだった。
「あ、青木さん!!」
私は思わず叫んだ。
「ようこそ、橙子さん…… ここは、『儀式の塔』。 あなたが先ほど居た建物の隣にある場所……」
青木さんがそう言った。青木さんの目は虚ろだった。
(やはり、青木さんはマインドコントロールされている…… 青木さんが自ら『白き光』に加わるはずがない。何とか、正気を取り戻させなければ……)
「私は『白き光』で最強の力を持つ『クイーン』……。私達の崇高な目的を達成するためには、あなたたちは邪魔者……。橙子さん、あなたも、私の力の前にひれ伏しなさい……。そして、私に蟹を捧げなさい!!」
(か、蟹…… やはり、私達だけで旅行に行ったことを根に持っていた……?)
「『マリア』……いらっしゃい……」
青木さんがそう言うと、神々しい光を放つ誓約霊が現れた。マリアと呼ばれる誓約霊は、まるで女神のようだった。
「マリアは戦場で『聖女』と呼ばれた女性……。そして、私と同じで蟹が大好き……」
(え? もしかして、青木さんとマリアの共通項って、『蟹好き』?)
「彼女は戦場では無敵だった。数多くの敵兵を倒し、常に無傷で帰ってきた……。しかし、ある時……彼女の食べた蟹が原因で食中毒になり、亡くなった……」
(か、可哀想…… なんか、マリアさん可哀想……)
私はそんなことを考えたが、気を取り直して戦闘の準備をした。
「麗亜さん!!」
私は誓約霊の麗亜さんを呼び出した。
すると、すぐに青木さんの誓約霊、「マリア」が無数の青いオーラを放った。私と麗亜さんは、その攻撃をかわす……
(はぁ……はぁ…… ダメだ……防戦一方だ……)
追撃がどんどん放たれて、私たちはそれをかわし続けた。しかし、徐々に壁際に追い詰められていった。
「く、橙子、ダメだ…… 青木さんは強すぎる。私達の力では、どうしようもない……。避けるのも難しくなってきた。私達両方ともやられてしまう……」
麗亜さんが言った。
「だ、ダメ! 麗亜さん…… 諦めないで! 必ず…… 必ず、活路はある!!」
私はそう言って、麗亜さんを励ました。
「…………そうだよな、橙子の言う通りだ」
麗亜さんは、何かを決意したようにそう言うと、青木さんに向かって走り出した。
(!!)
「れ、麗亜さん、何を……!?」
無数の青いオーラを避けながら、麗亜さんは青木さんの誓約霊マリアの元に辿り着き、羽交い締めにした。
「と、橙子、今までありがとう……。生きていたときよりも、橙子と過ごした数か月間、本当に楽しかった。橙子は、私にとって初めてできた友達だった。死んでからだったけど…… だから、私は……橙子には生きていて欲しい……」
麗亜さんがそう言うと、彼女の全身が緑色に輝き出した……。そして……
ドッガーン
麗亜さんは自分の霊力を最大限に高めて…… 自爆した。
(そ、そんな…… れ、麗亜さんが……)
爆発による粉塵が粉雪のように舞い落ちる……。
暫くして、霧が晴れるように、青木さんの姿が見えてきた。
マリアは無傷だった……。
「マリアは、最強の誓約霊……。攻撃だけなく、防御も優秀なの…… あの程度の攻撃では、傷1つつかない……」
(れ、麗亜さんが自分を犠牲にした攻撃が無駄だった……!? で、でも…… 悲しんでなんかいられない…… 麗亜さんの行動を無駄にしてはいけない!)
私は覚悟を決めた。
(青木さんは…… 青木さんは、私達の仲間なの! だから、きっと思い出してくれる…… 私の命に替えても、彼女を正気にしてみせる!)
「青木さん、思い出して! 私達が一緒に過ごした日々を!」
私はそう言うと、鼻メガネをかけてドジョウすくいをした。
「私の『ドジョウすくい』を!!」
青木さんは、呆気にとられていた。
その隙を逃さず、私はドジョウすくいをしながら青木さんに近づき、彼女に抱きついた。
「青木さん…… 私は真黒さんの探偵事務所で、あなたと働けて本当に楽しかった……。青木さんは歳上だけど、何でも話せる親友のような存在だった…… だから、思い出して欲しい…… 本当の……本当の『青木あかり』を! 私が大好きな『青木あかり』を!!」
私は、青木さんを抱きしめる力を強めた。すると、私の全身が緑色に輝き始めた。
「青木さん! 思い出して!!」
私がそう言うと、青木さんの全身から力が抜けた……。
「ほ、ほんと……うの…… わた……し……」
青木さんがそう言うと、彼女の目が正気を取り戻したように感じた……。
(青木さん…… もしかして……)
しかし……
私の期待も虚しく……
マリアの青いオーラが、無情にも私の額を撃ち抜いた……。
私の意識は、そこで途絶えた。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。





