第十話③
第十話は、視点が切り替わりながら話が展開します。
今回は緑原橙子の視点です。
私は緑原橙子。17歳の高校2年生だ。
とある事件をきっかけに、私は真黒探偵事務所でアルバイトをすることになった。
依頼を解決することもあったが、主に受付や事務所の掃除、買い出しなどの仕事をしている。
大木総合病院の事件の後、真黒さんが行方不明になって1週間が経っていた。青木さんも社長もいなくなってしまった。その寂しさもあるのだろう。私と麗亜さんしかいない事務所の中は、普段よりも広く感じられた。
「恋する乙女としては、憧れの人に1週間も会えないのは、辛いんじゃない?」
私の誓約霊の麗亜さんが、私をからかうように言った。
「そ、それはそうだけど……」
私がそう言うと、麗亜さんが言った。
「お、ついに認めたね~」
「あ、いや……その……」
私たちがそんなやり取りをしていると事務所の入り口のドアが開いた。
ガチャ
そこにはボロボロに傷ついた真黒さんが立っていた。真黒さんは、フラフラすると……
ドサッ
床に倒れ込んだ。
「真黒さん!!」
私は真黒さんに駆け寄った。
「と、橙子…… 治療を頼む……」
真黒さんがそう言うと、私は麗亜さんと共に治療を始めた。私たちの放った緑色の光が真黒さんの全身を包み込むと、すぐに傷を癒した。
(あれ? 何だろう、これ? 治療のついでに外しておこう……)
傷が癒えると真黒さんは、この1週間での出来事を話してくれた。
「類沢玖音、増田慎人、戸田愛菜は、この探偵事務所に依頼に来ていた。そして、何らかの形で『じじい』の身体に触れている」
「しゃ、『社長』の身体に!? あの人達にそんな趣味が……で、でも、そういうのって、何て言うんだ……? 『じじコン』……?」
麗亜さんが言った。
「いやいや、麗亜さん…… 違うよ、そ、そういうことではないと思う。握手したり、肩を叩かれたり、相撲をしたり……とかだと思うよ」
私が言った。
「アハハ……、そ、そうだよね、知ってるよ……私もそうだと思っていたんだよ……『じじコン』なんてあるわけないし……」
麗亜さんが言った。
私は真黒さんに尋ねた。
「『社長』の身体に触れると、どうなるんですか?」
「ああ、『じじい』に触れると個人差はあるが、霊力が大幅にアップする。霊力が上がれば誓約霊も強化される」
「え…… それじゃあ、今頃、『社長』は……」
「敵の仲間を強化するために酷使されているだろう……」
「敵というのは、チェスの人達ですか?」
「ああ……『白き光』という組織らしい……。俺の親友だった男、白城伶王が『キング』だ。奴は1か月後に『革命』を起こすと言っていた…… 俺があいつに会ったのが1週間前だから、約3週間後……」
「3週間後…… じゃあ、こちらも調査や準備の時間が取れますね」
私がそう言うと、真黒さんは首を横に振った。
「いや…… あいつが言ったことは嘘だ……。本当に『革命』が起きるのは、1週間後だろう。俺を油断させて、妨害させないようにする嘘だ」
(ひ、卑怯…… 圧倒的な小者の感じがしてきたわ…… 『キング』なのに、正々堂々と勝負しないのかしら……)
「と、ところで、真黒さんは、この1週間で何をしていたんですか?」
「ああ、『じじい』との誓約が破棄されたことで、俺の能力は格段に下がっている…… だから、新たな誓約霊を探しに行ってきたんだ」
「新たな誓約霊……ですか?」
「こいつさ……」
真黒さんがそう言うと、白い着物に白い袴を履いた、おじいさんが現れた。
(え? またおじいさんなの……? 高齢化社会とは言え、老人をピックアップし過ぎじゃない? 大丈夫かしら……)
「じじコン……」
麗亜さんが言った気がした。
「真黒さん、こ、こちらの方は?」
私が真黒さんに尋ねた。
「伶王の曾祖父さんだ。俺も曾祖父さんも、『伶王を悪の道から救いたい』という思いがあった。それが共通項となって誓約が出来たんだ。『じじい』のように身体能力は強化されないが、霊力が大幅に強化されている。それを扱いこなすための訓練をしていたら、ボロボロになってしまったんだ……」
(そ、そんなに凄まじい霊力……。確かに、真黒さんの霊力が大きくなっている……)
「因みに、何てお呼びすれば……?」
「ワシ? そうじゃな……『寿限無寿限無、五劫のすり切れ、海砂利水魚の水行末、雲来末、風来末、食う寝るところに住むところ、やぶらこうじのぶらこうじ、パイポパイポ、パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助』と呼んでくれ」
(いや、長い…… でも、何も見ずにスラスラ言えるのは、純粋にすごいと思う……)
私がそんなことを考えていると、真黒さんが言った。
「じゃあ、『ひいじい』で」
(えぇ~、そんな…… こ、この努力は……)
言い切った後はドヤ顔をしていた「ひいじい」さんが、今はしょんぼりした顔をしている。
私は話を変えた。
「『白き光』は、キング、クイーンである青木さん、大木総合病院に来た2人の男の人、あと戸田さん…… 相手は少なくとも5人以上います。それに対して、こちらは私と真黒さんだけ……明らかに戦力不足です。1週間では何も出来ない……」
私がそう言うと、真黒さんは顎に手を当て何かを考えていた。まさに、「考える人」の像のように……。暫くすると、何かを思い出したのか、「あっ」という顔をした。
「いるぞ、高い霊力を持っていて、戦力になりそうなやつが……1人」
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。
暫くの間は、午後6時に投稿します。





