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第九話⑤

 俺は、奈津紀(なつき)が死んだという現実を受け止められずにいた。だから、昨日の通夜にも参加しなかった。今日の告別式にも参加しないつもりでいた。


「本当に、行かんのか……、紅白(こうはく)

父さんが、俺の部屋のドアを開け尋ねてきた。


俺は、何も答えなかった…… いや、悲しみのあまり何も答えられなかった……。


「じゃあ、行って来る……」

父さんはそれだけ言うと、母さんと共に出掛けて行った。


 俺は、奈津紀の部屋に向かった。もしかしたら、これは壮大なドッキリで、部屋のドアを開けると、「引っかかった~」と笑う奈津紀がいるんじゃないか……、俺はそんなことを考えていた。


 奈津紀の部屋のドアを開けると、机の上には「ナパーム焼夷弾(しょういだん)の作成キット」が置いてあった。ちょうど、今日は奈津紀の誕生日だった……。


 俺は、家を飛び出して近所の公園に向かった……。家にいると、奈津紀のことをどうしても思い出してしまうからだ。


 俺がとぼとぼと歩いていると、急に声をかけられた。

「やあ、高校生探偵くん……」


 振り返ると、そこにはフードを(かぶ)った若い男がいた。俺は、知らないやつだったため、再び歩き出した。すると、

「やあ、高校生探偵くん……」


そいつは、さっきより大きい声で言った。俺は、また振り返った。しかし、もう一度確認しても、やはり知らないやつだったため、再度歩き出した。

「ちょ、ちょっと待て待て、待て~い…… 僕の登場シーンを潰すなよ! 話が進まないだろ! とりあえず、5歩くらい戻って……」


俺はそいつの言うことに素直に従った。

「そう、そう……。で、僕が『やあ、高校生探偵くん』って言ったら、『誰だこいつは?』みたいな顔をする。そしたら、俺が次のセリフ言うから……OK? 大丈夫?」

俺は(うなず)いた。


「は~い、じゃあ行くよ。はい、歩いて……」

俺が歩き出すと、そいつはまた言った。


「やあ、高校生探偵くん……」

俺は振り返り、「誰だこいつは?」みたいな顔をした。


「大切な人を失う悲しみは、どうだい……?」

そいつが言った。


(!! ……こいつ、変なやつじゃなかったのか……。ま、まさか……)


「僕の名前は田中奏多(たなかかなた)。僕の苗字に覚えがあるだろう?」


(田中…… 覚えはある……でも、どの田中だ?)


「田中」は日本で4番目に多い苗字だ。小学校でも中学校でも高校でも、同級生や他学年に必ずいた。だから、今までの俺の人生で10人以上の「田中」に出会っている……。


「ま、まさか…… 小学校のときに給食のカレーを5杯もお代わりし、その後隣のクラスにまでカレーをもらいにきた……『伝説のカレー王』の田中?」


「違う違う、僕はそんなに食いしん坊じゃないし…… カレーは好きだけど……」


「じゃあ、まさか…… 中学校のときに、トイレのウォシュレットを壊し、水が常に出ている状態にした『水の魔術師』の田中?」


「いやいや、僕はそんな不名誉な称号を得ていない。もっと、あるでしょ! 最近の……」


「ま、まさか……去年の冬に猛吹雪の中、半袖・短パンで登校してきたという『絶対零度』の田中?」


「……なんで、君の周りには変な田中しかいないの……? 仕方がない……思い出させてあげるよ。君たち高校生探偵が捕まえた『田中秀明(たなかひであき)』は、僕の兄さ」


(田中秀明…… 覚えている。俺たちが高校生探偵として初めて捕まえた、強盗事件の犯人だ)


「君たちの浅はかな探偵ごっこによって、兄は獄中で自ら命を絶った……。父や母も、身内から犯罪者が出たことで生きていく気力をなくし、自殺した。僕も犯罪者の弟として、いじめにあい、親戚をたらい回しにさせられた……。幸せだった家庭は、君たちに滅茶苦茶にさせられたんだ……。だから、君にも大切な家族を失った悲しみを味あわせて、苦しみながら死んで欲しいのさ」


「ま、まさか……お前が、奈津紀を……」


「そうだね…… 僕というよりも兄さんがだけどね……」


 田中がそう言うと、禍々(まがまが)しい気配を感じた。しかし、その気配を感じる場所には何もいなかった。


「君は霊感があるようだけど、兄さんの姿は見えない……。兄さんは『透明人間』のようなものさ。恐怖に怯え、苦しむがいい……」


 田中がそう言った瞬間、俺の腹部に激痛が走った。蹴られたような痛みだった。その後に、顔を殴られたような痛みを感じ、俺は電柱に激突した。頭から血が流れ落ちてくる。


(だ、ダメだ…… 気配は感じるが、攻撃が全く見えない……)


 その後も、俺はサンドバッグのように、田中兄の攻撃を受け続けた。


(な、何もできない…… 目の前に妹の(かたき)がいるのに……。奈津紀……すまない…… 俺は結局、1人では何もできない男だった……。情けない兄貴でごめん……)


 田中兄の猛攻が続き、俺が気を失いかけたとき、頭の中に声が響いた……。


『諦めるのか?』


(諦める……? この状況をどうしろと……)


『お前さんの人生、中途半端で良いのか……?』


(……中途半端 ……それで良い訳……ねぇだろ!!)


『ワシがお前さんに力を貸そう』


 その声を聞いたとき、俺の目の前にはあの「筋肉じじい」が現れた。


(え? じじい……お、お前かい!!)


「筋肉じじい」が俺に手を差しのべた。俺がその手を掴むと俺の全身が輝き出した。


「な、なんなんだ!?」

田中が驚きの声を上げた。


 俺はさっきよりも体が軽く感じた。身体能力が強化されたようだ。


「そんな『じじい』で、どうしようって言うんだ! 兄さんの攻撃が見えない限り、君に勝ち目はない」


田中がそう言ったとき、じじいが田中を指さした。俺は、じじいの意図を汲み取り、田中の元に全力で走っていき、思い切り殴った。


「おべふ」

田中は変な声を上げて、20mくらい吹き飛んでいった。それと共に、田中兄の気配も消え去った……。

最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。

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