第八話⑤
(そ、宗次郎……、大ピンチ!!)
「さあ、残っているのは部長だけ…… 貞子さん、やっておしまいなさい……」
ナイトこと、戸田愛菜さんがそう言うと、貞子さんが私の首を締め出した。
(く、や、やっぱり、死んじゃうの~? 宗次郎、死んじゃうの~?)
私がそんなことを考えていると、一陣の風が突然巻き起こり、戸田さんを廊下の突き当たりまで吹き飛ばした。戸田さんがいた位置には、1人の男が「デコピン」を放ったような体勢で立っていた。貞子さんが私を掴んでいた力が弱まり、私は廊下に崩れ落ちた。
(明らかに…… 探偵っていう格好をしている……。こ、この人が…… ま、まさか……)
「橙子…… よく頑張ったな…… 真黒紅白、只今見参だっちゃ」
(やはり、この人が名探偵、真黒紅白さん……。しかし…… その語尾、何……?)
「じじい!!」
真黒さんがそう言うと、
「はあぁぁぁ……」
社長が全身に力をこめ始めた。
「はぁぁぁぁぁあ」
社長の全身の筋肉が肥大化した。元の「ヒョロヒョロのおじいさん」ではなく、「ムキムキ、マッチョのおじいさん」、そう「ムキマッチョG」に……。
(え、え!? まさか、まさか……、例の必殺技をついに撃つの? 撃っちゃうの? だ、大丈夫? 病院が壊れない……?)
私がヒヤヒヤしていると、社長が構えて更に力を込めた。
ポンッ
御幣(お祓いで使う棒に紙がついているもの)が出て来た。
社長は御幣を掴むと、貞子さんの頭をポカポカと叩き始めた。すると、貞子さんの全身が段々と薄くなっていった。
『あの子に伝えて…… あなたの優しい心に私は救われたと……』
貞子さんからのテレパシーが私に届いた。
私は、貞子さんに頷いて見せた。すると、彼女は「テヘペロ」しながら昇天していった。
(か、かわいいかも……)
貞子さんが完全に消えた後……
(そ、そうだ…… 緑原さんは大丈夫か……? )
私は緑原さんに近づき、彼女の状態を確認した。
(よ、良かった……。貧血で倒れただけのようだ。すぐに回復するだろう……)
私が安心していると、真黒さんの後方に3つの人影が、突然現れた……。2人の男性と1人の女性が……。
(え? 新手……?)
「あ、あかり……!!」
中央の白い布を身に纏った女性を見て、真黒さんがそう言った。
(え、知り合い? もしかして、この人が探していた仲間……? じゃあ、敵じゃない……?)
「『ナイト』、『ルーク』…… 回収を……」
その女性が、横にいた2人の男性に言った。
「「はい」」
すると、彼らは戸田さんのもとに瞬間移動し、彼女を抱えて瞬間移動で戻ってきた。
(戸田さんが『ナイト』だったはずでは……? あの男性も『ナイト』と呼ばれていた……。『ルーク』って、チェスの話か……。ということは、『ナイト』『ルーク』『ビショップ』は2体ずつ…… ん、待て待て~い…… ということは、彼女達は敵……?)
「あ、あかり……、どういうことだ……?」
真黒さんがそう言うと、女性は青いオーラを放ち始めた。
「私は『クイーン』……、『キング』の命に依り、『ゴッド』……、あなたを迎えに参りました。」
真黒さんの質問には答えず、その女性が社長に近づきそう言った。
「え、わ、ワシ? ワシが『ゴッド』……? ワシが『神』……?」
社長が自分を指さしながら尋ねた。
「はい……、あなたが『新世界の神』です」
クイーンがそう言うと、社長は満面の笑みを浮かべ、
「行く!! ワシが『新世界の神』になる!!」
と言った。
(えぇ~!? そんな簡単に裏切るの?)
「ま、待て……」
真黒さんがそう言った瞬間、青いオーラが彼の身体を吹き飛ばした。
「紅白っち…… 残念じゃが誓約は破棄じゃ」
社長がそう言った。
「では、ゴッド…… 参りましょう……」
クイーンがそう言うと、4人と社長は消え去ってしまった。
「く、くそっ」
真黒さんはそう言って、思いっ切り壁を殴った。しかし、壁には傷1つつかず、真黒さんの拳から血が滴り落ちていた……。
「すまない…… 橙子を、橙子を頼む……」
真黒さんはそう言うと、非常階段を駆け下りて行った。
306号室
私は、緑原さんを306号室のベッドに寝かせた。
(念のため、検査をした方が良いかもしれないな……)
私がそんなことを考えていると、
「う、う……」
緑原さんが目を覚ました。
緑原さんがベッドの上で体を起こした。私は、緑原さんが気を失っていたときに起こった出来事を伝えた。
「そ、そんな…… 青木さんがクイーンだなんて……」
緑原さんは、頭を押さえフラついた。
「まだ、貧血の状態なので、無理をしない方が……」
私がそう言うと緑原さんは頷いて、それから誓約霊の麗亜さんを呼び出した。2人の身体が緑色に輝き始めると、次第に緑原さんの顔色が良くなった。
「これで、大丈夫です。さっきは、麗亜さんがやられてしまっていたので、傷口を塞ぐのが精一杯だったんです」
緑原さんが言った。
「マジで、軽率な行動してごめんな、橙子」
麗亜さんが言った。
「ううん、大丈夫……、麗亜さんが最善を考えて行動した結果だから……」
緑原さんは麗亜さんにそう言うと、私の方を向き
「誓約した人間は、誓約霊のおかげでその力を何倍にも増大させることができるんです。また誓約霊も強大な力を得ることができる」
と言った。それを聞いて、私は気づいた。
「じゃあ、社長と誓約を破棄した真黒さんは……」
私がそう言うと
「はい、無敵状態ではなくなっています……」
緑原さんが答えた。
「真黒さんは、一体どこに行ったんでしょうか……?」
私が尋ねた。
「分かりません……。でも、事務所に戻れば、何か分かるかもしれません……。大木さん……、厚かましいお願いなんですが、夜が明けたら事務所まで送っていただけませんか?」
緑原さんが言った。
私は、命の恩人である真黒紅白さんに、緑原さんのことを任されていたので、そのお願いを快諾した。
朝が来て、私達は真黒探偵事務所に向かった。緑原さんと麗亜さんは、あれから眠らずに院内の除霊を行ってくれた。眠ろうにも眠れなかったので、何かをしている方が気が紛れて良かったらしい……。
真黒探偵事務所
私達が探偵事務所に入ると、1冊の名簿が開かれていた。そこには、今までの依頼主の名前や連絡先などが書いてあるようだった。
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『増田慎人』
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『類沢玖音』
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『戸田愛菜』
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