第七話⑤
「こ、紅白っちが……、死んだ……」
真黒さんの誓約霊の社長が言った。
(そ、そんな…… う、嘘でしょ? ギャグなのに…… コメディーなのに…… 主人公が死ぬなんてあり得るの?)
「と、橙子、大変だ!」
私の誓約霊の麗亜さんが慌てて戻ってきた。真黒さんのもう1体の誓約霊であるブルーちゃんを抱えて……。ブルーちゃんは目を閉じ、苦しそうにしている。そして、その体は消えかかっていた……。
(誓約した人間が死ぬと、誓約霊は存在が消えたり、成仏したりする…… じゃあ、真黒さんは、本当に……)
「ブルーが……、ブルーが……」
麗亜さんがブルーちゃんの状態を伝えようとしたが、上手く言葉にならないようだった……。
(しゃ、社長は?)
社長は、恍惚とした表情で、昇天しかかっていた……。
「だ、ダメ~、昇天しちゃダメ~」
私は、社長の足にすがり付いた。
「橙子、どうなっているんだ?」
麗亜さんが、私に尋ねた……。
「ま、真黒さんが…… し、死んだの……」
私は、やっとの思いで、麗亜さんにそう伝えた。麗亜さんは、私の言葉に衝撃を受けているようだった。
「そ、そんな……」
(わ、私が何とかしなきゃ…… 真黒さんも、社長も、ブルーちゃんも…… )
みんなと過ごした楽しい日々が、走馬灯のように私の脳裏に浮かんだ……。
(みんな……みんな……失いたくない……。私の大切な仲間なの…… )
私は大声で泣きたかった。この辛い現実から目を背けたかった。でも、ここで逃げてはいけない気がしていた。
(だ、だから……、私は絶対に諦めない……。だから、私がみんなを守る!! )
そのとき、私の全身が緑色に輝き出した。
(え、これってあの時の……)
それは、私が麗亜さんと誓約したときの光だった。
その緑色の光が、社長を……、ブルーちゃんを……、そして、真黒さんを包み込んだ……。
「橙子、これって……」
麗亜さんの全身からも緑色の光が発せられていた。
私は確信があった訳ではなかった……。
でも、麗亜さんの右腕と右足を再生したような、あの奇跡をもう一度起こせるのではないか、と感じていた。
私は、真黒さんに駆け寄り、彼の身体を強く抱きしめた……。
(お願い…… 奇跡よ…… 奇跡よ、起きて……)
「ゲフッ……ゲフッ」
真黒さんが咳き込んだ。
((!!!))
私は、真黒さんの身体を支えながら、彼の顔を覗きこんだ。
(こ、呼吸をしている……)
私は、再び真黒さんの身体をきつく抱きしめた。私の瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちていた。
(よ、良かった…… 本当に良かった……)
「そうか…… 俺は死んでいたのか……」
私は、真黒さんが意識を取り戻した後、洞窟に入ってからのことを伝えた。
「ありがとな、橙子……。お前の気持ちが、再び奇跡を呼び起こしたんだ」
真黒さんがそう言った。
私は、咄嗟のこととは言え、真黒さんを抱きしめたことを思い出し、1人で照れていた。
「それにしても、一体いつ攻撃されたんだ……? 俺は、『美妃ママ』に対しては細心の注意を払っていた……。だから、奴が何かをしたら分かったはずだ……」
真黒さんがそう言ったが、私は恥ずかしさのあまり反応できなかった。
「あ、そうだ!」
麗亜さんが、思い出したように言った。
「洞窟の入り口が塞がれてたんだ……。大きな岩に……」
私達は全員で、洞窟の入り口に向かった。
洞窟の入り口
「う~ん、駄目だ……ビクともしない……」
麗亜さんが、洞窟の入り口を塞いでいる岩を動かそうとしたが、全く動かなかった。
「何か身体が軽い気がするなぁ~」
真黒さんがそう言いながら、岩の正面に立った。
そして、岩に向かって「デコピン」をした。
ドゴーン!!!
真黒さんがデコピンをすると、岩が轟音を立てながら爆発した。
(え、え? 『デコピン』で岩が吹き飛んだ…… し、死の淵から蘇ってパワーアップしてる…… ま、まるでサ○ヤ人だわ……)
パラパラ……
上から細かい岩が崩れ落ちている。
その向こうに……、美妃ママがいた……。
「あら……? 残念…… 生きていたのね」
美妃ママが言った。
「あなたが真黒さんを……」
私がそう言うと、美妃ママが答えた。
「ええ、そうよ……。私はコードネーム『ビショップ』……」
(やっぱり、美妃ママが『ビショップ』だったのね……)
「探偵さん、今度は確実に殺してあげるわ…… 『守神さん』、出てらっしゃい!!」
美妃ママがそう言うと、1体の落武者の霊が現れた。
「守神って、ま、まさか……」
私がそう言うと、美妃ママが言った。
「そう…… あの神社に祀られていた神様よ…… でも、驚くのはまだ早いわ……『阿形』、『吽形』!」
今度は、2体の巨大な霊が現れた。それは、歴史の教科書に載っていた「金剛力士像」だった。
(ええ~ 仏像の誓約霊…… こんなのありなの!? し、しかも誓約霊を3体も呼び出すなんて……)
「はあぁぁぁ……」
そのとき、私の後にいた社長が全身に力をこめ始めた。阿形と吽形の筋肉を見て、社長の筋肉が疼いたのだろう……。
「はぁぁぁぁぁあ」
社長の全身の筋肉が肥大化した。元の「ヒョロヒョロのおじいさん」ではなく、「ムキムキ、マッチョのおじいさん」、そう「ムキマッチョG」に……。
(なんか…… 社長の筋肉もパワーアップしているような……)
「じじい、下がってろ…… ここは俺に任せろ」
真黒さんがそう言うと、社長はしょんぼりしながら、「サイドチェスト」のポージングをし続けた。
真黒さんに、2メートルを越える2体の金剛力士像が迫ってきた。
真黒さんは、両手で「デコピン」の構えをし、阿形と吽形が射程距離内に入ると、その指を放った。
ズッガーン!!
真黒さんの指が触れると、爆音を轟かせながら2体の金剛力士像は吹き飛んで行った……。
(アワワワワ……)
「アワワワワ……」
美妃ママが震えていた。
守神様も震えていた。
真黒さんが、美妃ママの額に向けてデコピンを構え、放とうとした。
「ヒィィ……」
美妃ママは怯えていた。
しかし、放たなかった……。
真黒さんが、今度こそデコピンを放とうとした。
「ヒィィ……ヒィィ……」
美妃ママは更に怯えた。
でも、また放たなかった……。
真黒さんが、今度こそ本当にデコピンを放とうとした。
「ヒィィ……ヒィィ……ヒィィ……」
しかし、またまた放たなかった……。
(つ、辛い…… いつ、やられるのか分からないのは、辛い…… もう……一思いにやってあげて)
真黒さんが、今度こそ本当の絶対にデコピンを放とうとした。
「ヒィィ……ヒィィ……ヒィィ……ヒィィ……」
美妃ママは限界だったのだろう…… 恐怖のあまり失神した……。それとともに、守神様も煙のように消え去った。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。





