第七話③
「橙子お姉ちゃん?」
私を呼ぶ声がした。
その声の主は、大蓮寺蜜柑ちゃんだった。
「蜜柑ちゃん? 大きくなったねぇ」
蜜柑ちゃんは、村長である大蓮寺重蔵さんの娘で、今年、小学校6年生になる。前回、私と母が古宇都村を訪れたのは、私が中学2年生のときだったので、約3年振りの再会だった。
(あれ? 何か大人びたというか、元気がないというか……)
以前は、とても明るく元気な女の子だったのだが、今は落ち着いた雰囲気になっていた。
「橙子お姉ちゃん、聞いて欲しい話があるの」
蜜柑ちゃんが言った。
私達2人は、庭に面した縁側に移動した。
蜜柑ちゃんの家の近所では「神隠し」は起こっていないが、奇妙な出来事が起きているらしい。
「私は近所の子たちと、いつも通り、森の中の神社で遊んでいたの……。最近は、みんなで『かくれんぼ』をするのが流行っていたから、『かくれんぼ』をして遊んでたんだ……」
蜜柑ちゃんは、その時の状況を切々と語り始めた。
「『かくれんぼ』を始めると、鬼になった私がすぐにみんなを見つけ出したの。でも……、最後の1人が見つからない。みんなで探しても見つからない……」
私は何も言わずに、蜜柑ちゃんの次の言葉を待った。
「それから、私は気づいたの。見つからない子が誰だか分からないということに……」
「え? それって、どういうこと?」
私は蜜柑ちゃんに尋ねた。
「顔を思い出そうとしても思い出せない…… 近所の子たちは既に全員がいる。結局、私の勘違いだったのだろうと思い、その日は解散したの。でも……」
「でも?」
私が尋ねると、蜜柑ちゃんは更に続けた。
「でも、それが1回だけじゃなくて、4回も起きたの」
(4回……、確かお母さんの話では、神隠しにあったのも4人だったはず……)
「わ、私……、気味が悪くて……。 神隠しも起きているから、神社にも行かないようにしているんだけど……」
「他に気になったことはない……?」
私は、今回の神隠し事件と何らかの関係があると考え、蜜柑ちゃんに尋ねた。
「え~と…… あ、そう言えば…… 祠の扉が開いていた……」
「なるほどな……うっぷ 何らかの封印が解かれた可能性があるかもしれないな…… うっぷ」
真黒さんが、私達の後ろから声をかけた。
(うわ~、びっくりした…… 真黒さん、急に声かけないでよ…… ビクッてなったじゃない。しかも、まだ車酔いが治らないの……? 蜜柑ちゃんもビクッてなってたし…… 後ろから声が聞こえて、「うっぷ、うっぷ」言っている男性がいたらびっくりするよね……。トラウマにならないと良いけど……)
私がそんなことを考えていると、真黒さんが話を続けた。
「明日は、その神社に行ってみるか……うっぷ 橙子、明日の朝、その神社に案内してくれ……うっぷ」
真黒さんは、そう言うとトイレに駆け込んだ。
その夜
「ふぅ~、こんな感じかな」
私は、今日聞いた神隠し事件に関する情報を、ノートにまとめていた。
(青木さんがいないから、私が頑張らなきゃね)
「なぁ、橙子……、真黒さん、大丈夫なのか?」
私の誓約霊の麗亜さんが尋ねてきた。
「『大丈夫』って、車酔いのこと?」
「いやいや、違う違う! 言われてたじゃん、美妃ママに! このままだと『死ぬ』って」
(そうだった。『うっぷ』の印象が強くて、すっかり忘れていた……)
「美妃ママの占いは100%当たるんだろ?」
(確かに……。変なチェスの集団にも狙われているらしいし……。)
「そうだね、でも真黒さんなら、きっと大丈夫だよ。誰かに負けることなんて、想像つかないじゃない?」
「確かにそうだな。美妃ママの占いも、ついに外れるときが来たんだな」
麗亜さんがそう言うと、私は美妃ママのサインが入った本の表紙を見た。
『橙子さんへ 店橋美妃』
(普段だったら、美妃ママの占いや予言は信じている。でも、今回の予言に関しては外れて欲しい……)
「美妃ママって、こんな苗字だったんだな。みせはし? みせきょう? ショップブリッジだったりして……ハハハ」
麗亜さんが言った。私が暗い顔をしていたから、元気づけようとしたのだろう。
「違うよ~、これは……」
私が訂正しようとしたとき、私はあることに気づいた。
『店橋美妃』……『店』ショップ、『美』び
美・店……
(ビショップ……、いやいや、まさかまさかまさか……。でも、前回の『ルーク』も本名が『類沢玖音』だった。この作者は名前にヒントを入れていることが多い。第四話もそうだった……)
真黒さんには、可能性の1つとして伝えておこう。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。





