第七話②
今回は、緑原橙子の視点で話が展開します。
私は緑原橙子
17歳の高校2年生だ。
とある事件をきっかけに、私は真黒探偵事務所でアルバイトをすることになった。
依頼を解決することもあったが、主に受付や事務所の掃除、買い出しなどの仕事をしている。
私が事務所の掃除をしていると、入り口のドアが開いた。
「あれ? お母さん…… 迎えの時間には、まだ早くない?」
ドアを開けて入って来たのは、私の母だった。
「今日は依頼に来たの……、真黒さんは?」
母がそう言った時、階段を駆け上がる足音が聞こえた。
バン
事務所の入り口のドアが開くと、そこには真黒さんがいた。
「んちゃ、あちし真黒紅白。ほよよ~」
私と母は、完全に引いていた……。
「それで、お母さん…… ご用件とは?」
真黒さんがソファーに座り、母に尋ねた。
私も真黒さんの隣に座った。
「ええ、実は、私の故郷で行方不明事件が起きていまして……」
母の故郷は東北地方の山間にある古宇都村だ。のどかな田園風景が広がるところで、私も何度か行ったことがある。
「本来であれば、村長が来なければいけないのですが、病気の療養中で遠出が難しく…… 代わりに親戚の私がお願いに来たんです」
「なるほど……。行方不明事件というのは、詳しくご存知なんですか?」
真黒さんが尋ねた。先日も行方不明事件を解決したばかりだったので、「またか」という顔をしている。
「はい。1か月ほど前から、村の子ども達が行方不明になっているんです。この1か月間で4人も……。『神隠し』なんて噂にもなっていて…… 今後も子どもがいなくなるんじゃないかって、みんな不安になっているんです」
「分かりました……、急いだ方が良さそうですね。今、入っている依頼を片付けてから行くことになるので、1週間後に古宇都村に向かいます」
1週間後
「あ、真黒さん! こっちです」
私達は、待ち合わせ場所に集合した。私も夏休みに入ったところだったので、母の里帰りに付き合うことにした。
私と同じく真黒探偵事務所でアルバイトをしている青木あかりさんは、専門学校での講習があるため留守番になった。
『ずるい……、みんなで旅行に行くなんて…… お土産忘れないでくださいね。蟹ですよ、蟹!!』
(季節も違うし山間の村なので蟹は難しいと思うが、青木さんが喜びそうな物を買ってこよう。)
母の車に乗って、私達は古宇都村に向かった。途中の山道で真黒さんが車酔いした。
「う、ヤバい……吐きそう……」
「う、ヤバい……ワシも吐きそう……」
なぜか、真黒さんの誓約霊である「社長」も車酔いしていた……。
古宇都村
「うわ~、久しぶりだなぁ。空気がおいしい」
私は新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込んだ。
その間も真黒さんと社長は、ぐったりとしていた……。
「橙子、こいつら……大丈夫か?」
私の誓約霊である麗亜さんが言った。
「まあ、こいつらがヘロヘロ状態だったら、私達の活躍の機会が増えるから良いんだけどね…… 第四話以来だからね、マジで忘れてたんじゃない、作者」
麗亜さんが誰もいない空間を睨み付けて言った……。
母の実家に着くと、母が言った。
「橙子、私は村長さんのところに挨拶に行ってくるわ」
「お母さん、俺たちも行きます……うっぷ。早めに調査に取り掛かりたいので……うっぷ」
真黒さんが口を手で押さえながら言った。
村長さんの家に着くと、玄関には3足の靴が並んでいた。
「あら、先客かしら……」
母がそう言ったとき、奥の部屋から声が聞こえてきた。
「そ、村長、どういうことですか!?」
母がその部屋の襖を開けた。すると、そこには3人の男性と2人の女性が居た。
男性の内、1人は村長の大蓮寺重蔵さん、1人は村の重役を務める柿葉子門さんだった。もう1人は、見たことがない眼鏡を掛けた頼りない感じの男性だった。女性は、1人は重蔵さんの奥さんの大蓮寺伊呂波さん、もう1人の女性は……
(え、……『美妃ママ』だ!!)
「美妃ママ」とは、メディアで大人気の占い師だ。彼女の占いは100%的中すると言われていて、多くの有名人が占ってもらっている。私も大ファンで彼女の本を常に持ち歩いている。
(ど、ど、ど、どうしよう……、さ、さ、サインとかもらっても良いのかな……?)
「橙子、『美妃ママ』じゃん。大ファンだったろ……、サインをしてもらえよ」
麗亜さんが私に言った。
「で、で、でも……、き、き、緊張しちゃって……」
私達がそんなやりとりをしていると、母が美妃ママのもとに行った。そして、美妃ママの前に座り手を握りながら言った。
「美妃ママじゃないですか? こんなところでお会いできるなんて……。うちの娘が大ファンなんです。サインしていただけますか?」
私は美妃ママに、彼女が書いた本を差し出した。
「あなたのお名前は?」
美妃ママが私に尋ねた。
「と、と、と、と、と、と、と、と」
私は緊張のあまり自分の名前も言えなかった。
「橙子です。橙色の『橙』に、子どもの『子』です」
母が代弁した。
「はい、どうぞ」
『橙子さんへ 店橋美妃』
美妃ママが手渡した本の表紙にそう書いてあった。
(キャー、美妃ママからサインもらっちゃった!!)
「紗季さん、橙子ちゃん、来てたのかい? 橙子ちゃんも大きくなったねぇ」
柿葉子門さんが私達に駆け寄って言った。
「子門さん……、お話の途中で急に入って来てしまい、すみませんでした」
母が言った。
「いやいや、大丈夫だよ。」
子門さんは笑顔で答えた後、村長に向かって言った。
「それで村長……、もう一度言いますが、今回の行方不明事件は私に任せてくれませんか?」
「駄目だ。今回の事件はワシの任期中の出来事だ。ワシが責任を持って解決する。そのために、探偵を呼んだんだ。お前の世話にはならん!! 美妃ママだか、何だか知らんが、連れて帰れ!」
村長がそう言うと、子門さんは苦虫を噛み潰したような顔をし、何も言わずに部屋を出て行った。
美妃ママともう1人の男性も子門さんに続いて部屋を出ようとしたが、真黒さんを見て美妃ママが立ち止まった。
「……あなた、今回の件から手を引きなさい。 さもないと、死ぬわよ……オーホッホッホッ~」
「あ、美妃さん、待ってくださいよ~」
マネージャーだろうか、あの男性が美妃ママを追いかけていった。
「オーホッホッホ~ オーホッホッホ~」
美妃ママの高笑いが遠ざかっていく……
「オーホッホッホ~ オーホッホッホ~」
更に遠ざかっていく……
「オーホッホッホ~ オーホッホッホ~」
長いな……
「オーホッホッホ~ オーホ……ゲフ、ゲフ」
あ、むせた……
(やっぱり、無理して笑ってたんだ……。『オーホッホッホッ』なんて、笑う人いないもんね…… でも、真黒さんが死ぬだなんて……)
私がそう考えながら真黒さんを見ると、倒れていた。
(ま、まさか……?)
「うっぷ……、気持ち悪い~」
(なんだ……、車酔いか……)
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。





