第一話③
(え、なんで……? こういうときって、車で移動するんじゃないの……?)
僕たちは、自転車でアパートに向かっていた。真黒さんに掴まりながら、社長は自分の体を棚引かせていた。
「よし、1位になったやつ…ジュースを奢ろう」
真黒さんがそう言って、スピードを上げた。
「あ、ズルイですよ、一斉にスタートを切らなきゃ不公平です」
青木さんは、そう言いながらも全力でペダルを漕いだ。
(え、これって、明らかに僕が有利じゃん……。自分の家だから、ここからの近道も知っているし………、ジュースはもらった!)
僕はそう考えると、真黒さん達とは違う道から自分のアパートに向かった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
僕は、1番乗りで自分のアパートについた。
2番目に青木さん、3番目に社長、最後に真黒さんが到着した。
「くそ、最下位とは……」
真黒さんは、悔しいそうな顔を見せたが、その後、ニヤニヤしながら僕に言った。
「じゃあ、ジュース3本買ってきて……」
(え……?)
僕が驚いていると、
「だって、俺は『1位になったやつがジュースを奢ろう』って言ってたんだ……w」
と真黒さんが言った。
青木さんが笑顔でおねだりポーズをしてきた。
(か、かわいい……、買っちゃう、何でも買っちゃう……)
社長もクネクネしながらおねだりポーズをして、近づいてきた。
(………何の感情も湧かない)
「くっそ~、騙された…… ていうか、何で客にジュースを奢らせてるんだ? だから、人気が出ないんだよ……」
僕が3本のジュースを買って戻ってくると、真黒さんが調査を終えていた。
「どうやら、大したことはなさそうだ……すぐに終わるだろう……」
「流石ですね、真黒さん。」
青木さんがそう言ってから、僕の方を向き
「じゃあ、只野さん、こちらの料金表からコースをお選びください。」
【料金表】
Aコース 15000円
2、3日は大丈夫、安心して眠れます。
Bコース 50000円
一か八かなところもあります。
Cコース 100000円
完全に除霊します。消滅させます。
(えぇ~、Cコースしかないよね、これ……)
「因みに、それぞれのコースはどんなことをするんですか………?」
僕は青木さんに尋ねた。
「Aコースは、お経を唱えます。真黒さんのオリジナルお経です」
(……怪しい、本当に2、3日の効き目があるのか?)
「Bコースは、社長が頑張ります。でも、社長の気分次第のため、除霊出来ない場合もあります」
(………社長、もっと頑張れよ 泣)
「Cコースは、真黒さんが直接除霊します。」
「真黒さんは、どのような方法で除霊されるんですか?」
「ビンタです」
(え、ビンタ……? 幽霊相手にビンタ……? え、物理攻撃なの……、幽霊なのに……?)
怪しさMAXだったが、僕はCコースを選んだ……。
「ありがとうございます。真黒さん、Cコース入ります。」
「あい、よろこんで~」
「じゃ、奴さんを呼び出すか……」
真黒さんはそう言うと、呪文のようなお経のような言葉を唱えた。
すると、あの日ドアスコープの向こう側に見た女性が現れた。
青白い顔をし、髪はボサボサ。黒目が大きく、左側の頭がへこんでいる……。
そのまま、真黒さんへ向かって走ってきた。
「どうして……どうして…… なぜ、彼がいないの……?」
「ひぃ、ヒイィィィ!」
社長が震えながら、叫んだ……。
(何で? あんたも霊なんじゃ……?)
そのまま女性の幽霊が、真黒さんの手が届く範囲に入ったとき、
ビッ、ターン!!!
その幽霊の頬を真黒さんが思い切りビンタした。
スクリューのように高速で回転しながら吹っ飛び、その幽霊は消滅した……。
(え、えぇ~!? あっさり、実にあっさり…… そして、物理攻撃が効くという……)
「ふぅ、これで大丈夫だ」
真黒さんがそう言い、僕の心霊騒動は解決した。
後日
僕は依頼料の支払いのため、真黒探偵事務所を訪れていた。
「ありがとうございました。10万円、確かに受け取りました。こちら領収書です」
青木さんがそう言って、僕に領収書を手渡した。
「あ、そうそう、あの幽霊ですが……、以前、只野さんの部屋に住んでいた人のストーカーだったようです。」
「ストーカー………」
「はい。あの部屋に住んでいた男性は、それに気付いて引越したのですが、ストーカーはそれに気付かず、ずっとあの部屋を訪れていたんです。」
(ストーカーから逃げたのか……)
「けれども、あるとき引越した事実を知ってしまった…… 会えないと気付いてからも、手掛かりがない女性は、あの部屋に執着し思いを強めていったんです。」
(部屋に執着してた…… 僕は関係なかったんだ……)
「会えない辛さが募りに募り、あるとき自分の命を絶ってしまった……。彼が以前勤めていたビルの屋上から飛び降りたそうです。そして、亡くなったあとも幽霊となり、あの部屋を訪れていたようです。」
「なるほど、そうだったんですね…… でも、なんでそんなに詳しいんですか?」
「真黒さんが幽霊と触れると、その霊の感情だったり、思い出だったりが映像のように流れこんでくるんです。 だから、1つの依頼が解決すると、供養のためにも、依頼主にその情報を開示しているんです」
……
……
……
「それでは、何か困ったことがあったら、いつでもいらっしゃってください」
こうして、僕は希望に満ちた大学生活を始めることができた。
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