第五話⑤
久しぶりに安心して眠りについたのだが…
俺は夜中に目が覚めた。
(か、体が動かない…金縛り… 何で…? 解決したはずでは…? いや、前回の金縛りも市松人形は関係なかった… あれは、トールが作ったものだから、金縛りなんて起こせるはずがない… それじゃあ、原因は一体…?)
俺は体の上に、人が1人乗っているような重さを感じた。叫び声を上げようとしたが、金縛りのためか、重さのためか、息苦しく全く声が出せなかった……
(ヤバい…、息が全く吸えない…… 前回と同じだ……)
「ずっと…、ずっと……一緒にいるから……」
前回と同じその声を聞いた瞬間、俺は気を失った……
翌日
俺とマネージャーの当麻莉緒さんは、真黒探偵事務所を訪れていた。
(確かに… 心霊現象が解決していないのは、辛い… しかし、セリフがないのは、もっと辛い…)
俺は、何でも良いから、喋っていこうと思っていた。
「え、また金縛りに遭ったんですか?」
青木さんが尋ねた。
(きた……『そうなんです』って言おう)
「そうなんです…、市松人形の件は解決したはずなのに…」
当麻さんが答えた。
「なるほど…、市松人形はトールさんが作ったものだから、心霊現象には関係ないのかもしれませんね」
(きた… 今度こそ『俺もそう思ってたんです』って、言おう)
「はい、私もそう考えていました…」
当麻さんが答えた。
(いや、喋らせろよ…当麻さん! そこは、あなたじゃなくても良いでしょう? 俺、俺、俺が言うでしょ、そのセリフ… こうなったら、全然関係ない話を振ってみよう… 『趣味は?』とか、良いんじゃない? 『若い子の流行りを知りたい』とか、言い訳できるし…)
俺が青木さんに、話しかけようとした瞬間…
「ところで、青木さんのご趣味は?」
当麻さんが尋ねた。
(え、え? 何で? 八方塞がりじゃん。何で、当麻さん先読み出来るの?)
そんなやり取りをしていると、階段を駆け上がる足音が聞こえた。
ガチャ
事務所のドアが開くと、真黒さんがいた。
「海の生き物ダジャレ パート6 『この貝かい? あんたが飼いたかった貝は…? でも、かーいそう(かわいそう)だけど、わたしゃ買いたくないんだよ、高いから!』 どうも、真黒紅白です」
(パート6…? こ、これだ! 当麻さんは突っ込まないはず…。よーし、いくぞ…)
「パート6って、パート2から5は、どんなダジャレなんですか? 真黒さん」
青木さんが言った。
(ま、ま、マジか~!! 伏兵、現る… どうしろって言うんだよ… 何なんだよ、喋らせろよ! )
俺は貝のように口を閉ざした…。
「それで、市松人形の問題は片付いたが、心霊現象が収まっていないと…」
真黒さんがそう言うと、俺と当麻さんは驚いた。
「なぜ、それを…?」
当麻さんが尋ねた。
「ああ、昨日レノンの自宅周辺を調べたとき、微かに霊的な反応が感じとれた。『市松人形』からは何も感じなかったのに…」
真黒さんがそう言って、更に続けた。
「ところで、当麻さんはメンバー全員の問題や悩み事を解決するんですかい?」
「はい。メンバーの負担になるようなことを取り除くのが、マネージャーの仕事なので…」
当麻さんが答えた。
「でも、レノンに付きっきりではないですかい?」
真黒さんが尋ねた。
「確かに… レノンは…、レノンは特別なのかもしれません…。路上で歌っている彼をスカウトしたのが、私なので…。他のメンバーよりも、思い入れが強いかもしれません…」
当麻さんが答えた。
彼女の言う通り、今の俺があるのは、あのとき当麻さんがスカウトしてくれたからだと思っている。ここまで来れたのは、当麻さんがいたからこそだと考えている。
でも、恋愛感情とかではなく、家族のような親友のような付き合いが出来ている。俺にとっても、「combine」にとっても、当麻さんは必要不可欠な存在だ…。
「なるほどな…… 今回の件、解決は出来る… しかし、あんた達にとって、combineにとって、辛い結末になるかもしれない…… それでも、良いですかい?」
真黒さんが言った。
「はい… レノンが少しでも楽になるなら、私は大丈夫です」
当麻さんが言った。
俺もそれに倣い、頷いた…
(いや、頷いたら駄目でしょ! 何やってんだ、俺! せめて、『はい』くらい言わなきゃ… セリフないじゃん… いや、でも『はい』しか喋らないのも、ちょっと……。某RPGの勇者かよ… 『はい』か『いいえ』しか話さない…みたいな。 絶対、青木さん… 俺のことを喋らないやつだと思っているよ、 友達に『レノンって、全然喋らない人だった』とか、言っちゃうよ~ )
「分かりました。それでは、今夜レノンの自宅に伺います。但し、当麻さんは来ないでください。レノンが1人で普段通り過ごすことが解決に繋がるので…」
真黒さんが言った。
「分かりました」
当麻さんが答えた。
(え、当麻さんが来ないということは… 喋れるじゃん。さすがに俺のセリフがなかったら、物語が展開しないでしょ!?)
その夜
(いや、1人かい!? 真黒さんが部屋に入るわけじゃないの? 喋れんやん、1人じゃ喋れんやん…)
真黒さんは、俺が普段通り過ごせるように、部屋には入らず外で待機していた。霊が現れたら、外からでもそれを感じとれるらしい。
(さすがに、1人で喋ってたらヤバいよね? 更に、変なイメージ付いちゃうよね?)
そんなことを考えながら、俺はベッドに入り眠りについた。
読んでいただけて、本当にありがとうございます。





