第四話③
「こちらが私の会社です。今日は週末なので、ほとんどの部署が休みですが…」
私はそう伝えて、皆さんをエントランスに誘導した。
「なんだろう…、嫌な感じがする」
麗亜と呼ばれるギャルの霊が言った。
「ほ、本当だね…、でも、どこから感じるのか、わからない」
緑原さんが言った。
「とりあえず、入って1階ずつ調べて行こうかのぅ」
社長と呼ばれる老人の霊が言った。
(あれ? あれれれれ? 何で見えちゃってるの? 何で声が聞こえているの?)
私は、探偵事務所の外でもギャルと老人の霊が見えていることに驚いた。
(何、これって? 才能が開花しちゃったパターン?)
そう考えながらエントランスホールに入ると、なぜか悪寒がした。
「社長、お疲れ様です」
私を呼ぶ男性の声がした。あの老人もその声に反応したが……。
「やあ、新尾さん。みんなが休みのときに、いつも出勤ありがとうございます」
私はその男性にそう声を掛けた。
彼の名前は新尾拓夢。中途入社だが、前職も警備会社に勤務していたため、警備の責任者を任せている。5年前に、このビルに会社を移転したのだが、その翌年の入社。ちょうど、警備会社との契約が破棄されたタイミングだったので、彼の存在は大きかった。
「今日はアルバイトの方は?」
私が新尾さんに尋ねた。
「はい、5日前に2人採用できたので、今夜からは彼らに任せられそうです」
警備の人手不足を補うために、日中は日替わりで様々な部署の人間が、警備員室での防犯カメラのモニターチェックを行った。夜は新尾さんに頼らざるを得ず、お願いしていた。私も新尾さんを休ませるために、時々、夜勤で警備を行っていた。
「そうですか! 良かったです。アルバイトの方々が来たら、早めに帰宅してください」
「ありがとうございます」
新尾さんは、そう言うと警備員室に戻って行った。
「社長」
今度は、私を呼ぶ女性の声がした。あの老人もその声にまた反応したが……。
「お疲れ様です、糸田さん。今日はお休みではなかったのですか?」
彼女の名前は糸田蘭。経理部の責任者を任せている。彼女も10年ほど前に中途入社している。このビルへの移転案を出してくれたのも、彼女だった。
「はい、来週必要な書類や資料の作成が間に合っておらず…」
糸田さんが答えた。
「わかりました。でも、無理はしないでくださいよ。終わったら、早く帰ってください」
「ありがとうございます。……ところで、社長。そちらの方々は?」
「ああ、こちらは例の件を調査しに来た探偵さんです」
「探偵?」
糸田さんが訝しむような顔をした。
まあ、端から見れば、高校生と専門学生の若い女性2人を連れ込んでいるのだから、訝しむのも無理はない。
そのタイミングで、青木さんが自分の名刺を糸田さんに渡してくれた。安心したのか、糸田さんは自分のオフィスに戻って行った。
「それでは、向かいましょう。」
このビルは、5階建て。1階はエントランスホールになっており、受付と警備員室、休憩スペースがある。2階から4階は各部署のオフィスと会議室がある。経理部は2階にオフィスがあるため、糸田さんは休憩のために1階にいたのだろう。5階には、社長室と大会議室がある。
1階からエレベーターに乗ろうとした時、緑原さんが言った。
「多分、上の方です。5階から見ていきましょう」
私達はエレベーターに乗り5階に向かった。しかし、5階では何も異常がなかったため、4階に向かった。
エレベーターの扉が開くと、フロアの奥、非常階段への扉がある辺りから異様な空気を感じた。
「い、今まで、こんな重苦しい空気を感じたことがなかったのに…」
私は思わず口に出していた。
それを聞いたためか、青木さんが言った。
「おそらく、私達が来ているのも関係あるのでしょう。気づいて欲しいという霊からのアピールで邪悪な空気感が強まっているんです」
「見て、あれ!」
ギャルの霊が叫んだ。
彼女が指さした方を見ると、警備員の服装をした血だらけの男性の霊が見えた。目があるはずの場所は空洞になっており、顔もどろどろになっている。その霊はうつ伏せになりながら、匍匐前進のように近づいてくる。
(え、な、何これ…? でも、みんな動揺してないし……、大の大人として冷静に、落ち着け…慶、落ち着けい…)
「ヒィィィィィ!」
あの老人の霊が叫んだため、私は腰を抜かしそうになった。
(あなたも、霊体なのでは…!?)
「あ、あの、永車さん、過去にここで殺人事件とかありましたか?」
緑原さんが尋ねてきた。
「いいえ。そんな話は全く聞いたことがありません。けれど、……」
私が言葉を濁すと、青木さんが尋ねてきた。
「けれど……?」
「はい… けれど、退職する際にアルバイトの方が言っていたそうです。『毎晩、モニターの中の警備員が侵入者に殺される』と…」
私はそう答えて、続けた。
「今日、自分の目でこの現状を見るまで、私はその言葉を信じていませんでした。夜勤中に眠って夢でも見ていたのだろうと…」
「橙子、どうする? 悪霊化しているから、私は何もできなさそう…」
ギャルの霊がそう言うと
「ワシに任せんしゃい」
老人の霊がそう言った。
読んでいただけて、本当にありがとうございます。





