第一話②
僕の名前は只野人志。
今年から大学に入学して、1人暮らしを始めた。これから、希望に満ち溢れる4年間が始まるはずだった……。
しかし、僕は毎晩の心霊現象に悩まされていた。
あの夜の後、大学で知り合った友人の江月奈糸に相談すると、あるところを紹介された。
「それマジヤバくな~い? 俺の知り合いが除霊してもらえたところに行ってみな~い?」
それは、繁華街の路地裏にあった。雑居ビルの外装は塗装が剥がれ、ひび割れていた。3階の看板には、「真黒探偵事務所 除霊も絶賛受付中」と書いてあった……。
(怪しい……、怪しすぎる………)
僕は、一抹の不安……否、全身全霊での不安を感じていたが、藁にもすがる思いだったため、3階へ上がることにした。
真黒探偵事務所
3階にたどり着いた僕は、インターホンを鳴らした。しかし、しばらく待っても誰も出て来ないため、ドアノブを回し扉を開けた。
ガチャ
扉を開けると、そこには杖をついたお爺さんがいた。
腰が曲がっているため、80代後半か90代だろうか……?
「はぇ、あんた誰?」
その老人が小刻みに震えながら、僕に尋ねた。
「今日の14時から相談の予約をしました、只野と申します。」
僕は答えた。
「え、14時からの田植え……? いやー、わしも腰が曲がってしまっているから、田植えはきついって、田植えは……」
老人は耳が遠いのか、僕が言ったことを正確に聞き取れていないようだった。
「いえ、『田植え』ではなく、『只野』です。」
僕が自分の名前を強調して伝えると、
「え、ただの……? 何が無料なんじゃ……? わしも昔は、こう見えて格闘ゲームが強かったんじゃ……」
(どうでも良い情報……、話も噛み合わないし…… 他に誰か………)
僕がそう考えていたとき、老人が掴みかかってきた。
「若かりし頃の情熱を解き放て! 」
と、言いながら、僕を巴投げした……。
(え、え、何? この人、何なん?)
僕は、混乱した。
僕が宙を舞い床にたたきつけられたとき、老人の後ろから声がした。
「駄目じゃないですか、社長! 事務所の方に来ないでくださいって、いつも言っているじゃないですか……」
社長と呼ばれた老人は、頬を赤らめながら、霧のように消えていった……。
(え、何? あのお爺さん、消えちゃったんだけど………)
「ごめんなさい、社長が大変失礼なことを……」
「あれ? もしかして只野さんですか?」
女性がそう言うと、僕はやっと事務所の応接室にたどり着いた……。
女性の名前は、青木あかり。あご丈でカットされたボブヘアが似合っている。眼鏡をかけているためか、薄化粧である。
彼女は僕と同じ19歳。事務職系の専門学校に通っていて、この探偵事務所でアルバイトをしているらしい。
「本当に、すみませんでした……。お怪我はありませんでしたか?」
青木さんが尋ねた。
「いえいえ、全然大丈夫です。日頃から鍛えていますから、フフ……」
女性に対して免疫の少ない僕は、格好良く見せようとして、そう言った。
「もうすぐ、真黒さんが帰ってくると思うのですが……」
そのとき、階段を駆け上がる足音が聞こえた。
ドアを開けて入って来たのは、黒い探偵ハットをかぶり、細身の黒いスーツを身に纏った、昭和の大人気探偵ドラマのコスプレをしたような男だった。
「開国シテクダサ~イ」
その男が、片言の日本語でそう言った……。
「……すみません。今、真黒さんの中で『歴史上の外国人モノマネ』が流行っているようで……」
青木さんがそう言った。
(え、何ここ……? あのお爺さんといい…… この明らかに探偵っていう格好をした男といい…… 本当に大丈夫なのか……?)
「もう、真黒さん、遅いじゃないですか! お客様がもういらっしゃってますよ!」
青木さんがそう言うと、真黒という男が「私、ペリー 開国してね……」と小さな声で呟きながら、僕に近づいてきた。
このコスプレ探偵の名前は、真黒紅白。どんな依頼でも解決する名探偵らしい……。しかし、変な人であるため、探偵事務所はあまり繁盛していないようだ。
「それで、ご用件は?」
真黒さんは僕を睨み付けながら、言ってきた……。
ビュンッ
青木さんが真黒さんをぶん投げた……
「何やってんですか!? お客様ですよ!? 大事な金づるですよ!? 私の今月の給料、払えんのか、あ!?」
(えぇ~、金づるって…… )
「……失礼しました。 只野さん、ではご用件をお伺いします。」
青木さんは冷静さを取り戻し、僕に丁寧に尋ねてきた。
僕は、毎晩心霊現象に悩まされていることを伝えた。
青木さんの隣では、社長がプリンを食べていた……。
「てめぇ、じじい! 俺の大事なプリンを食ってんじゃねぇ」
そう言い終わるかどうかのタイミングで、真黒さんが社長に殴りかかった。社長の顔面を完全に捉えたように見えた。しかし、真黒さんの拳は社長を通り抜けた……。
「あの……」
僕はさっきから疑問に思っていたことを青木さんに尋ねた。
「社長さんって……?」
青木さんが僕の気持ちを察して、説明を始めた。
「ああ、社長ですか……、社長は真黒さんの誓約霊なんです。」
(え、誓約霊……? 存在する人間じゃない……?)
「誓約霊っていうのは、分かりやすく言うと『ジョ○の奇妙な冒険』の『ス○ンド』のようなものです。霊感がない人は見えないし、触ったりすることができないので、只野さんは霊力が高いのだと思います。」
(だから……消えたり、真黒さんが触れなかったりしたのか…… ん、待てよ……)
「社長って、どこの社長なんですか?」
「あ、それは、私も分からないんです。 真黒さんは『じじい』って呼んでいるのですが、私が『じじい』と呼ぶのは失礼だと思い、あるとき名前を尋ねたんです。」
『わしか、わしの名前は…、しゃ、社長じゃ……』
社長は、頬を赤らめながら答えたらしい……
「それからは、ずっと『社長』って呼んでいるんです。もしかしたら、『シャ・チョウ』さんかもしれないですし……」
(明らかに、異国の人ではない気がするが……)
……
……
……
「それでは、お話も伺いましたので、早速現場に向かいましょう」
青木さんがそう言うと、僕たちは僕のアパートへ向かった。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。





