第三話⑥
私達は麗亜さんが亡くなった踏切に来ていた。
(今回のことは、不幸が重なったせいもあるが、みんなが自分のことばかり考えてしまったから起きた出来事…。みんなに思いやりがあれば防ぐことができたのではないか? それに、麗亜さんは彼氏にも友達にも……心を許せていなかったのではないか? 自分の居場所がなかったんじゃないか?)
私の中に、そんな考えが浮かんだ。
「OK 準備できたぞ」
真黒さんが、そう言った。
社長さんが、いつの間にかムキムキになり、御幣を持っていた。
「じじいの背中に手をかざしてくれ」
真黒さんがそう言うと、私は社長さんの背中に手をかざした。すると、右腕と右足を失った、麗亜さんの霊が見えた。
「麗亜さん……」
私は涙を流していた。
「…あんた、確か隣のクラスの…… なんで……、なんで泣いてるんだよ」
麗亜さんが私に話しかけてきた。けれども、私は何も答えられなかった。
「私、独りぼっちだった…、恋人だと思っていた人には裏切られ、友達だと思っていた人達も……、私が死んでも誰一人ここに来てくれなかった…… 私の人生ってなんだったんだろ……」
麗亜さんがそう言うと、私は更に涙を流した。
「母親に嫌われたくなくて、私は一生懸命頑張った。何よりも勉強を優先して母親の望む選択をしてきた……。でも……、私は受験に失敗した……。母親は私に失望して、妹にばかり期待するようになった。私を空気のような存在として扱い……」
麗亜さんの目から大粒の涙がこぼれた。
「だから、高校に入ってからは、自分の好きなように生きようと思った……。でも、私はどうやったら友達ができるのか、どうやったら人から信じてもらえるのか、分からなかった…… だから、他人を馬鹿にして優越感を得ていた。それが自分の存在価値になっていた…… 私が友達だと思っていたものは全部偽物だったんだ…… 死んでから気づくなんて遅いよね………」
「そんなこと……、そんなことない!」
私は思わず大声で叫んでいた。麗亜さんの声が聞こえない益恵さんは、心配そうに私を見ていた。
「遅くなんてない! ………麗亜さん、私と友達になろうよ……」
私は麗亜さんの境遇に親近感を覚えていた。
そのとき、私の全身が緑色に輝き出した。その光が麗亜さんを包み込むと右腕と右足が再生していた。
(え、え? 何これ?)
「お前の気持ちが奇跡を呼び起こしたんだ」
真黒さんがそう言った。
青木さんは、白目を見せながら
「ホットマグロ……、ホットマグロ……」
と呟いていた。
「誓約できそうだな……、橙子、どうする? 麗亜をお前の誓約霊にするか?」
「私、あなたと一緒にいたい。私のために泣いてくれた、あなたと……本当の友達になりたい」
麗亜さんが言った。
私は首を縦にふった。
「じゃあ、お互いに掌を重ね合わせてくれ」
真黒さんの指示に従い、お互いの掌を重ね合わせると、私の身体の中に麗亜さんが吸い込まれていった。
『これから宜しくね。橙子』
麗亜さんの声が聞こえた気がした。
数日後
私は母と真黒探偵事務所に来ていた。
「確かに、報酬の20万円、お預かりしました」
青木さんがニコニコしながら言った。
「お母さん、私……お願いがあるの……」
「どうしたの、橙子? 家に帰ってからでは駄目なの?」
「ここじゃなきゃ……、今じゃなきゃ駄目なの」
私は母の目を見つめて言った。
「何? 言ってごらんなさい」
「私、ここでアルバイトがしたいの」
母は驚いた表情を見せたが、すぐに笑顔になり、
「分かったわ。あなたの好きなようにしなさい」
と言った。
「お母さん、ありがとう」
私は母に抱きつきながら、お礼を言った。
「わーい、今日は橙子さんの歓迎会ですね。腕をふるって、たくさん料理を作っちゃいますよ~」
青木さんが笑顔でそう言った。
「わし、エビふりゃあ(えびふらい)が食べたい」
社長さんが言った。
「おいどんは、ジャーキーが食べたいでゴワス」
(ぶ、ブルーちゃんがしゃべった……… でも、キャラがよく分からない……)
「ブルー、ジャーキーは作れないよ~」
青木さんが笑いながら言った。
社長さんはクネクネダンスで私を歓迎してくれた。麗亜さんに「キモッ」と言われる度に、頬を赤らめダンスのキレが増していたが……
「真黒さん、娘を宜しくお願いします」
母が言った。
「ええ、勿論です。 お母さん……、子どもは自ら成長していくものです。こっちで制限したり、レールを敷いたりしなくても……。あの件もお母さんの愛情ゆえの行動だったと分かってくれる筈です。私からは何も伝えませんので、いずれ時が来たら、お母さんから橙子さんにお話ください」
真黒さんが、母にそう言っているのが聞こえた。しかし、私には何のことだか分からなかった。
「ありがとうございます」
母がそう言った。
「橙子、あとで迎えに来るからね。迷惑かけないように頑張るんだよ」
「うん、お母さん」
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