魔術師の絵描きはトレーニングが大事
異世界ファンタジーホラー。
※怖さは優しめですが、苦手な方はご注意ください。
息を吹きかけ色を塗り。
花をズラして彩りを添える。
貴婦人の黒いドレスには、真っ白で大ぶりな百合の花が良く似合う。
「あの子が、わたくしの子どもが見つからなくて。きっと泣いているわ。あの子に何かあったらわたくしっ……──」
「ずっと話しかけてるのに、ママがお話し聞いてくれないの」
子どもに大丈夫だと声をかけ、再び、色がついた魔術式を構築していく。
モノトーンに入れた差し色は、燻んだ金の髪。
そこに、こぼれ落ちそうなエメラルドの瞳を付け足す。
キャンバスに写し出された絵を夫人に向け、僕は穏やかな口調で語りかけた。
「大丈夫、ちゃんと貴女の側にいらっしゃいますよ」
「あぁ……良かった。本当に良かったわ……ありがとう。ありがとう」
涙ぐみ、感謝を述べる夫人は、徐々に色をなくす。
「……ママ? ママぁッ!?」
消えゆく夫人の身体に、子どもの白く細い腕が、──虚しく空中を切る。
普通の人間には幽霊が視えないように。
幽霊にも生きた人間が見えない者もいる。
時に幽霊同士でも相手を認識出来ない時がある。
特に、片方に幽霊の自覚がないと。中途半端な人間の枠組みになるのかも知れない。
この、ご婦人に寄り添っていた、少女のように。
「私、もう死んでるの? ……どうしよう」
「大丈夫。君の大好きなママのところに行くだけさ」
「そっか。ママのところに──」
薄れる声が途切れる。
天を向き、光の粒子となって少女は迷いなく昇って逝く。
魔力が多少あって、幽霊が視えるなら。繊細な魔法陣を描くために、日々のトレーニングを欠かさず。芸術的センスがあれば、さらに良い。
死者を操る、魔術師。僕のようなネクロマンサーに適正があるかもしれない。なんてね。
荒れた庭に、崩れた屋敷の廃墟を背にして。正常な空気を吸い込み、僕は来た道を歩き戻った。