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強力な妖魔出現

 ある日、伊吹は重々しい表情で薬研(やげん)家へやって来た。

「伊吹様、どうかなさいましたか?」

 美琴は心配そうな表情で、作った林檎とクリームのパイを出す。

「今までよりもずっと強力な妖魔が出現したと情報が入ったんだ。今からの討伐は、数日かかる可能性がある」

「まあ……」

 美琴は肩をピクリと震わせた。

 すると、美琴を安心させるかのように伊吹はフッと笑う。

「でも、いつも通り私が妖魔を倒すさ」

 伊吹はパイを一口食べる。

「やっぱり美琴さんの作るお菓子は美味しいし、力が湧く。君のお陰で私は強くなれるんだ」

「それは……身に余る光栄ですわ」

 美琴は林檎のように頬を赤く染めた。

「伊吹様、ご武運をお祈りしております」

「ありがとう、美琴さん」

 伊吹は頼もしげに微笑んだ。



 伊吹が言った通り、妖魔討伐は数日に渡っていた。

 美琴は妖魔討伐隊の状況を毎日新聞で確認している。

(伊吹様、無事でありますように……)

 今の美琴には、祈ることしか出来ず歯痒かった。


 そんなある日のこと。

 昼食の時間になり、美琴は母や兄達と一緒に父を待っていた。

 すると、美琴の父、昭夫は重々しい表情で部屋に入って来た。

 昭夫は手紙のようなものを持っている。

「昭夫様、何かあったのです?」

 母、静子は明夫の様子をいち早く察知して、心配そうな表情になる。

「妖魔討伐隊の大半が妖魔の攻撃により死亡したそうだ……」

 重々しい声の昭夫。

 美琴はひゅっと息を飲んだ。

「伊吹様は……伊吹様は……大丈夫なのでしょうか……?」

 美琴の声が震える。

 もし伊吹が亡くなっていたらと思うと、心臓が冷える。

「落ち着きなさい、美琴。死亡者名簿に伊吹様の名前はなかった」

 昭夫は美琴に持っていた手紙のようなものを渡す。

 それは妖魔討伐の状況と、死亡者名簿だった。

 確かにそこには赤院宮(せきいんのみや)伊吹の名前はなかった。

 美琴はほんの少しだけ肩を撫で下ろす。

(伊吹様はまだ戦っていらっしゃるのね……)

 そして美琴はいても立ってもいられなくなる。

(私も、伊吹様の力になりたい……!)

 美琴は勢い良く立ち上がり、部屋を出て行く。

 静子が「美琴、待ちなさい!」と言ったが、美琴は立ち止まらず厨房へ向かった。


 新しいものが好きでも、今まではこの心地良い環境から抜け出そうとしなかった美琴。

 しかし伊吹に出会い、趣味の洋菓子作りで活躍出来ることを知った。

 美琴は伊吹の為に今出来ることをしないと絶対に後悔すると思い、厨房で補助異能を込めたお菓子を作り始めるのであった。


 使う材料は、卵、砂糖、バター、蜂蜜、小麦粉、発泡粉。

 マドレーヌの材料だ。

(どうか伊吹様のお力になれますように)

 美琴はそう願いを込めて、手際良く材料を混ぜていた。


 マドレーヌが窯で焼き上がると、美琴はすぐに取り出した。

 出来上がったマドレーヌを箱に入れ、着替えて屋敷を飛び出す美琴。

 その際、伊吹からもらった桃花色のリボンで髪を結う。

(伊吹様……)

 伊吹を想い、美琴はリボンに触れた。


 美琴は必死に走り、伊吹がいる妖魔討伐隊の元へ向かった。

 場所は事前に伊吹から聞いていたので、どこへ行けばいいかは分かる。

(伊吹様、どうかご無事で……!)



 一方、伊吹は妖魔の攻撃を何とかかわし、戦っていた。

 人よりも遥かに大きな蜘蛛の妖魔である。

 妖魔は糸を吐き、討伐隊を攻撃する。

 伊吹は異能により炎を繰り出して妖魔の糸を切った。

(……美琴さんの補助異能が切れるまで恐らくもう時間がない。早く倒さねばならない……!)

 伊吹の中に焦りが生まれていた。

 その時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「伊吹様!」

 その声を聞いた伊吹は驚愕したような表情になる。

「美琴さん……!?」

 伊吹は妖魔の攻撃を避け、一旦その場を仲間に任せた。


「美琴さん、どうしてここに!?」

「伊吹様のお力になりたくて……!」

 息を切らしている美琴。

 伊吹に箱を渡す。

「これは?」

「マドレーヌです。私の補助異能を込めた」

 まだ美琴は息を切らしていた。

「美琴さん……!」

 伊吹は頼もしい表情になる。

「ありがとう。美琴さんからもらった補助異能がもうすぐ切れそうだったんだ」

 伊吹は勢い良く美琴が作ったマドレーヌを完食した。

「やはり君の作るお菓子は美味しいし、力が湧く。美琴さん、向こうの拠点はまだ安全だから、そこに避難していなさい。すぐに妖魔討伐を終わらせる」

 伊吹はフッと笑い、妖魔討伐最前線へ向かった。


 その後は伊吹が異能で妖魔を蹴散らした。劣勢だったのが嘘のようである。あっという間に討伐が終わるのであった。

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