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【完結】夜明けの使者  作者: 社菘
第2章
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陽からの提案に枢の頭の中はぐちゃぐちゃだった。


寝起きだからというのもあるけれど、全くと言っていいほど彼の言葉が理解できない。相性は悪くないだろうからパートナー契約をしませんか、なんて、今まで散々してきた妄想より遥かに上をいく言葉である。


そもそも、まだ陽がSubだというのを受け入れられていないのに。でも昨晩、枢のコマンドに反応した陽も、膝に乗った陽の感覚も残っているから本当に現実だったなんて――


「まぁまぁ、そんなに深く考え込まなくてもいいじゃないですか。とりあえずお試し期間を設けて、お互いを知ることから始めますか?」

「待ってください、何で朝霧先生はそんなに冷静なんですか!?」

「え?」

「だって俺、朝霧先生は当然Domだと思ってて……!」

「……Subのおれに、偏見があるってことですか?」

「そうじゃないですけど!学校でも朝霧先生をDomだと思ってる人って多いでしょうし、もしSubだってバレたら…っ」


巷ではまだ、Domに奴隷のような扱いをされるSubや『そういう店』に売られる人もいるのだという暗い噂も聞く。こんな近場でパートナー契約をして、もしも陽のダイナミクスがSubだとうっかりバレたら、世間から白い目で見られたり、保護者から担当を変えてほしいと言われたりするかもしれない。もっと最悪なことを考えれば、誰かに連れ去られる可能性だってあるのだ。成人男性だからあり得ない、なんて100%は言い切れない。


「……おれの心配をしてくれてるんですか?」

「当たり前じゃないですか!俺を何だと思って……ッ」

「だからこそ、おれ、星先生がいいなぁ」

「へぁ…?」

「おれのこと、大事に大事に守ってくれそうだし。正義感が強くて、優しくて、甘やかしてくれるパートナーとか最高じゃないですか」


にひひ、と陽が唇をハート型にして、いたずらっ子のような笑みを見せる。

陽は別に身長が低いとか、女性みたいにかなり細身とか、そういうわけではない。身長は枢と同じ170センチ後半だし、体格もそれなりにしっかりしている。所作はセクシーさがあるなと偏見の目で見ていたのだが、彼は『守られる』側の人間じゃないと思っていたので、そう見えるだけか。


「おれがパートナーなったら、星先生が守ってくれるんでしょ?」


そんなことを言われたら、もうノックアウトされた。

だめだ、もう。何を言ってものらりくらりかわされるし、逆に甘い言葉を囁かれると頭が混乱してきた。


――いや、自分の中では既に結論が出ているのに、抗いたかったのだ。このままじゃ『ダメになる』と思っている自分と『陽を欲している』自分がいて、ぐちゃぐちゃなのである。ただ、自分の本能は『陽を欲している』のが分かっていた。その本能には逆らえそうにないことも。


「お、お試し期間を、お願いします……」


欲に負けてそう言えば、陽は嬉しそうな顔をして枢にすり寄った。まぁ、自分が陽の腰を引き寄せている腕を解放していないのが悪いのだけれど、彼からすり寄られるなんて思っていなかったので、枢は石になったかのように硬直した。


「あ、そういえば大事なことを言っておきますね」

「……大事なことですか?」

「セーフワードについて」

「あぁ、確かに大事なことですね……」


セーフワードとは、コマンドを実行するDomの行為が行き過ぎてしまわないための魔法の言葉である。たとえPlay中でも、セーフワードを言われたらDomは行為を止めなくてはならない。ただ、このセーフワードはSubにとっては使いにくいもので、Domに逆らっていると感じる人もいるのだとか。だからセーフワードを使えたらきちんと褒めてアフターケアしないと、信頼が崩れるという話を自分がDomだと知った時に先生から聞いたのだ。


「おれのセーフワード〈愛してる〉なので」

「は……?」

「〈愛してる〉がセーフワードですからね、ほしせんせ」


このセーフワードは、普段口にはしないけど咄嗟に言葉にできるものを選ぶSubが多い。比較的使われることが多いのは、赤信号の『止まれ』を意味するレッド。単語的にも短いし言いやすいから、一般的に使われやすい……と聞いたことがある。でもセーフワードを考えるのはSubなので、どんな言葉でもいいのだが――


「あいしてる、って……」

「Play中におれが〈愛してる〉って言ったら、星先生は行為をやめないといけない。できますよね?」


これは、とんでもない悪魔と契約を結んでしまったかもしれない。

そう思っても、既に遅いのだけれど。





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