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なんだか、あたたかい夢を見た。
ずっと一人だったはずなのに誰かに抱きしめられていて、背中をさすりながら「大丈夫だよ、安心して眠って」なんて柔らかい声が子守歌を歌ってくれていた。
そうして久しぶりに、朝まで一度も目が覚めずに眠っていたのだ。
「あ、おはようございます、星先生」
「え……?」
「おはようございますっていうか、こんにちは。実はもう昼ですよ」
見慣れない部屋、知らないソファ。目の前には片想いの相手の朝霧陽。
目が覚めて最初に見たのが陽の顔なんて、今すぐ心臓が止まりそうなくらいに驚いた。え?なに?なんで?何がどうしてこうなってるんだっけ?起き抜けの頭はひどく混乱していたが、陽の顔を見るとじわじわと昨夜の記憶が蘇ってきた。
確か陽がSubだと分かって、甘い誘いに乗ってしまったのだ。しかも、2つ3つコマンドを実行しただけで、満たされて気絶するように眠ってしまったことも。だからなのか、普段よりも目覚めはすっきりしていた。
「星先生、久しぶりのPlayだったからからなのか、すぐ気絶したの覚えてますか?」
「お、ぼえてます……」
「それで、何度呼びかけても起きないし……星先生、寝てるくせにがっちりホールドしてくるので、そのまま一緒に寝てあげました」
「死にたい……本当に申し訳ありません……」
「死ぬ前におれとパートナー契約して生き延びましょうか」
「何言ってるか分かってます……?」
朝、というか昼間に似つかわしい、にっこにこと眩しい笑顔を向ける陽。名前の通り太陽のように眩しい彼の笑顔に目が潰れそうになっていると、するりと頬を撫でられる。陽も何だかすっきりした顔をしていて「昨日、おれもきもちよかったです」という衝撃的な発言に思わず咳き込んだ。
「は!?いや、な、なんもしてないですから!」
「なにかしたじゃないですか」
「いやっ、コマンドのことですよね!?」
「うん、コマンド。久しぶりに命令されて気持ちよかったです」
「へ、変な言い方しないでくださいよ……!」
「どうしてですか?星先生からもらったコマンドで満たされたんですよ?おれ。まぁ、正直ちょっと物足りなかったですけど」
枢からコマンドをもらえて満たされた、気持ちよかった、と言って妖しく笑う陽。正直、自分も気絶するように眠ってしまったのだから、陽にコマンドを出して満たされたのは間違いない。だけど、それを素直に受け止めて『パートナー契約』までしてしまったら、もう元に戻れない気がする。
「おれたち、絶対相性いいと思うんですよ。星先生はどう思います?」
「いや、それは……」
「いいと思ってるから、眠っちゃったんじゃないんですか?ね、星先生。おれとパートナーになりません?」
「待って、待ってください、朝霧先生……もっとよく考えましょう」
「おれは星先生の腕の中で、一晩よく考えましたよ?」
「いや、ちゃんと考えてたらそんな結論出さないですって……!」
「じゃあどうして……おれのこと、離してくれないんですか?」
「え……」
そう言われて自分の腕を見ると、陽の細い腰をがっちりホールドしていた。それに気が付いて腕を離そうとしたのだが、なぜだか離せない。まるで磁石や接着剤で強力にくっついているかのようで、自分の本能が『陽を離すまい』としているのだ。
「星先生だっておれとのパートナー契約、少しはいいって思ってるんじゃないですか?」
「お、思ってな……!」
「おれなら、星先生を寝かせられますよ?」
「………」
「その証拠に、朝までぐっすり眠ったじゃないですか。いつもいつも寝不足っていう顔をしてたのに」
「……」
「それに、おれはうんとうーんと甘やかされたいSubだから、星先生と利害が一致してますよ」
「え、」
「甘やかされるのが好きなんです。昨日、星先生に触ったらすごく落ち着くし、いいなって感じました。これで相性が悪いなんて言わないですよね?」
確かに毎日寝不足で重かった頭はすっきりと冴えわたっているし、心なしか体も軽い。今ならマラソン10キロくらいは走れそうだ。本当に、それだけ陽との『相性』がよかったからなのか。彼の甘い誘いに頷いてしまいたい自分と、職場の同僚だという危機察知能力とがひしめき合っている。
ああ、もう、どうしたら――!




