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「実はあれ以来、朝霧先生から避けられているようで……」
「あー…やっぱり……」
「お互いに好きだと伝えたと思うんですが、Play中だったから無効とか、そんなことありますかね……」
自分で言っていて虚しくなってきた。
Play中のただのリップサービスだったとか、熱に浮かされて口走ってしまっただけとか、そんな感じだったらどうしようとネガティブ思考が働いてしまう。だってまさか、あんなにとろとろの熱いPlayをしたあとに避けられるなんて、現実に戻った陽にとっては『間違いだった』と思っているのかもしれないじゃないか。そう思うと、大分へこんでしまうもので。
「……陽って、こういうこと初めてなんですよ」
「え?」
「誰かを好きになるとか、それを言葉にするとか。生まれてからずっと一緒にいますけど、誰かを好きだって言うのは高校の時から星先生のことだけなんです」
「そう、なんですか……」
「だから多分、照れてるだけですよ。"好き"って言葉を言ってしまった自分が恥ずかしくて避けてるだけかと……あいつ、モテにモテまくってたのに、そういう感情には疎かったから。誰かを好きになる器官が壊れてるのかと思うほど」
「友達とか、みんな好きっていう人なのかと思ってました」
「というより、そう演じていただけかな。俺も最近知りましたけど、周りが陽を"完璧"でいさせるような空気にしてしまっていたんです。だから陽は一人で我慢して……誰にもSubだと言えないまま、それでも星先生のことを諦められなかったんだろうから…あいつの言葉に嘘はないと思います、俺は」
陽をずっと見てきた幼馴染の真白が言うのなら、そうなのだろう。でも正直、真白と陽はしばらく会っていなかったようだし、その間に変わった可能性だってある。と、こんなにぐるぐる考え込むなら今すぐ陽の家に乗り込んで『俺は朝霧先生のパートナー兼恋人ですよね!?』と聞いたほうが早いのだけれど。
「……今度、ちゃんと話をしてみます。ありがとうございます」
「正直、星先生が相手でほっとしました」
「どうしてですか?」
「陽と星先生って正反対な性格だと思ってましたけど、相性良さそうですし……なによりも陽が、一人の夜から抜け出せそうだなって……」
「一人の夜から……」
「これまで、一人で夜明けを待っていたと思います。陽は太陽かもしれないけど、陽を夜明けに連れて行ってくれる人は星先生なんでしょうね」
「そんなの、俺のほうが……」
暗闇から連れ出してくれるのは、夜明けに連れて行ってくれるのは陽だと、枢にはそう思う。
真白を玄関まで送りながらそう言おうとした時、外から真夜の慌てた声が聞こえてきた。
「――おい、陽さん!大丈夫かよ!?」
「だ、だいじょうぶ……」
「大丈夫じゃないだろ絶対!枢!枢いるか!?」
真白が出る前にうちのドアをどんどん叩く真夜の声に枢は背筋に冷や汗が伝う。陽に何かあったのかとドアを勢いよく開けると、陽が自分の部屋のドアの前にうずくまっている姿を捉えた。
「朝霧先生!どうしました?大丈夫ですか!?顔色が……っ」
真白とのことを勘違いしていた枢が一時期避けていた頃と同じくらい、いや、それ以上に青白い顔をした陽が廊下に膝をついている。彼の少し長い前髪の隙間から顔を覗くと額には汗が滲んでいて、大きな瞳にはじんわりと涙を浮かべていた。
「立てますか?とりあえず部屋に入ってベッドに――」
「枢」
陽に肩を貸して何とか立ち上がらせ、陽の部屋に入ろうとした枢に真夜が背後から声をかける。そちらを見ると、いやに真剣な顔をした真夜がじっと見つめていた。
「枢がなんとかしてやらないと。オレたちはそういう運命なんだから」
陽の体調が悪いのはPlay不足だというのが真夜にも分かっているのだろう。真白に肩を抱かれて心配そうに陽を見ている真夜に、枢は力強く頷いた。




