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「……もう一回言って?」
「なにを?」
「おれのこと、どう思ってるか……」
コマンドを使うこともできたけれど、なんとなくコマンドで言われる『本音』は『本音』じゃないと感じる。コマンドを出されると自分の心を開示される気分だが、コマンドを介さない言葉こそがやはり『本音』だと思うのだ。
そんな思いで陽が枢に『好き』という言葉をねだると、彼は少し恥ずかしそうに笑った。
「好きです、朝霧先生。高校生の頃に初めて見た時から……あの渡り廊下でぶつかった時から好きだったんです。好きで、好きで……愛してます」
枢からの言葉に目頭が熱くなるのを感じた。
なんせこの言葉を聞くまでに5年以上の月日がかかったのだ。陽も枢もこの間に色んなことを考えてはこの想いを捨てたり、もう叶わない恋だと諦めていたのに。神様や運命なんて信じたことはなかったけれど案外捨てたもんじゃないなと、枢と再会してから思ったものだ。
「おれも愛してる……いつの間にかこの"好き"が大きくなってて、どうしようもなかった。だから…SubのおれもDomのおれも枢のことを愛して、いっぱいにしてほしかった」
「……嬉しいです。Switchできるのは驚いたけど、自分の全てを余すことなくあなたに渡せるなら本望です」
「うれしい、枢。おれのことをもっと満たして……」
「朝霧先生がコマンドを出すのは俺が初めてですか?……でも、Switchできるって分かってたなら、誰かにコマンドを出したことがあるってことですよね」
「正式なコマンドではなくて……病院でたまたまSwitchの話を先生から聞いて、何気なくコマンドを口にしてみたんです。そしたら近くにいたSubが反応してしまって……それで自分がSwitchできる体質なんだって分かったんです」
「はぁ、よかった……それならやっと、俺が朝霧先生の"初めて"なんだ…」
そう呟いた枢から噛みつかれるようなキスをされる。これ以上は会話をしている時間が無駄だと言うように口を塞がれ、窒息してしまいそうなほどの愛を注がれると頭がふわふわしてきた。
少しだけ目を開けると枢が愛おしそうに陽を見つめていているので、枢の頭を優しく撫でた。ゆっくり頭を撫でている陽の手にすり寄ってくる枢は「好きです……」と言いながら、また甘いキスを落とす。とろとろに甘いキスを繰り返されながら、再び彼の熱い指が肌に触れた。
「……っは、ヒナ…かわいい、可愛いですね…」
「かなめ、も、変になるから……!」
「ふふ。セーフワード言えないの、可哀想。やめてほしいならコマンドを使わないと。そしたら俺は命令を聞くよ?今はあなたの"Sub"なんだから」
「うぅ、やだ、〈More〉……」
「もっと?命令されるより、命令するほうが恥ずかしいでしょ、ヒナ。真っ赤になって可愛い。Domの俺よりDomっぽくないね」
今は陽がDomのはずだが、完全に枢に手綱を握られている。
でも、それを止める術を知らない。
『Stop』なんてコマンドを言えるわけがなかった。




