2
なにをどうしていればよかったのかなんて考えても後の祭りだ。過去のことは変えられないし、その過去があって今がある。それならば、これからの『未来』をどう変えていくかだろう。
「……俺のことを好きって本当ですか?」
「うん……」
「高校生のときから?」
「そう、だよ」
「……あなたを一目見たとき、どうして俺はSubだって気付かなかったんだろう」
「分かる人のほうが稀だから、きっと……」
陽はたまたま直感が当たっただけで、全ての人のダイナミクスが分かるわけではない。ただ枢に対してはそう思った、というほうが正しいだろう。なんとも陳腐な言い方だけれど『運命』だから分かったのかも、なんて。
「でも、もしあなたがSubだと分かっていても…臆病な俺は行動できませんでした。どうせ同じようにずっと眺めているだけで……」
「おれもそう思います。おれは星先生がDomだと分かってても行動できなかったから…」
枢が陽の頬に触れて、額を合わせる。触れたところからじんわりと熱が伝わってきて、その心地良さに思わず目を閉じた。枢から与えられる熱が今は陽のものだけだという優越感と、枢の感情が陽にだけ向けられている安堵感と支配欲、全てが満たされるような気がした。
「……星先生もおれのことを好きって、ほんとうですか…?」
「本当です。俺だって高校生のときから……」
お互いの想いが通じ合ったからか、ただPlayをする時とは違って緊張が走る。枢の指が陽の顎をくいっと持ち上げて、キスされると思った時にはもう温かい唇が触れていた。
「………コマンドを出されてないのにキスをして、褒められたもんじゃないですね」
「ううん……おれが褒めてあげます」
枢の両頬を包み込んで、そのまま後頭部に手を回して枢の髪の毛を乱すようにくしゃりと撫でる。「〈Good Boy〉」と囁けば、枢の瞳がとろけるのが分かった。夜空に浮かぶ星を閉じ込めたような瞳に夜明けがきたような、太陽の柔らかい陽の光をじんわり宿したような瞳になって、こちらまでとろけてしまいそうだった。
「しつこいと思われるかもしれないですけど……」
「気になるなら何度でも聞いて下さい。星先生には何でも話すって決めたから……」
「日暮先生とは本当に…体の関係とかはなかったっていうことです、よね?」
先ほどまでとろけていた瞳が不安そうな色を宿すので、陽はそっと目尻を撫でた。言葉で説明してもきっと不安は残るだろうけれど、枢になら信じてもらえるまで何回でも説明するつもりだ。
「服の下を直接触られたことはない。もちろん、それはPlay以外でも……小さい頃は一緒にお風呂とか入ってたけど、そんなのも小学校低学年まで。真白がおれの裸を見たのはプールの授業くらい。最初のPlay以外、真白に触られたことはないって神様にも誓えます」
「あは、神様にまで誓えるなら…俺も信じます」
「本当に?」
「本当に。朝霧先生が俺には何でも話すって言ってくれたので、俺も誠実でいようと思うんです。その…朝霧先生は俺の好きな人、なので……」
枢から言われる『好きな人』という言葉に心臓がとくんと跳ねる。枢からそう言われることをずっと望んでいたので、陽の中の本来の『欲求』が満たされた気がした。
Subとしての自分もDomとしての自分も、枢に愛されたいというのが陽の本来の欲求だと心のどこかで分かっていた。だからこそ、枢の言葉で初めて自分の欲求が満たされたのだ。




