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【完結】夜明けの使者  作者: 社菘
第10章

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陽からの『コマンド』に反応した枢は、自分の中の深いところが作り変えられる感覚がした。先ほどまでDomとして、Subの陽の何もかもを支配したいと思っていた凶暴な感情は、目の前の『Dom』に支配されたいという『Sub』の思考にじわじわと変化していったのだ。


「枢、大丈夫。〈Look(おれを見て)〉、ゆっくり〈Breathe(息をして)〉」


どう足掻いてみても、陽のコマンドを実行してしまう自分の本能。

何がどうなっているのか分からなくて、突然のコマンドを頭の中から追い出そうとしている『Dom』の自分と、受け入れたいと言っている『Sub』の自分が頭の中で喧嘩していて、思うように呼吸ができない。そんな枢に気がついた陽に出されたコマンドを実行すると、自然と呼吸が楽になった。


「いきなりSwicth(交代)してごめんなさい、星先生……」

「どういうこと、ですか…?なんで俺、朝霧先生のコマンドを……っ」

「……稀に、どっちのダイナミクスも持ってる人がいるっていう話、聞いたことありますか?おれは本来Subなんですけど、突然Domとしても開花したんです。星先生はなんとなく、おれと同じようにどっちも持ってるような気がしてて…Swicthしたのは、賭けでしたけど……」

「じゃあ俺は、今はDomからSubに変化してるってこと、ですか?」

「……うん。おれが無理やり交代して、開花させちゃったかもしれません」


陽が申し訳なさそうな、苦しそうな顔をしながら「コマンド実行できて偉かったですね、ごめんなさい」と言って枢の頭を撫でる。撫でてくれるその手が気持ちよくて、褒められたことに安堵したような感情に支配された。陽の話なんて今はほとんど聞こえていないが、DomにもSubにもなれる人が稀にいる、ということだけは理解した。


「ごめん、星先生……おねがい、嫌いにならないで…おねがい……」

「朝霧先生……」

「愛してるんです、星先生のこと…だから支配されたいし、支配したい……ごめん、愛してる…あいしてる、枢……」


愛しすぎてて、おかしくなってる。


ぽつりと呟かれた言葉の意味が分からなくて、一瞬セーフワードだと思ってしまった。でも、陽の話が事実なら、今の彼はDomで枢がSubなのだ。だから今の陽が枢に対してセーフワードの『愛してる』を言う状況ではない。


だと、したら――


「不安を感じるなら真白とのこともまた全部話すし、過去のことも気になるならいくらでも話します。星先生に嫌われたくないんです、おれ……、おねがい。おれのことを〈愛して〉……」


コマンドにもセーフワードにも聞こえない『愛してる』に、くらりと眩暈がする。陽から言われる純粋なその言葉が、こんなにも自分の中を満たしてくれるなんて。深い夜の闇に覆われそうになっていた枢の心は、陽からの『愛してる』で夜明けを迎えようとしていた。


こうなってやっと理解したのは、枢の本当の欲求はSubに対して『優しくしたい』や『甘やかしたい』というものではなく『陽からの愛』だったということ。自分がDomでもSubでも、本当の欲求はこんなにも変わらないものなのだなと、初めて自覚した。


「………僕にあなたを、愛させて」


もう、どっちでもいい。

陽を縛り付けて、彼に縛り付けられるのなら、自分が何者でも構わない。


ただ、陽からの愛を、自分だけのものにしたい。


DomになってもSubになっても、この凶暴な感情だけは、消えることはなかった。


「星先生に気持ちがあるなら……おれに〈Kiss(キスして)〉…」


俺、は――。




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