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「なんで星先生と真夜が一緒に?どういうことですか」
「あの、ちょっと落ち着いて下さい、日暮先生……!」
「落ち着けません!星先生、Domですよね?真夜は俺のSubですよッ!?」
真白のそんな言葉に枢も真夜もハッとして、思わずお互いに顔を見合わせる。
陽に未練があるから真夜と別れて同棲も解消したんじゃなかったのか――?
先ほどまで真夜と話していた憶測の話とは違う展開に二人とも驚いてしまったのだが、それが逆に真白の頭を更に沸騰させた。
「なんですか、いつの間にそんなに仲良くなったんですか?真夜がSubだと分かって近づいたんですか?」
「いや、そういうわけでは……!」
「ちょっと、やめろって真白!オレから誘ったんだって!」
「は?誘ったってなに……」
「やべっ、今のは言葉の綾!」
「ちょ、ちょっと真夜くん…!更にややこしくなるから!」
「………真夜くん?名前で呼ぶほど親しくなったんですか、星先生」
「え、な、なんで朝霧先生が怒って……!?」
いつの間に枢がDomだと知られたのか、自分のSubである真夜が枢に取られると思っているのかGlareが出そうになっている真白と、その後ろで今まで見たこともないほど怒った顔をしている陽に枢はもう何をどうしたらいいのか分からず混乱した。
枢と真夜の見解では、昔付き合っていた二人がやはりお互いのことを忘れられずにまた復縁するのだと思っていたのだが、真白の様子からしてどうやら思い違いをしているらしい。でもそんなこと言われないと分からないし、二人の態度は完全に『元恋人同士』を彷彿とさせていたので、こちらが怒られるのは筋違いというものなのだけれど。
でもさすがに、この状況で2歳も年上の二人に指摘することはできなかった。
「……だからちゃんと捕まえとけって言ったろ、陽!お前が放し飼いしてるから!」
「は?なんでおれのせいにするわけ?真夜くんにフラれて泣きながら帰ってきた意気地なしは真白でしょ。そもそも真白が帰ってこなかったらおれと星先生は順調にいってたの!お前が帰ってくるからこじれんただろ!」
激怒している真白に殴られると身構えていたのだが、二人の突然の登場に驚いている枢と真夜を差し置いて二人が大声で喧嘩をし始めた。店内にいるお客さんも店員さんもこちらに注目していて、さすがに高校教師のいざこざをこのまま見られるわけにはいかない。早いところ退散しないといけないと、喧嘩している真白と陽の背中を押して店の外へ出てマンションへと向かった。
「大体、今更なにが"陽チャージ期間"だよ、嘘つき!おれのことなんて嫌いだろ、お前は!」
「は!?先に俺を嫌いになったのはお前のほうだろ!こっちはお前の具合が悪そうだから、家族だしと思って助けたのに翌日から避けられるし!」
「そりゃ避けるだろ!Play中に顔見たくないとか言われたら、誰でも嫌われたと思うだろうが!」
「いや、気まずくなるのは当たり前だろ!今まで俺、お前をそんな対象で見たことなかったのにいきなりだったんだぞ!?」
「あーあー、わかったよ、全部おれが悪いよ!おれがSubとして生まれてきたのが全部悪いよ!幼馴染がSubで悪かったな!同棲してた恋人からも疑われてフラれるし、散々だよな、真白は。おれがSubなんかに生まれたから、おれなんか……」
初めて陽が声を荒げている姿を見て、枢は心が痛んだ。そんなに自分を責めないでほしいし『おれなんか』なんて言わないでほしい。Subである陽のことを好きな人間が、現に目の前にいるのだから。
「……〈Relux〉、ヒナ。"おれなんか"って言わないで下さい……DomでもSubでもNormalでも、俺にはあなたが必要なんです」
興奮している陽の手を枢がそっと握ると、彼の大きな瞳から涙が零れ落ちる。まるで陽の心のように透明な涙を親指で拭うと、彼が指にすり寄ってきた。
真白は陽と枢がパートナー関係にあるというのは知っているようなので、陽を落ち着かせるためにもコマンドを使った。そのコマンドを陽は拒否することなく受け入れて、繋いだ手をぎゅっと握り返してくれる。泣いていた陽が何だか安堵したような顔になって、枢もホッとした。
「とりあえず、詳しい話はまた後日ってことで。行こう、真夜」
「あ、ちょっと……!枢、またな!」
真白に手を引かれながら上の階に連れ去られた真夜。残された二人は、陽の希望により枢の部屋に帰ることにした。




