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あの日以来、なんとなく陽を避けてしまっている。
別に陽が悪いわけでも、真白が悪いわけでもない。誰にでも過去はあるし、誰と付き合っていたとか誰とPlayをしたことがあるかなんて自分がショックを受ける話ではないと、頭の中では分かっているのだ。
でも、分かっているけれど、あの二人はやっぱりそうだったんだという気持ちがぐるぐる渦巻いていて、どうしようもない。真白が同棲までしていた恋人と別れた理由は?幼馴染だと言ってもそんなに毎日毎日一緒にいる必要は?陽が真白に強く言えないのは何か弱みでも握られているから?本当は、彼のことが好きだから?
だから枢が真白に誘われて家に行った時以外にPlayに誘ってこなかったのかもしれない。とても辛そうな顔をしていたからPlayができないことによる体調不良かと思っていたけれど、枢と真白に挟まれた状態でただ辛かっただけだろうか。
そんなことを思っていても聞く勇気はないし、聞いたとしてもどうやって陽を手放したらいいのか分からない。もう今更、彼への気持ちをもう一度捨てるには、想いが大きくなりすぎた。何事もなかったかのようにまたただの同僚として生きていくのは難しいくらい、陽を愛してしまっているのだ。
「――あの、すみません。このマンションに住んでる方ですか?」
「え?俺ですか?」
マンションのエントランスに入ろうとした時に声をかけられ振り向くと、マンションの外に植えられている植物の陰から出てきた人影にぎょっとした。話しかけて来た人は枢よりも少しだけ小柄な人で、黒い帽子を被った上からグレーのパーカーのフードまで被っていて、黒いマスクをしていた。ほとんど顔は見えないが、体格的に男性だろう。スキニージーンズのポケットに手を突っ込んでいたが、スッとその手が出てきた時はナイフでも持っているのかと身構えた。
「この人、見たことありませんか?」
「あ、日暮先生……?」
「真白を知ってますか?どういうご関係で?」
「えっ、いや、えっと…ただの同僚です、けど……」
「じゃあ、あなたも高校教師ですか?」
「そ、そうです、ね……」
男性が突き付けてきたスマホの画面に映っていたのが真白だったのでつい名前を出してしまったのだが、男性の怪しい雰囲気にもしかして真白のストーカーだったらどうしよう、と今更焦りが募ってきた。完全なる偏見でしかないけれど、真白は何人もの男女を泣かせてきたような雰囲気があるので、その中の一人だったりして――
「……もしかしてこのマンション、朝霧陽も住んでたりします?」
「なんでそれ……」
「チッ、やっぱりか…あのクソ野郎……」
陽も同じマンションだと分かった途端、男性は親指の爪を噛みながら舌打ちをし始める。陽と真白のことを知っているということは、二人の同級生という線もあり得そうだ。でもどちらに対してか分からない『クソ野郎』と言ったり、陽の名前を出して機嫌が悪くなるということは、やはり真白と過去に関係があった人ではないだろうか。
高校の頃の陽と真白を見ていた時、真白はいつも陽の側から離れずに彼のことを優先していた気がする。もしかしたらこの人と付き合っている時もそうだったのかもしれない……なんて勝手な想像が膨らんでいたら、ガッと腕を掴まれた。
「ちょっと顔貸して、オニーサン。オレにいろいろ教えてくんない?」
ただでさえ今の状況に頭を抱えているのに、更に問題が舞い込んでくるなんて――




