2
「お二人は恋人なんですか?」
乙織や慧至への上手い言い訳を考えていた枢の横で、陽が二人に質問した。何でそんなことを聞くのか不思議に思ったが、枢が下手に口を出すよりも陽に何か考えがあるのかもしれないと黙って見守ることにした。
「高校時代からね。ダイナミクスの診断前から付き合ってたのよ」
「そしたらちょうどよく、イオがDomで俺がSubだったわけ。そのままパートナーとしても恋人としても付き合っていくことにしたんだよね」
「へぇ、素敵ですね……そんな偶然があるなんて」
「確かに、私たちは運がよかったかも」
「まぁ、どちらかがNormalとか、二人ともDom同士だったとしてもそのまま付き合ってたと思うよ」
「それはどうしてですか?自分の欲求はNormalの人とは解消できないのに……」
陽がそう聞くと慧至は顎に手を当てて「うーん」と言いながら宙を見上げる。枢は二人と長く付き合ってきたけれど、もしもどちらかがNormalだったり二人とも同じダイナミクスだったらどうなっていたか、という話は聞いたことがなかった。
枢はそのせいで一度陽への恋を諦めたけれど、もし乙織や慧至が同じ状況になっていたとしても慧至はそのまま付き合っていたと思う、と言えるくらい乙織への気持ちが確固たるものだったのかもしれない。だとしたらそれはものすごく純愛だなと思うのだ。
「自分の欲求を満たす欲求のために乙織と別れるより、乙織を失うほうが俺には怖かった。まぁ、ただの俺のわがままなんだけどね」
そう言って苦笑する慧至の言葉に乙織は照れていて、それを隠すためか慧至の背中をバシバシ叩いていた。乙織は豪快なところもあるが意外と乙女チックな一面もあるらしい。まぁ、姉のそんな意外な一面はあまり知りたくはなかったけれど。
でも、弟である枢から見ても二人は羨ましいくらい理想のカップルだ。恋人としてもパートナーとしても上手くいっているなんて、本当に二人は運命で結ばれているのが分かるくらい恵まれているのだろう。
自分も陽と、そういう運命だったらよかったのに。
確かに奇跡が起こってパートナーにまでなれたけれど、彼はパートナーと恋人は別だという考え方なのだ。ただ最後までしていないだけで、恋人同士のような甘く熱いキスは何度も何度もしているというのに、これが彼にとっては『恋人』のうちに入らないのだから、なんだか頭がおかしくなりそうだ。
「お二人の絆は素敵ですね。そんな人に出会えるなんて奇跡でしかないです」
「そういう陽くんは?誰かいい人いないの?」
「うちの枢くんとかおすすめだけどね、Domだし。かっこいいし、優しいし、奥手でいい物件だと思うけど」
「ちょっと、売り物みたいに言うのやめてくださいよ」
「ていうか、陽くんがSubなわけないでしょ」
「え?いや、でも……」
慧至が乙織の言葉に首を捻る。陽が白石先生を同じSubだと感じたように、慧至も同じSubのことは感覚的に分かるのかもしれない。慧至は陽をちらりと見やるが、こんなところで言うことでもないからと口をつぐんだのが分かった。
「……実は先日、星先生とパートナー契約をさせてもらったんです」
「えっ、あ、あさぎりせんせ…!?」
「うそ、本当に!?」
「あ~、だよね……枢くんが人を連れてくるなんておかしいと思ったんだよ」
陽の突然の告白に乙織たちよりも枢のほうが驚いてしまった。なんせ二人の関係のことを誰にも話したことはないし、そもそも陽が自らSubだと言っているのを今まで見たことがなかったのだ。それをこんな、人が多いカフェで言わせてしまったことに枢は責任を感じた。自分たちのことを言わざるを得ない状況に追い込んでしまったのは、他でもない枢が陽をこの場に連れてきたからである。申し訳ないという意味を込めながら陽を見ると、枢の意に反して彼はふわりと柔らかく笑っていた。




