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生きたい  作者: 中川 篤
2/2

2 ピストル



 無心で浜に降りると、ひとは一人しかいなかった。日が昇ろうとしていた。その一人は銃を持っていて、それを水平線に向けかまえていた。輝な子は「?」と、思う。

 と、いきなり、

――バァン!

 発砲音。乾いた音が周囲の砂浜にこだました。男はまっすぐ伸ばした手を下すと、構えた銃を水平線の位置から下げた。辺りを窺い、こっちを見ると、あ、と輝な子と男が同時に声を漏らした。「(とおる)じゃない! なにやってるの!」

 徹は名前を呼ばれて、輝な子に振り向いた。見ると、浜辺の入口のところに彼の単車が停めてある。間違いなく徹が、彼女を認めると、「やあ」と、ばつの悪そうな声を出した。古い知り合いで、昔、よく顔をみせていた。この辺りの暴走族だ。歳は不明。

――(みこと)はどうしたの?

――別れたよ。

 それより、といって輝な子は彼の持っているものを指で示す。

――それ、なに?

――ピストル。100均の玩具だよ。

 徹の柔和な顔が、輝な子の顔をのぞきこんだ。

――泣いてたな。

 輝な子は「そう」といって訳を話した。あらかた話し終えると、

――あんた仕事は?

――してないよ。金はあるからな。

 輝な子は呆れた。まだ無職って。

――撃たせて。

――こう持つんだ。

 徹は輝な子にピストルを持たせてやった。それは確かに玩具のピストルだった。水平線に銃を構えた輝な子の腕を支え、徹が言った。

――さっき言ってたことだけどな。俺もしょっちゅう経験あるよ。ありゃ女の子の店員だったが、女の子なんてそもそも気まぐれなもんだろ? 個人的に何かあったのかもしれないし、ひょっとしたら俺の髪型がむさくるしいとか、そんなくだらない理由で不機嫌になっただけかもかもしれない。そういうもんだろ? だから俺はそのことで悩むのをやめた。

――うんうん。そうよね。無職は辛いわよね。

――うるせえ。とにかく、そいつを撃っちまえよ。撃って、悪霊を殺すんだ。

 輝な子が引鉄を弾くと、辺りに「パァン!」という乾いた音が再び響いた。それで悪霊が殺せたかどうかは分からない。ただ、少しだけすっきりしたことは確かだった。「これ貰っていい?」



2024・3 吉日


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