1 鬱のテレビ
大学生活のころを振り返ると、輝な子は胸が苦しくなる。今の自分が失ってしまったものばかり、そこには転がっているからだ。
障害、入院、そうしたものがもし無かったら、と輝な子は思う。仲間たちの温かい申し出を受け入れていたら! 挑戦することを諦めていなかったら!――けれどそれも過去の事。一生分の後悔が輝な子を襲う。
死ぬ、そう決意すると頭の中が冴え冴えしてきた。輝な子は、テレビを点けてみた。夜の七時だった。ゴールデン帯のバラエティだったが、画面に映る芸能人の言葉を耳にして、輝な子は驚くほど胸糞が悪くなった。テレビ画面を殴りつけてやりたい衝動に駆られたが、そんなことをしても無益だということに思い当たると、いよいよテレビを切った。
こんなとき腹いせに、自分を痛めつけた芸能人をスマホ片手に口撃する輩もいるのだろう。そうして留飲を下げることもできるだろうが、輝な子はそうしなかった。ただ、単純に思い至らなかったのだ。
すべて灰色に見えるのは、テレビの中だけではない。世界もだった。電車に乗ると、花粉症が流行っているのか、誰もかれも鼻をすすっている。
それからもう、死ぬ、という単語さえ枯れてきた。ただただどこでもいいどこかへ移動したかった。何もかも嫌で、今いる場所から離れられればそれでよかった。気持ちはそれだけだった。
そして結局、三浦海岸までやって来ていた。