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さらば青春の甘酸っぱい日々

「マーティ!」

「クソザメか!

 ぶっ殺してやる!」

「いやああああ」

 船上では人間たちが騒いでいた。

 間抜けなサメをハントして、知らんぷりをする遊び。

 反撃はある程度予測していたが、まさか空中をサメが跳び、船上を攻撃して来るなんて思いもしなかったのだ。

 そして、まさか仲間が殺られるなんて……。


 そんな彼等のスマートフォンが一斉に鳴る。

「何だ?」

「誰?」

「メッセージの送り主は……ジョージ?

 おい、誰だふざけた事してるのは!」


 それはホオジロザメに転生したジョージ・スティーブンが確かに送ったものである。

 モバイルフォンと一緒に転生という謎な事態だった為、電波の受信と簡単なメッセージの送信は出来るのだった。


『久しぶりだね、陽キャの諸君。

 また会えて光栄の極み』


 わざとらしい仰々しい言い回しであった。

 ジョージは続けてメッセージを送る。


『完全犯罪ゲームとやらで僕を殺したね。

 僕は確かに死んだよ。

 でも復活して、今君たちの近くに居るよ』


 ショウは怒り、放送禁止用語を叫びながら返信して来た。


『どこに居る?

 姿を見せやがれ、この幽霊(ゴースト)野郎』


 ジョージはすぐに返事をする。


『とっくに姿を見せたんだけど、気がつかないようだね。

 ショウは海に落ちなかったようだけど、僕のキックを食らったダメージは大丈夫かい?』


 返信が止まる。

 船上でもスマホの画面を覗き込んでいた4人が黙り込んだ。

 まさか?

 そんな訳ないだろ?


 ジョージは決定的なメッセージを送る。


『マーティは喰い千切ってやった。

 でも喰ってはいない。

 海底に捨てて来た。

 お前たちなんかを胃に入れるのはまっぴらごめんだ』


 何も知らない子供のレンを除き、ショウ、エレナ、ハーパーはかつて死に追いやったジョージが、ホオジロザメになって復讐しに来た事を悟る。

 バレていないと思った秘密も奴は知っている。

 どうやって?

 いや、そんな事を知っても何の意味も無い。

 問題なのは、殺意と知性を持っているかもしれない巨大ザメがこちらを狙って来ているという事だ。


「ヤバい。

 ショウ、救援を呼ばないか?」

 そうハーパーが言った瞬間、再び高速疾走したサメが宙を跳ぶ。

 ジョージと思わしきサメは、その巨体をクルーザーにぶつけて来たのだ。

 そして衛星アンテナ、通信アンテナを破壊して、反対側から海に消えた。

 半信半疑だった彼等もこれで確信する。

 あのサメは人間の文明を知っている。

 通信手段を奪って我々を孤立させる気なのだ。


「どうする?」

「決まってる!

 あの死にぞこないを今度こそ地獄に送る!」

「もう止めよう。

 ここから逃げましょうよ」

 大人3人が方針を決める前に、またもエアジョーズがクルーザーを襲った。

「レン!!」

 サメは子供のレンを狙って体当たりし、海に叩き落とした。

 そしてそのまま子供を連れ去ろうとする。


「レン!!!!」

「クソったれが。

 俺たちの子に何かあったら、ただでは済まさないぞ!」

「やめろ!

 これは罠だ!

 俺たちを誘き出す為に、ジョージがやった事だ」

「うるせえ!

 黙ってやがれ!

 あの野郎、もう許さねえ!

 絶対殺してやる」

 エレナは泣き叫び、ショウはクルーザーを走らせて連れ去られる我が子を追う。


(どうする?

 こいつはショウとエレナの子だ。

 それだけで罪があると思うが……)

 ジョージが自問自答する。

(食イ物ニ区別ハナイ。

 食エ!)

 サメの本能がまた支配的になって来た。

 しかしジョージは、

(僕を罠に嵌めて殺した奴と、僕を騙して弄んだ女との子供で、それだけで大嫌いだが、

 それでも僕はこの子から何かされた訳ではない。

 利用はさせて貰うが、この子は殺さない)

 そう結論を出した。

 もっとも、体当たりを食らった時点で大ダメージを受けているし、嚙み切ってはいないが、鋭い歯で噛みながら運んでいるから、咥えた部分からは出血している。

(殺す気はないが、これで死んでしまうなら、それはそれまでだ。

 そういう運命だったのだ、この僕のように)

 と冷めた考えも持っている。

 人間らしさが失われて、サメというか野生の真理に支配されつつあるからなのか。


 兎に角、このレンという子供は殺さない。

 本当に殺したい奴を誘き寄せる為の道具になって貰おう。

 そう思いながらジョージは、ある海域まで子供を運んでいく。


「おい、あそこだ!」

 追いついて来たクルーザーは、海の上にちょっと顔を出す岩礁に引っかかっている子供を発見した。

 グッタリしているが、五体満足なようだ。

 生きているか死んでいるか、遠目からは分からない。


「レン! レン!!」

 エレナが必死に呼び掛ける。

 こういう時に親は、死んでいると諦めたりしない。

 無駄でも、生きていると信じたいものだ。


「よし、今助けてやる」

 ショウが船を寄せようとする。

「ダメだ、この海域は!」

 ハーパーが叫ぶが

「うるせえ!

 黙ってろって言っただろ!」

 頭に血が上っているショウは、ハーパーを怒鳴りつけた。

 だがハーパーも黙っていない。

「ここは危険なんだ!

 ここは以前ジョージを嵌めた、急な海流が起こる場所なんだ!」

 そう言い終わる刹那、船が大いに動揺する。

 岩礁付近で水が暴れ、おかしな波を立てたのだ。

 そして、ジョージが揺れたクルーザーに体当たりをする。

 この揺れで、息子を助けようと手を伸ばしていたエレナが海に放り出された。


 海に沈むエレナ。

 この岩礁付近の海流が、彼女を海の底に引き摺り込む。

 そんな彼女は、迫って来る巨大なホオジロザメを見る。

(ジョージ……お願い、助けて。

 許してちょうだい……)

 彼女はそんな都合の良い事を、サメの巨大な顎が自分に迫るまでの間、思い続けていた。

 ジョージはその間、疑似的な楽しかった日々を思い出しいる。

 陰キャの自分に告白して来た女の子。

 何とも言えないが、甘酸っぱくて幸せな日々ではあった。

 それが偽りだった事を知り、その全ての記憶がどす黒く染まる。

(ええい、未練だ。

 こんな事思い出すな!)

 彼はサメの本能に身を委ねる事にする。


 クルーザーに掴まっていたショウとハーパーは、海中から浮かび上がって来る赤いものを見て、エレナの結末を悟るのであった。

陽キャがバカ過ぎなのは、サメ映画のデフォルトです。

次話は明日の17時です。

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