奇妙なサメの特殊能力
サメにはロレンチーニ器官というものが備わっている。
微弱な電気を感知する器官で、餌を探し出すのに役立つとされる。
ジョージ・スティーブンがホオジロザメに転生した時、モバイルフォンと一緒に転生をした。
その為、ロレンチーニ器官が謎進化をしてしまっている。
彼がそれに気づいたのは、人恋しくて漁船の周りをうろついていた時であった。
『サメがうろついている。
あいつも捕獲してしまおうか?』
『やめておけ。
絶滅危惧種とかで、こっちに危害を加えない限りは手を出さない方が良い』
『海でバラしてしまえば問題ないだろ』
『操業に邪魔なのか?』
『邪魔はして来ないが、目障りだからな』
『じゃあ無視しろ。
サメは危険だから、怪我しても割に合わない』
『じゃあどうしたら良い?』
『サメ除けの粉でも撒いておけよ』
このような無線通信が聞き取れたのだ。
ジョージは驚くと共に喜んだ。
彼はホオジロザメに転生している。
しかし心の中は人間なのだ。
電波を感知し、それを理解出来るという事は、こんな姿でも人間と関われるかもしれないのだ。
彼は攻撃される前に漁船の周りから離れる。
そして自分の住んでいた町に向かって行った。
自分を育ててくれた母親と連絡を取る為に。
自分と友達付き合いしてくれた仲間と接触する為に。
電波が飛び交う町に近づくにつれ、ジョージのロレンチーニ器官には整理不能なレベルで情報が飛び込んで来る。
サメがこういうのもおかしいが、情報過多で頭が痛くなってしまった。
彼はひとまず町から離れる。
自分の能力は分かったから、それを制御出来るようにならないと頭痛になるだけだ。
そう整理すると、電波が受信出来る圏内に立ち入っては、情報を整理して受信する訓練を始めた。
元々彼はオタクなのだ。
通信パケットの仕組みとか、データ通信のセキュリティとかを熟知に近いレベルで知っていた。
その為、多くの雑音を聞き流す能力と、欲しい情報を引き当てる能力を見つけ出し、磨いていく。
そして自分から発信する能力をも見つけた。
簡単に言えばショートメール。
それ以上の事は出来ないが、それだけで十分だ。
サメが写メを送ったり、動画配信をしたら、それはそれで面白いし需要はあるだろうけど、そこまで高度なデータ圧縮は出来ない。
頑張ってやろうと試みたが、そっちに集中し過ぎると泳ぎが疎かになり、息苦しくなる。
サメは泳いでいないと呼吸が出来ないものだから。
ジョージは母親にショートメッセージを送った。
母親は最初いたずらだと思ったようだ。
いくら送信しても返事は来ない。
そこでジョージは、母親の誕生日を語り、その時に約束していたプレゼントを送れずに申し訳ないというメッセージを送る。
これはジョージ以外は知らない情報なのだ。
母親は、既に登録抹消となった筈の電話番号から送られてくるメッセージの主が、本物の息子である事を理解した。
慌てて自分宛に電話を掛けて来たのは感じ取れたが、出る事は出来ない。
彼はもう喋る事が出来ないのだから。
『母さん、心配かけてごめん。
でも僕は生きている』
『生きているなら声を聞かせて』
『ごめん、不可能だ』
『病気とか怪我なの?』
『どれでもない。
言っても理解出来ないと思う』
『貴方は死んだって聞いていた。
3年間もどこで何をしていたの?』
『3年?
数ヶ月前の事じゃないの?』
どうやらジョージが溺れ死んでから3年も過ぎていたようだ。
そしてホオジロザメの中で記憶を取り戻したようである。
『もう3年も経っていたとは知らなかった』
『どこで何をしていたの?』
『それは自分でもよく分からない』
『早く帰って来なさい』
『出来ない』
『どうして?』
『例えるなら”2001年宇宙の旅”のボーマン船長のような存在になったから』
母親は、このマニアックな表現から、いよいよ実の息子であると確信した。
『冗談はそこまで』
『冗談ではなくて、本当に会う事は出来ないんだ』
しばらくメッセージが止む。
『ジョージ、貴方がどこに住んでいようが、貴方は愛する私の子です』
『ありがとう、母さん』
『時々は連絡をくれますか?』
『もちろんだよ』
『貴方が生きているだけで私は幸せです』
この言葉に、ジョージはしばらく返答が出来なかった。
もし彼が人間ならば涙を流していただろう。
サメだから出来ないけど……。
こうして母親との連絡をした後、ジョージは恋人のエレナにメッセージを送る。
もう3年も経っている。
いきなり送りつけて驚くだろうな。
もうこんなホオジロザメになってしまった以上、彼女と恋人でいる事なんて出来ない。
一通り連絡が取れたなら、お別れを言おう、そう思っていた。
ジョージは
『いきなりごめんね、ジョージだけど連絡取れる?』
そう送信した。
だが返事が無い。
代わりに、彼女がショウに電話を掛けたのを盗聴出来てしまう。
「ショウ、悪ふざけは止めて」
「は? 何の事だよ」
「あんた、ジョージの名前で私にふざけたメール送ったでしょ?」
「は? ジョージ? ウケる!
あいつは3年前に死んでるだろ」
「そうよ。
私たちの思う通りに溺れて死んだあいつよ。
その名前を騙るなんて、趣味悪いわ」
(何だと?)
ジョージは聞き捨てならない言葉に、サメだけど鳥肌が立つ感じになっていた。
次話は21時です。
胸糞展開です。