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銅40g亜鉛25g、それと食品添加物80ml。

作者: 浜松なめこ

 __17時45分

 レジの奥からカウンターFF越しに彼女を見る。

 ベージュのサコッシュをかけた眼鏡の女性だ。名前も職業も知らない女性だ。


 __17時50分

 彼女は両手で持てる分だけしか買い物をしない。

 新発売のスイーツなんかを買うとなれば、彼女は肘から指先までを使ってレジへやってくる。

 思うに、買い過ぎを防ぐためだろう。

 彼女は子供ではない。だがかと言って子持ちには見えない。

 (まぁ、子持ちはコンビニで夕飯を買って帰ったりしないか)

 コンビニで満足する夕飯を買おうとすれば千円近くかかることも珍しくない。あくまで性別は違うが、やはり大差はないだろう。


 __17時58分

「橋本くん、休憩行ってきなさいな」

 パートの山口さんが廃棄の食品を集めおわってレジまで戻ってきた。

 俺は言う。

「区切りがいいので、18時になった瞬間入ります」

 言いながら俺は山口さんの手元を観察した。

 いや、正しくは『物色』したのだ。

 

 __17時59分

 彼女がレジまでやってきた。いつもながらカゴを使わず両手に商品を抱えている。

 彼女の手からカウンターに移された商品はやや熱が移っている。同時に、ほのかに柑橘系の匂いがした。

「レジ袋はご利用ですか?」

「いえ、大丈夫です。あぁでも、温めとお箸をお願いします」

「かしこまりました。お時間少々いただきます。お会計871円です」

「クレジットで」

「タッチお願いします。__レシートはご利用ですか?」

「大丈夫です」


 __18時00分

 彼女の背中を閉じゆく自動扉越しに見送った。

 これは発見なのだが、最近彼女がやたら小さいお菓子を買っていくようになった。チロルチョコやおやつカルパス、ガム。以前は細々した駄菓子よりスイーツを一つ買っていく印象だったが……。

「山口さん、休憩行ってきます。何かあれば__」

「わかってるわ、手に負えなくなったらブザーで知らせるわね」


 __18時05分

 休憩室へ行くとまずモニターが目に付く。六つに画面を分割され、店舗の監視カメラをそこで見ることができる。しかし特段気にすることはない。

 バイトの俺がやるべきこと。__それは防犯対策や客入りの動線を改善することではない。

 あくまで機械的にお客さんを処理するだけだ。

 

 __20時09分

 廃棄になってしまった弁当を食った。

 味が落ちているかどうか、そんなことは分からない。

 コンビニの飯は味気ないと言うより白々しい。そんな味がする。

 中身がスカスカのスポンジに香りだけ付け足したような。そんな味がする。


 __18時50分

 ワンオペの間は特にすることがない。

 店長や社員は品出しをやれというが、レジを離れるのがひどく億劫なのだ。

 確かに品出しはやらなければならない。だがやらずとも良い。

 いやむしろ、品出しに夢中になりレジに並んでいるお客さんを待たせる方が店的にも損失なのではないだろうか。あいつらは、すぐにコンビニ店員の悪口を言いやがる。

 タバコの棚に背を預け、少しだけ力を抜いた。退屈な時間はまだ一時間も残っている。


 __19時50分

 彼女が来店した。

 引き継ぎ作業の準備を終えたばかりだった。一息ついていた、束の間の出来事だった。

「レジお願いします」

「はい、お伺いします」

 彼女は紙パックの100円ジュースを二つ、それとコンドームを片手にレジへやってきた。

「レジ袋はご利用ですか?」

「いえ、結構です」


 __23時50分

 今日も廃棄の弁当を食った。相変わらず縁が酸化したレタスは紙を食っているようだった。米粒は唾液と混ざり合ってすぐ輪郭を失った。

 廃棄の弁当なんかそんなものだ。

 白々しい。白々しい。白々しい。

 毒の味。

読んでくださりありがとうございました。

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