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7.不穏

読んでいただきありがとうございます。

 薄暗い部屋で、醜い笑みを浮かべた三人の男達が顔を寄せ合い話し込んでいる。

 小太りの男、痩せた男、体格のいい男。それぞれ三人とも、身なりのいい格好をしている。



 そして襟元には同じバッジが光っている。この国の「議会」のメンバーである証だ。


 議会とは、この国の上層機関である。

 国王が全ての最終決定権を持っているが、案件を議会にも降ろされその結果を参考にすることもあるし、任される場合もある。反対に、議会から挙がった案件を国王に持っていくことも多い。

 そして議会メンバーである「議員」は高位の貴族で占められており、権力者の集まりとなっている。

 現国王になり、今はあまり稼働していないのが現状だが、議員たちが集まって何かしら話すことは珍しいことではなく、誰も不審に思うことはない。


 例え、その中身が不穏な話であっても。






「計画は順調か?もうあまり待ってられないぞ。」


 体格のいい男が少し苛立った様子で投げ掛ける。


「うむ、あそこの娘が結婚する前にしなくては。」

「もう結婚する時期か?まだだろう。」


 痩せた男と小太りの男もそれぞれ話し出す。


「何歳だったか。でもここ一年で結婚するはずだ。本格的に準備を始める前の、今しかないだろう。」

「それに早くしなければ、撒いてきた種もそろそろごまかしが効かなくなる。既に勘づかれている。」


 証拠は出てこないのでそこまでなのだが、と小太りの男が息をつく。


「そうだな、奴らもここまで来たらさすがに大きく動き出すだろう。本気で動かれたらまずい。」

「他家に協力を求められても困る。やはり早くしなくては。」


 相手も馬鹿ではないため、本格的に動かれたら、男達が巧妙に隠してきた足取りが暴かれるかもしれない。しかし男達に焦りの色は見えない。


「もう準備は出来ているのだ。あとは近い日を決めるのみ。」

「では決行は?いつにする。」

「…それはこの日しかないな。」


 小太りの男が暦をトンと指差して答える。


「この日は、いつも目を光らせている第二王子殿下も王都から遠いコータスへ視察に行かれている。」

「ん?コータス?」


 それは王太子殿下が行かれる予定ではなかったか、と痩せた男が不思議そうに聞く。


「ふん、そんなことも知らんのか。もともとはその予定だったが王太子殿下が体調を崩されたから、ご兄弟で視察地を替えられたのだ。」


 小太りの男の代わりに、体格のいい男がぶっきらぼうに答える。


「いや、そんな情報は………………まさかお前。」


 痩せた男の顔色が急に悪くなる。


「ふっ。あんな遠い地に行ってもらう絶好の機会ではないか。大丈夫だ。王太子殿下はすぐに体調は戻っている。視察地変更は念の為だ。」


 そもそも変更については第二王子殿下自ら言い出したのだぞ、と小太りの男は得意げだ。


「だからといって、王太子殿下に何かあったらどうしていたのだ………っ」


 痩せた男が顔色の悪いまま小太りの男を咎める。王家にとっての害を無くそうと思い、今回の計画を進めているのに、計画のためにその王家にまで手を出しているとは思っていなかった。


「そこはうまくやっているから心配なかった。な?」


 小太りの男がしたり顔でにやつく。そして体格のいい男が、無精髭を撫でながら頷き、続ける。


「なかなか危ない橋を渡ったが、私の手を貸したんだ。失敗などするはずがない。体調も全て想定内だ。殿下には申し訳なかったが。」

「………殿下にいったい何をしたのだ?」

「ふん、料理人を買収し、食事に少し細工をした。細工といっても毒を盛ったわけではない。」


 食材として普段も使われるものだが、量を採りすぎると喉の痛みが出たり、発熱したりする。しかし腹を壊すわけではないから、もし集団でかかったとしても、風邪の感染程度に思われ、食事が元だと気付かれないものだと体格のいい男は説明した。


「…野営などで得た知識か。さすがだな。」

「これでも引退するまで至極真面目に勤めていたからな。」

「馬鹿言え。真面目くらいではこのような知識は得られんわ。野心を持って貪欲に得たものだろう。」


 小太りの男に指摘され体格のいい男はその通りだと笑う。


 さらに、件の料理人はもう家族の体調不良を理由に退職しており、こちらからこっそり別の働き口を紹介してあるという。もう何処にも何も痕跡は残っていない。


 痩せた男は二人の話に肝を冷やしつつも、一切の痕跡がないことに安心し、息を吐く。



「…まぁ、これでようやくあの鬱陶しい公爵家が潰れるのか。混血の一族め。」


 名前を口に出すのも嫌な顔をして体格のいい男が言う。


「必ず潰してやる。」


 すると、三人の中では比較的慎重である様子の痩せた男が心配を口にする。


「今更だが、公爵夫妻だけ潰すのではいけないのか?屋敷もだとリスクが大きいだろう。」


 しかしその心配も小太りの男に一蹴される。


「だからお前は甘いんだ。あそこの使用人は優秀だ。公爵夫妻がいなくなっても仕事は引き継がれ、娘と第二王子が予定通り結婚して終わりだ。むしろ一番避けたい事態が早まるだけだ。」

「そうだ。我々は、あの家と王家の結婚を許さないのだから。」


 体格のいい男にも言われ、痩せた男は本来の計画の目的を思い出す。


「…そうだったな。今まで目をつぶってきたと言うのに、ついに王家まで取り込もうとは。婿入りなど言語道断!娘しかいないのなら、養子をとるかお家取り潰しのどちらかしかないというのに、どちらもしないとは!!」

「だから我々が強制的に終了させるのだろう。」



 自分達のすることがこの国にとって正しいことだと信じているように装っているが、腹の中ではこの国を自分達の良いようにしたいという思いが滲み出ている。



「今、あそこは使用人たちも人手不足なはずだ。」

「しかし油断は出来ないぞ。しっかりと屋敷ごと潰せ。」

「では娘もか。」

「いや、あの娘は使えるな。養子に迎え入れれば第二王子殿下との婚姻で縁戚関係を結べるぞ。」

「あぁ、その場合、王家に嫁ぐことになるだろうな。その方が王家にとっても第二王子殿下を手放さずに済むし良いだろう。」


 あそこは本当に厄介な家だ、と痩せた男はため息を吐く。しかし小太りの男が勝手なことを言い出す。


「しかし、あの娘、容姿はいいからな。頭も良いし、うちの息子が気に入っていたよ。『第二王子と婚約さえしていなければ』と。どうせ潰れた公爵家の娘など王家には入れないだろう。我が家に嫁として迎え入れてやることくらいは出来る。」

「おい、それでは王家との繋がりはどうなる?」

「まぁ二人とも急ぐな。今話さずとも娘のことは後からどうにでもなる。」


 言い合いになりそうな二人を、体格のいい男がどうでも良さそうに仲裁する。


「そうだな。事後に息子に意見を聞くのもいいかもしれん。」

「あぁそれもいいかもな。案外誰もいらんと言うかもしれんしなっ。」

「ははっ!そしたら予定通り王家に嫁いでもらうために、養子としてどこかが引き取るまでだ。」


 男達は、自分勝手な欲にまみれた笑い声をあげる。男達にとっては、この”国”と”自分達”が全てで、王族ですら”駒”なのだ。






「では、計画どおりに。」

「あぁ、まずは公爵夫妻だな。」

「奴らがまわるルートは私が調べておこう。」

「頼んだ。」



 三人はまるで遊戯をしているかのような軽い雰囲気で会話を続ける。




「これから起こる全ての事は、偶然が重なってしまった不幸だ。そこに思惑など何も無い。そうだな?」

「あぁ、私達は何も知らない。」

「もう手は打ってあるのだし、日だけ指定した後は傍観するだけだ。」



 それこそ盤の上の駒でも動かしているかのように。




「まぁ、あそこの娘も死んだら死んだで別に構わん。」




 まるでそこに命などないかのように。



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