4.婚約者との出会い2
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(王子様が、本当に王子様だった………!!!)
予想も出来ていなかった事実を前に、クラウディアは笑顔で固まったまま汗が止まらない。
普通に考えたら、王宮に当たり前のようにいる男児など王子くらいしかいないのだが、八歳のクラウディアにはそこまで考えを回すのも無理な話だった。
(どうしよう、どうしよう!?王子様なんて初めて会ったよ!!たしか、『殿下』って呼ばなきゃ!)
王族と会話するなどこれが初めてだったクラウディアは、半ばパニックになり、
「えっと、たいへん失礼をいたしました……っっ!?」
とりあえず謝ることにした。
「え、なんで謝るの?」
いきなり挙動不審なクラウディアに、フィンリーは笑いを溢しながら聞き返した。
「えっと、失礼ではなかったですか…?」
「いや、特には?」
先程のやり取りを思い返しても、しっかりと初めから敬語を使っていたし、少しばかり砕けた態度だっただけで失礼な発言や態度はなかった。
そしてそれが、フィンリーとしても自然で心地よかったことに気づく。
「だからそんな急に畏まらなくても大丈夫だよ。」
「あ、ありがとうございます……」
(それにしても、防御魔法か…)
そういえば聞いたことがある、とフィンリーは記憶を辿る。確か防御魔法を得意とする家があったはずだ。
「防御魔法…ってことは、君は…ウォルトン公爵家の子??」
「えっ!…はい!!クラウディアともうします!」
フィンリーが自分の家を言い当てたことに驚き慌てつつも、クラウディアは名乗りドレスをつまんでお辞儀をした。
(やっぱりウォルトン家か…。)
クラウディアと会話をしてみて、見た目の年のわりにちゃんとしているとは思っていたが、公爵令嬢と聞けば納得だった。日頃から教育を受けているのだろう。そしてそれがきちんと身につく程には、クラウディアは真面目に教育を受けていることがわかる。
(ウォルトン家が防御魔法が得意とは知っていたけど、どのように使っているのかはまだ知らなかったなぁ…。というか、)
「その防御魔法について他人に喋って良かったの…?」
「??」
機密事項とかではないのだろうか?クラウディアはフィンリーの質問の意味もよく分かっていない様子であり、幼さゆえ悪気なく情報を漏らしてしまったのではないかと心配になる。
「えっと、その防御魔法のこと、人に言ってはいけないとか言われてない…?」
フィンリーがわかりやすく聞いてみると、クラウディアは理解したようだった。しかしその表情は焦るどころか笑顔になった。
「言われてません!いっぱい喋っていいとお父様が言っておりました!」
「え、そうなの?」
「はい!だって攻撃できないって知られてる方がわざわざ攻撃してこないだろうってお父様が!」
「…………なるほど。」
確かに、不意打ち出来ないと分かりきっている相手に仕掛けようとは思わない。だが、それを『いっぱい喋っていい』とは…面白い一家だなとフィンリーは感じた。
フィンリーが思わずくすりとしていると、クラウディアはフィンリーの方をチラチラと見ながら、何か聞きたげな様子だった。何かあるのかと聞くと、クラウディアは遠慮がちに口を開いた。
「…えっと、あの…殿下は、さっきは何の魔法を練習していたのですか?」
クラウディアが初めからどうしても気になっていたことだった。好奇心に耐えきれずおずおずとフィンリーに尋ねる。あの綺麗な魔法は何だったのか、知りたいと思った。
「あぁ、あれは…光と風の魔法を合わせたらどうなるか試していたところなんだ。」
「どうなるか?」
「?うん、やったことなかったしね。」
『やったことがない』とはどういう意味なのだろうか。そして、『魔法を合わせてみる』というのもよくわからない。一人で初めて試すということをクラウディアはしたことがない。
「やったことない…?教わってからまだやってみたことがなかったということですか?」
「え?ううん、教わってないよ。」
(教わっていない?)
教わっていないということは、つまり、自分で考え出したということになる。
「え!!えっと……じゃあ、自分で考えて作ったってことですか!?」
「そういうことになるかな?」
あっさりと肯定されクラウディアは驚く。クラウディアは、魔法のことは親や家庭教師から少しずつ教わっているが、すでにあるもののやり方を教わっているばかりなので、自分で新しく作り出すというのは初めて聞いた。
「わぁ!そんなこと初めて聞きました!!すごいです!!!!」
目を輝かせながらベタ褒めされ、フィンリーはなんだか照れくさくなった。
しかし、あれはまだフィンリー自身が思い描いていた魔法の形にはまだ遠かった。
「本当は、僕はまだもう少し違う感じにしたかったんだけど…こう、風が光を纏う感じに…」
「そうなのですか?でも、本当にキレイでした!キラキラしてて…!」
「…そっか、キレイと思ってもらえたなら、まぁ良かったかな。」
フィンリーは生まれつき魔力量が多いだけに、周りからいろいろなことを期待され、それにもある程度応えられてきた。しかし、まだまだ魔法を思い通りに出来ないことも多いと、少し自信をなくしていたのだが、あの段階でもこれだけ褒めてもらえると、なんだか自分を肯定してもらえたみたいで嬉しくなる。
「えっと、クラウディア、だった?」
「はい、クラウディアです!」
「よかった、合ってた。」
「すごいです。一度しか言っていないのに!」
フィンリーは記憶力が良く、名前や顔もすぐに覚えてしまう。もう自分にとっては当たり前のことであったが、純粋に驚かれるのも久々で、新鮮だった。
フィンリーは知らず知らずのうちに、クラウディアともっと話していたいと思っていた。
「僕も聞きたいんだけど、さっき言ってた防御の膜って、今も張ってるの??」
クラウディアが聞きたかったことを話したのならば、フィンリーもさっきからずっと気になっていたことを聞いてみることにする。
「はい!今もです!」
クラウディアはにこにこしながらずんっと自身の右の手のひらを突き出してきた。
「………………。」
一瞬身構えたが、何かをしてくるわけでもなく笑顔のままクラウディアは止まっている。
その行動の意味がわからずフィンリーは沈黙するが、ふと気づく。
(あ、これは、触ってみていいということだろうか…?)
「えっと、触っていい、の…?」
「はい!どうぞ!!」
本当に触ってよかったのか。でも、逆に、本当にいいのだろうか?この娘は無防備すぎやしないか。
そう思いながらも、好奇心の方が勝り、フィンリーはクラウディアの右手に触れる。
「……特に、何も感じない。これが普通なの?」
「あ、はい!ただ触っただけなら何ともなりません!」
「……………じゃあ触る意味ないよね。」
「はっ!!そうでした!じゃあ何か攻撃してみてください!」
なんてことを言い出すのだこの子は。初対面の女の子に攻撃など出来るわけが無い。
「ちょっと…攻撃は、出来ないね…」
「そうですか…?……そうですよね…」
でもフィンリーはどうしても膜のことが知りたい。せっかくの機会なのに「じゃあいいや」と諦めることはしたくない。何か出来ないかとフィンリーは頭を回転させる。
「あ、そうだ。攻撃は出来ないけど、魔力を探知してみてもいい?」
「たんち?」
「うん、魔力探知で、魔法が使われているかどうか確かめるんだ。」
「そんなことが出来るのですね…」
「うん、まぁさすがに自分以外の個人は特定できないけどね。……いいかな?」
「はい、もちろん!」
「じゃあ、するよ。」
フィンリーはクラウディアの右手を軽く握る。自分の魔力を、じわじわとクラウディアの身体に沿わすように流していく。そうすると、確かにクラウディアの周りに魔法を感じた。
「なんだか、ポカポカします。」
「…気持ち悪くなってない?」
「え?とっても気持ちいいです!」
「………………ははっ」
無邪気なクラウディアに、思わず笑ってしまう。見た目やただ触れただけでは何も違和感がないのに、今は確かに魔法を感じることが、やはり不思議で面白かった。
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過去編、あと一話続きます。
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