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36.微睡みの中の幸せ3

忙しく、更新が遅くなってしまいました。


ブックマークしてくださっている方々、気長に待っていただけている方々、本当に本当にありがとうございますっ!


「連れて行きたいところがある。」


 切ない微笑を浮かべたまま、フィンリーがこう言った。


「……?」


 何故、今そのような流れになったのか状況をよく理解出来ていないクラウディアだったが、フィンリーはそれを気にする様子はなく「しかし、」と続けた。


「堂々と王宮の中を歩く訳には行かないから、転移魔法を使うがいいか?」

「えっ、いまからですか…?」

「あぁ。何か問題?」

「え、と、いえ…私はかまいませんが…」


(また転移魔法…!?)


 逆にそんなに転移魔法を連発して大丈夫なのだろうかとクラウディアは心配になる。

 イルビス家から王宮への移動も転移魔法だった。これからまた使うとなれば、一日で二度目となる。フィンリーの口ぶりから、今回は王宮内での移動のようだが、並の魔力では到底不可能だ。転移魔法を使えること自体、空想の世界の話のようなものなのに、それを何度もというのは人間離れしている。

 そんなフィンリーのことを、恐ろしいと思う人もいるのだろう。そしてそう思う反面、なんとしてもフィンリーを味方につけたいと思っている者もいるだろう。反対に、フィンリーを排除してしまおうと考えている者も、悲しいことにいるのだろう。


「…私が恐ろしいかい?」


 そんな考えを読んでか、フィンリーが困ったように尋ねる。

 しかしクラウディアは、これまで驚くことはたくさんあったが、フィンリーのことを恐ろしいと思ったことは一度もない。


「いいえ。…もちろん驚きますし、フィンリー様のお身体は心配ですが。」


 クラウディアがそう即答すると、フィンリーは目を丸くし、そして眩しそうに細めた。


「――君のそういうところが……いや、今はいい。…じゃあ、今から行くよ。」

「あ…はい。」


 フィンリーがクラウディアの手を握り、また身体が光に包まれ転移した。


 クラウディアにとって転移は三回目だったが、その感覚に少し慣れてしまった自分に驚いた。そっとフィンリーを見やると、フィンリーは至って平気そうだ。実は日常的に転移魔法を使っているのではないかとさえ思える。改めてフィンリーの底の知れなさを感じたクラウディアだった。


 転移した先には、広大な緑が広がっていた。まるで牧草地のようにも見えるそこには、ところどころ石板が埋め込まれている。その石板には、何か文字が刻まれているようだ。そう、これは―――


「…ここは…」


 クラウディアは、まさかと思いながらフィンリーに尋ねる。


「王家の埋葬地だ。」

「!」


 やはりここは埋葬地であった。埋め込まれている石板は、歴代の王家の人々の墓標だ。クラウディアはもちろん初めて足を踏み入れた場所だ。屋外のようなここは、実は王宮内で、魔法で作られた異空間のようなところだ。天気が変わることはなく、いつも晴れ渡っている。まさに、魔力が強い王族だから継承していける場所である。

 クラウディアは、話には聞いたことがあったが、初めて実際に目にし、本当に外のように見えるこの不思議な空間に思わず見入ってしまう。

 するとフィンリーが、繋いでいたクラウディアの手をさらにきゅっと握り直した。


「…こっち。」


 そうしてフィンリーは、立ち止まっていたクラウディアの手を引いて進み、ひとつの墓標の前で立ち止まった。


「ここに、連れて来たかったんだ。」

「あ……」


 その墓標には、『クロード・ウォルトン、メリッサ・ウォルトンここに眠る』と書いてあった。


「――――っ」


 クラウディアの、父と母だ。


「お父様、お母様…っっ!!」


 両手で口元を覆ったクラウディアの瞳から、涙がぼろぼろと溢れ出す。そしてクラウディアは膝から地面に崩れ落ちるように座り込んだ。フィンリーもしゃがみ、そっとクラウディアの肩を支えた。


 クラウディアは、震える手で墓標の文字をなぞる。


「っ…―――」


 大好きな大好きな父と母。まだまだ伝えたいこと、話したいことがたくさんあった。


「―――ごめんなさい!ごめんなさい…っ!!」


 しかし、亡き両親への再会で、クラウディアの口から初めて出た言葉は、謝罪だった。


「ウォルトン家を、護ることが出来なかった…!二人を、死なせてしまった……っ、みんなを……っ!」

「ディア…」


 涙を流しながら謝罪の言葉を繰り返すクラウディアに、フィンリーはクラウディアの肩を支えていた手に少し力を込め、声をかける。


「君のせいではない。」

「だって、フィンリー様にもっ、たくさんの人に迷惑を…っ」

「私は君に何も迷惑をかけられていない。」


 フィンリーがそう言っても、クラウディアは立ち上がり首を振った。その勢いでクラウディアの涙が散る。


「私がっ、私にもっと力があったら…!」

「…ディアはディアに出来ることを最大限してきたじゃないか。」

「それでも…っ」

「ディア。」


 震えながら拳を握り締め、なおも自分を責めようとするクラウディアの言葉を遮り、フィンリーはクラウディアを抱き締めた。


「私は、君を責めるためにここに連れて来た訳では無い。」

「……っ!」

「純粋に君とご両親を会わせたかったんだ。ディアが簡単に出入り出来ないところに埋葬してしまったし、少し後悔もしていたんだが…」

「…そんな……」


 クラウディアにとっては、両親をきちんと埋葬してくれたこと自体に感謝している。


「だから、ディアが王都に来てくれて良かった。」

「…!」

「辛い思い出の地なのに、再び来てくれてありがとう。」

「フィンリー様……」


 クラウディアが王都に来るには、それなりの覚悟が必要だった。フィンリーに会うという目的があったものの、もう居場所のない自分が王都に再び足を踏み入れることは許されないことのような気がしていたからだ。

 ヴィレイユからの道中、馬車に揺られながら、何度も引き返そうかと思った。王都でもし誰かに見つかり、嘲笑われたら、責められたらと考えると、ずっと恐くて不安だった。だから最初にレイモンドに会ったことは、本当に幸運だったのだ。

 フィンリーにとっても、クラウディアと会うことは迷惑でしかないと思っていた。しかし、それをフィンリー本人に良かったと言ってもらえ、固まっていた恐怖や不安が溶けていき、またも涙がクラウディアの頬を伝う。その涙をフィンリーはそっと拭った。


「ディア。後悔は、してもしきれないだろう。例えそれが君のせいでなくても。」

「………」


 フィンリーは、クラウディアを抱き締め、あやす様に背中をトントンと叩きながら言葉を続ける。


「…私も、後悔はしてもしきれない。」

「そんな、フィンリー様は何も……」

「君はそう言ってくれるだろう?だが、私はいろいろと考えてしまう。『もっと私に力があったなら』と。」


 それは、つい先程クラウディアが口にしたことと同じ言葉だった。


「あ……」

「だから、一緒なんだよ。」


 そう言ってフィンリーは、優しくクラウディアの横髪を梳いた。


「フィンリー様っ…」


 先程の後悔の話は、フィンリーの本心だろうが、クラウディアを気遣って話してくれたのだろう。クラウディアは、そんなフィンリーの優しさが眩しく、くしゃくしゃになった顔をその胸にうずめて隠した。

 フィンリーは、そんなクラウディアに気づかないフリをしてくれながら、優しく語りかける。


「ご両親も、ディアには笑っていて欲しいはずだ。」

「………」


 クラウディアは目を瞑りながら、心地の良いフィンリーの声に耳を傾ける。


「だから、幸せになっていいんだよ。」


 フィンリーの言葉に、クラウディアはハッと顔を上げる。視線が合った瑠璃色の瞳は、クラウディアを写し、優しく輝いている。


「幸せに……なってもいい…?」

「あぁ。」


 フィンリーは力強く頷いて断言してくれる。


「そして、君がどうなっても、何を名乗っても、この二人の娘『クラウディア・ウォルトン』であることは消えない。」

「…っ!!」


(あぁ、だから…)


 これを伝えるために、フィンリーはクラウディアをここに連れてきてくれたのだと理解した。

 フィンリーの気遣いに、クラウディアはまた瞳が潤んだ。


「………私の幸せって……」


 今の自分の幸せとは何なのだろう。クラウディアは独りになってから考えたこともなかった。そのため、その先は何も言うことが出来なかった。


 するとふいに頭を抱えられ、クラウディアはまたフィンリーの胸に顔を埋めるかたちになった。


「フィンリー様…?」


 フィンリーの顔が見えなくなり、顔を上げようとすると、そっと後頭部を押さえられ、顔を上げることが出来なかった。フィンリーはそのままクラウディアの頭上で話し出す。


「この国の悪いところを放置していたせいで、ディアに辛い思いをさせてしまったね。」


 その表情は見えない。そしてフィンリーが独り言のように呟く。




「だから、私が全てを終わらせる。」




 その声は低く、そしてひどく冷たかった。





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