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35.微睡みの中の幸せ2

読んでくださっている皆様、本当に本当にありがとうございます!

「あの、フィンリー様…これは……」


 クラウディアは戸惑いつつフィンリーに声をかける。


「ん?よく似合っているよ。」


 声をかけられたフィンリーは、当然のように答える。クラウディアは今、ワンピース姿ではない。つい先程、フィンリーが呼んだ侍女にあっという間に着替えさせられ、クラウディアの瞳より深い緑色のドレスに身を包んでいる。


「あ、私…やはり似合っていませんでしたか…?」


 すぐに着替えされられたクラウディアは、先程まで着ていたワンピースが似合っていなかったのかと不安になった。この一年で平民の服も自分に馴染んだと思っていたのだ。似合っていない格好でフィンリーと話していたのかと思うと、クラウディアはいたたまれなくなり俯いた。


「ディアはどんな格好でも綺麗だ。ワンピースもよく似合っていたよ。」


 そんなクラウディアに、フィンリーは安心させるように微笑む。フィンリーにそう言われ、クラウディアはそっと顔を上げた。


「そのドレスは、ディアに会えたら贈ろうと思っていたんだ。だからすぐに着て欲しくって。」

「そう…なのですね…」


 クラウディアはスカートを摘んで見つめる。そう言われると、新しそうなこのドレスは、サイズもクラウディアにぴったりだった。いつ用意してくれていたのだろうか。クラウディアは自分では一年前とは少しサイズが変わっているかと思っていたが、フィンリーが用意出来たのだから、実は変わっていなかったのかと不思議に思った。


「それに、万が一誰かに見られても、ドレスならまだ違和感が無く誤魔化せる。」

「!」


 フィンリーの言葉に、クラウディアはやはり自分はここに居て良い存在ではないのだと認識した。


「…ワンピースも十分可愛らしかったが、王宮では目立ってしまうからね。」


 そう言うフィンリーの顔は少し寂しそうだった。


「そうですね……あ、でも先程の侍女の方たちは…」


 着替える際、思いっきりクラウディアを見られてしまっている。クラウディアが青ざめると、フィンリーは可笑しそうに笑った。


「彼女たちは大丈夫だ。絶対に口外はしないと信頼しているよ。」

「あ、そうです、ね…」


 少し考えれば、フィンリーが呼びつけた時点で信頼のおける者たちなのだろうとわかることだった。実際、侍女たちはクラウディアを見ても顔色一つ変えずに着替えを手伝ってくれた。

 馬鹿な質問をしてしまったと恥ずかしくなり、頭を横に振ったクラウディアの首元で、円形の飾りが揺れた。

 するとそれに気づいたフィンリーがクラウディアの首元に目をとめる。


「その首飾り……」


 フィンリーの呟きを聞き、クラウディアは自分の心臓が大きく鳴るのを感じた。

 この首飾りは、アレンから貰ったものであるが、クラウディアはフィンリーが用意したものだと思っている。しかし、ちらりとフィンリーを窺っても、その表情からは何も読めずよくわからない。

 確かめるべきか迷い、クラウディアは首飾りをそっと触る。


「…ヴィレイユで、友人からいただいた贈り物です。」


 クラウディアは落ち着いた振りをして、敢えて端的に答えた。


「そうなんだ。ディアによく似合っている。」

「この耳飾りを見て、石の色を揃えてくれたそうです。」

「…へぇ、そうなんだね。」


 フィンリーの反応は至って普通だ。隠し通すつもりなのだろうか、それとも本当に関わっていないのか、クラウディアは分からなくなってきた。

 しかしどちらにしても、この首飾りが大切な物なことには変わりない。そもそもデザインが好みである。そして、アレンがクラウディアのことを考え、この首飾りを贈ろうと思ってくれた気持ちは嘘ではないはずだ。


「とても素敵で、気に入っています。…大切なものです。」

「…………そうか。」


 クラウディアが飾りを見つめると、フィンリーは一瞬何か言いたげに口を開いたが、言葉を発することは無かった。


「この耳飾りと同じくらい大切ですよ?」


 首飾りを大切だと言ったせいでか、何故かフィンリーが寂しげに見えたので、クラウディアが補足してそう言うと、フィンリーは目を丸くした後、少し恥ずかしそうにしながらもその目を細めた。


「ふふ、ありがとう……ディアが気に入っているのなら、今の私と同じように、きっとその首飾りを贈った彼も嬉しいだろうね。」

「そうだといいです。」


 二人で首飾りを見ながら微笑む。




(…あれ?)




 返事をしてからクラウディアははたと気づく。

 クラウディアはこの首飾りを贈ってくれたのは()()だとしか言っていない。



 つまりフィンリーには、その友人の性別などわかるはずがないのだ。



 それなのに、フィンリーは当たり前のように()だと言った。


(やっぱり、フィンリー様はアレンさんのことを知っていたのね…!)


 クラウディアは確信した。ただ、アレンの方は、ヴィレイユでの様子から、そのことを知らないのだろう。

 気づいてしまった以上は、うやむやにはしたくない。クラウディアは姿勢を正し、フィンリーへと顔を向けた。


「フィンリー様。」

「ん?」


 クラウディアの、先程より硬い声と表情に、フィンリーは怪訝な顔をした。


「ディア?」

「…私は、この首飾りは『友人からいただいた』としか言っておりません。」

「?…あ。」


 フィンリーは、一瞬不思議そうにしたが、クラウディアの言葉の意味を理解したようで、「しまった」という顔をした。


「この首飾りは、あなたが用意されたものですよね?」

「……………」


 クラウディアの翡翠色の瞳に真っ直ぐ見つめられ、フィンリーは観念したように息を吐いた。


「……よく気づいたね。」

「気づきます。私を見くびらないでいただけますか。これでも一年前までは裏を読みまくる社交界を生き抜いていたのですよ。」


 クラウディアは背筋をピンと伸ばし、毅然とした態度で話している。その姿は、まさに一年前までのクラウディアと同じだった。


「なんだか急に令嬢の感じが戻ってきたな……」


 フィンリーがぼそりと呟く。しかしクラウディアは聞き取れなかったようで、怪訝な顔をフィンリーに向ける。


「何か?」

「あぁ、いや。…その、嬉しくなかった?」


 フィンリーにしょげたようにそう言われ、クラウディアは少したじろぐ。フィンリーに物申したい気持ちはあったが、そんな顔をさせたい訳では無かったのだ。

 しかし、流されまいとクラウディアはひとつ息を吐いてから質問に答える。


「…正直、気づいた時はとても嬉しかったです。フィンリー様が私のためにこれを作ってくださったのだ、と。」


 まだフィンリーが自分のことを考えてくれているのだと実感出来たからだ。


「しかし、アレンさんを利用したのはよくありません。どのようにしてその手に渡したのかは分かりませんし、深く追求もしませんが…」

「!………アレン…」


 本当はアレンまで渡った経緯はとても気になるが、それはおそらくフィンリーは話してはくれないだろう。魔法などを使って、多少無理やりなことはしたのだろうが、アレンに対しては人道的な方法であったと信じているので、クラウディアはそこを追求することは諦めたのだ。

 そしてやはりフィンリーは明らかに『アレン』という名前に反応した。


「知っておられるのでしょう?ヴィレイユで私がどんな方たちと親しいのか。」

「……あぁ。」


 フィンリーは、気まずそうな顔をクラウディアへ向けている。


「怒ってる…?」

「怒っています。…フィンリー様が私の周りを把握されていることに関しては何も言いませんが、この首飾りは、私たち二人だけのことで済むはずなのに、他の方を巻き込んだのはいけません。」

「!」


 それに、そんなにまわりくどいことをするよりも、直接渡して欲しかった。それに、せっかくのアレンからの贈り物だったのに、純粋に喜べなかったのも悲しかった。


「……………すまなかった。」


 クラウディアの言外の理由を読み取ったのか、フィンリーはすぐに謝った。


「……『アレン』殿にも、すまないことをした。ディアの手に渡るには、彼が確実だと思ったんだ…」


 そして、アレンに対しても、フィンリーが自分の気持ちだけを優先して利用してしまったことを反省してい

た。


「そうですね。ただ…」


 クラウディアは言葉を続ける。


「首飾り自体はとても素敵で気に入っていますし、この、首飾りに、『クラウディア・ウォルトン』の名を残していただいたことは、……っ、」




 そこまで言ったクラウディアの視界が滲む。




「嬉しかった、です…っ」


 すごくすごく嬉しかった。その気持ちは本当だ。もう消えてしまった、もう呼ばれることもないと思っていた自分の本当の名を、形に残してくれたのだから。


 溢れ出るクラウディアの涙を、フィンリーがそっと親指で拭い、ふわりと抱きしめた。


「クラウディア。私はいつまでもその名を忘れないよ。」

「……っ、はい…っ」


 そしてフィンリーはクラウディアの両肩に手を置き、顔を覗き込んだ。そして安心させるように真っ直ぐに瞳を見つめながら、切なげな微笑を浮かべた。




「連れて行きたいところがある。」






お読みくださりありがとうございました。

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