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28.兄の独白

 生きて会えて、本当に良かった。


 私のもう一人の妹、クラウディア。


 辛かっただろう。悲しかっただろう。悔しかっただろう。


 助けに行く事が出来ず、本当にすまなかった。

 …よく耐えて、生きていてくれた。





 王太子という立場でなかったら、すぐにでも探しに出たのに。…情勢がそうさせてはくれなかった。


 この国は平和だ。長らく平和だったせいなのか、愚かにもその平和に飽きてきた奴らがいる。

 平和が一番だ。より権力を持ちたいが為に、わざわざ争いごとを起こす意味がわからない。


 …これは、私が王族という、揺るがない一番高い地位にいるから思えることなのか…


 しかしその一番高い地位である私達がおかしいと思っているのだ。この国を治める者として、民のおかしな考えは正す必要がある。

 奴らは必ず罰せられる。いや、私が罰する。


 私利私欲のために、命が奪われることなどあってはならないのだ。

 それなのに、私にとっても大切な家族がその犠牲となってしまった。


 この一連の件に関して、責任をもって裁き、世間の流れを正していかなければならない。

 それが済むまでは、クラウディアが生きていたとして、居場所を特定されるのは危険だと判断し、すぐにでも探し出したい気持ちだったが捜索を断念したのだ。


 結局は、表立って動けない私をよそに、フィンリーが独自にとんでもない方法で見つけたのだが。私の弟はつくづく有能だ。

 そして、全てクラウディアのために、動いている。


 しかし、クラウディアの安全を考慮して、「ウォルトン公爵令嬢」は未だに「行方不明」のままにされている。

 今現在クラウディアの居場所を知っているのは私たち兄弟と、国王()のみだ。

 その他の家族には、クラウディアが無事だったことだけは伝えている。

 王妃()やアイビーは、クラウディアが無事だと聞いて泣いて喜んでいた。

 アイビーは特に、「自分も会いに行きたい」とごねていたが、クラウディアの安全のためにもそれは出来ないということを理解し、諦めはしたが、


『くれぐれも、くれぐれもっ、お姉様によろしくお伝えください…っ!!』


と、私が商談に同行する目的を嗅ぎつけたようで、泣きながら念を押された。




『兄上、バーレイ商会の商談に同行されるのですか…っ?どうしてそのようなこと…っ』


 そう、フィンリーにも発つ前に言われたな。


『……()()()()()()()()くる。』

『!!そ、それは…っ?』

『私だって心配している。おまえだけでなく、私にも顔くらい見に行かせてくれ。』


 目的と理由について明言はしなかったが、フィンリーの顔色が明らかに変わる。


『っ、俺は…っそんな…………いや、…』


 しかし私は決して弟を責めたい訳では無い。


『……フィンリー、…最近言葉遣いが少し砕けているな。』

『!申し訳ありません…っ』

『いや、いい。家族間で堅苦しいのは嫌いだ。しかし最近特に忙しなく動きすぎで疲れているのではないか?』

『……いえ…』


 弟が度々どこかへ出かけているのを私は知っている。堂々とだったり、こっそりだったり。

 そしてどこへ行っているのかは、だいたい検討がついている。


『私は、たまたま興味のある商談に同行するだけだ。それ以外の用事は無いが………何か要望はあるか?』

『!……あ…いえ………では、また…その商談のお話を聞かせてください。』

『……わかった。そしてフィンリー、おまえは少し休め。』

『………ありがとう、ございます。』



 そうして私は商談に参加した。しかし参加する本当の目的は伏せてあるため、本当にきちんと商談に参加した。それはそれで面白いものではあったが。



 そして商談が少し落ち着いた頃、漸く抜け出すことが出来、目的の地へ向かったのだ。




 久しぶりに会った妹は、よく泣いた。



 意外だった。弟と婚約してからは特に大人びて見えていた彼女だが、あの時は年頃の娘に見えた。


 以前は泣く姿など見たことが無かった。まさにお手本の公爵令嬢で…もう少し兄として甘えてくれてもいいのにと思ったものだ。


 そう思うと、感情を見せてくれたことは嬉しいことだったのかもしれない。ようやく家族になれたような気にもなったが、もう彼女は、私のことを家族だと思ってくれても決して口には出さないだろう。


 しかしどの立場になっても、私が彼女を妹のように思っていることは変わりない。








 …あの日だって。


 フィンリーがクラウディアだけ逃がした理由は、おそらく王族としての責任を感じてだろう。

 本当は二人一緒に、もっと早い時点で逃げてしまいたかったはずだ。

 なのにフィンリーはそれをしなかった。私に迷惑がかかるとでも思ったのだろう。


 私のことなど気にせずに、二人で逃げたら良かったんだ。

 そうすればせめて二人は離れ離れになることはなかった。


 二人の力があれば、どこででも生きていけるはずだ。愛の力などというものではなく、二人には確かな実力があるのだから。もとより、愛する者が傍にいることは、生きていく上でとても重要だが。

 私も妻や子どもを持ってから、よりその重要さを感じている。


 人は愛し愛される者が居れば生きていける。



 …反対に、愛し愛される者がいるからこそ無理をすることもあるが。

 今の二人の状態がそうだとも言える。

 全く、上手くいかないものだ。



 フィンリーは、充分頑張ってくれた。


 この国は、大丈夫だ。あいつが頑張ってくれたから、もうすぐ膿を出し切れるだろう。

 すぐにでも全てを投げ出したかっただろうに、それをしない弟は、らしいというか、無理をしているというか。


 これからは私がなんとかしてみせる。ここは私の国だ。いつまでもフィンリーにばかり任せていられない。あいつはそろそろこの件に関しても私に任せるべきなんだ。



 もう弟には、好きに生きて、幸せになって欲しい。




 それにしても。

 いきなり王太子がいち商談に同行など、やはり我ながらなかなか無茶をした。

 ただでさえバーレイ商会には迷惑をかけてしまっているのに。

 …まぁそんな無茶も私はこれが最初で最後だ。


 さて、こうまでして私が動いたかいはあっただろうか。せめてもう一度だけでも、フィンリーに会ってやって欲しいものだ。





 兄として、弟と妹、二人の幸せを願っている。


 どこにいても。

あの日、フィンリーは確かに一瞬だけ迷ってしまっていました。その理由もエイブリーの考えた通りです。


兄は弟のことをよくわかっているのです。


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