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22.温もり

読みに来てくださってありがとうございます。


評価やブックマークしてくださっている方、本当にありがとうございます!

「ディアナ!!出かけるよぉ〜!!」


 翌朝、突然クラウディアの部屋の扉が勢いよく開けられ、そこにはリリィ、ローラ、レベッカの三人が立っていた。


「え…?えっと、今日は…閉館日よね…?」


 今日は月に一度の、シエールが完全に休みの日だ。それなのに何故芸妓の三人がいるのか。それもこんなに朝早い時間に。クラウディアは疑問と驚きを隠せない。


「ディアナ、行くよ。」

「えっ、レベッカ、どこへ…?」

「遊びに行くの!ほら!着替え…てはいるね!お財布持って!行くよ行くよー!」


 リリィがクラウディアの手をぐいぐいと引く。


「えっちょっと……っ」


 クラウディアはまだ訳が分からず混乱している。


「ディアナ、マーシャさんには今日家事もお休みもらえるように言ってあるから。」

「ローラ…え、お休み??」

「はいはい、しゅっぱーつ!!!」


 こうしてクラウディアは三人に強引に連れ出された。




 □□□




 四人が出てきた時間はまだ早いにも関わらず、ヴィレイユの街は活気づいていて、たくさんの人と声が飛び交っている。広場では大道芸人がおり、子ども連れを中心に、たくさんの人がその芸に見入っている様子もあった。




「今日は、何かの日だったかしら…?」

「ううん、なんの日でもないよ!」


 街を歩きながら尋ねても、リリィの答えにますますクラウディアは混乱する。


(何なんだろう……)


 そんなクラウディアの疑問も、続くローラの言葉で吹き飛ぶ。


「ディアナ、バーレイ商会の商品好きなのよね?まだお店行ってないでしょう?今日はみんなで行きましょう。」

「え!本当に!?」

「今日は、ディアナの行きたいところ行こう。」

「いいのっ!?嬉しい……」

「あはは!さぁ行こう!」


 アレンから提携店の場所を聞いたはいいものの、忙しかったり、フィンリーのことがあったりして、店に行けていなかった。


 仕事の合間に芸妓の三人とバーレイ商会の話もしていたから、クラウディアが行きたがっていることは三人も知っている。


「あたしも気になってたから!ディアナ詳しそうだし、いっしょに行こ!」

「行くなら今日の休みの日にしましょうって決めてたのよ。」

「それなら、教えてくれたって…」

「サプライズの方が楽しいでしょうっ?」

「そんな…」


 他の三人で決めていたのなら、別に自分にだけサプライズにする必要もないと思ったクラウディアだったが、バーレイ商会の商品を買いに行けるなら、もうどうでも良かった。機会をくれた三人に感謝だ。


(でも、だったらもっとお金持ってくれば良かった…)


 訳も分からず急いで出てきたため、財布にはある程度のお金は入っているが、欲しいものが全部買える金額ではない。


(…まぁ、また来たらいっか…)


 今日店を巡って、気になるものはまた買いに来よう。どうせ一度に全部買うことは出来ない。そう決めてクラウディアは今日を有意義に楽しむことにした。


「まずどこから行く?」

「じゃあ、化粧品を見てもいい?」

「まぁ、いいわね!確かこっちの店よね。」


 四人はさっそく化粧品を取り扱う店に入った。


「ディアナは何が欲しいの?」

「えっと…全般的にかな……あっ!」

「どうしたの?」

「私……お化粧してない……」


 朝、クラウディアは、バタバタと財布の中身の確認もせずに出てきたものだから、当然化粧などしていなかった。

 素顔で外へ出て来ていたことに今更気づき、クラウディアはいっきに恥ずかしくなった。


「お、お客様、それでお化粧されていないのですか…っ!?」


 すると会話を聞きつけたらしい女性店員が慌ててクラウディアに近寄ってきた。素顔を見られるのが恥ずかしくクラウディアが俯くと、興奮した店員にぐいっと顎を持ち上げられた。


「!?」

「なんて、お肌が綺麗なのかしら…っ!!」

「え……」


 まさか褒められると思っていなかったクラウディアは目をまんまるにして固まっていた。


「これは…お化粧のしがいがあるわね…っ!!」

「えっと…」

「…あっ!失礼しました!!あまりにも綺麗でつい…っ」

「い、いえ…」

「あはは!ディアナ褒められてる!良かったね!」


 勢いの強い店員に戸惑うクラウディアを見てリリィは大笑いしている。


「もう、リリィ…」

「あはは!つい面白くて、ごめんっ!」

「本当に失礼しましたっ!…えーと、何をお探しですか?」


 冷静さを少し取り戻した店員が尋ねてくる。


「こちらでバーレイ商会の物を取り扱っているとお聞きして…」

「バーレイ商会の物ですか!おすすめですよ!いくつかお持ちしますね!」


 そう言って店員はバーレイ商会の商品をいくつか持ってきてくれた。どれも良さそうで全部欲しくなってしまう。


「迷うようでしたら、試供品もございますよ。是非試していただきたいので、お渡しさせてくださいっ!」


 そう言って試供品をたくさん渡された。


「ええっと…ありがとうございます。こちら試してみます。…じゃあ今日買うのはこれと…」


 クラウディアが試供品とは別に買うものを選んでいると、店員はクラウディアの他の三人にも視線を巡らせ、よりその目を輝かせた。


「まぁ、まぁまぁ!皆さん全員とってもお綺麗で可愛らしいではありませんかっ!」


 そうして皆さんも是非!とまた次々と試供品を渡された。三人も喜んで受け取り、その他にそれぞれ買いたい物を選んだ。


「よろしければ、私がバーレイ商会の新商品を使ってお化粧させていただいても?」

「えっ!いいんですかっ!」

「もちろん!むしろさせてくださいっ!」


 店員が素顔のクラウディアを見て、嬉しい提案をしてくれた。クラウディアはこの店で買った物で後で化粧をしようと思っていたので、今プロにしてもらえるとなるととても嬉しい。

 クラウディアはありがたく店員に化粧をしてもらうことにした。


 店員が商品の説明をしながら丁寧に化粧をしてくれる。クラウディアにとって、人に化粧をしてもらうのは公爵令嬢だった時以来だ。今となっては自分で化粧をすることが当たり前となっているため、少し気恥しい気持ちと、懐かしい気持ちが混ざっていた。


「…はい、いかがでしょうか?」

「わぁっ!!ディアナ綺麗!!!」

「すごく似合ってるわ!」

「お嬢様みたい。」


 やはりプロは違う。流行の色も取り入れて、ムラなく施された化粧は、自分を輝かせてくれていた。

 なんだか公爵令嬢だった頃のようで、クラウディアは自然と背筋が伸びた。


(お化粧…もっと丁寧に頑張ろう。)


 化粧によって変わるということを実感し、改めて腕を磨こうと思ったクラウディアだった。



「化粧品たくさん買っちゃったね〜!」

「あの店員さん、すごい。」

「また行きたい…」

「また行きましょう!みんなでね。」



 化粧で気分が上がると、お洒落をしたくなる。次は自然と、服を取り扱う店に向かった。



「これ可愛いね。」

「それ、レベッカに似合う。」


 

 なんて会話をしながら、買い物をした。気のおける仲間で、仲も良いが、服の趣味はそれぞれ違う。それもまた面白く、似合う服をお互い見繕ったりした。



「またたくさん買っちゃった〜!全部可愛いんだもんっ!」

「お腹空いてきた。」

「そうねぇ、何か食べに行きましょう。」



 たくさん歩きお腹が空いてきた四人は、食事が出来る店を探す。

 しかし、クラウディアはふと、自分の財布の中身がもうあまり無いことに気づく。


「…あの、私、もう手持ちがあんまり無いのだけれど…」

「あぁ大丈夫大丈夫!」

「え?」

「払っとくから、また今度返して〜!」

「え、いきなり連れ出したんだから、今日くらいみんなで出してあげたらいいんじゃないの?」


 リリィの軽いノリの言葉に、ローラが笑いながら意見する。


「そっか、確かに…」

「いや、悪いからちゃんとまた払うわ。」

「大丈夫!ごめんね気が利かなくて!払わなくていいよっ!」

「じゃあ、ここはリリィの奢りってことで。」

「ありがとリリィ。胃の限界に挑戦する。」

「ちょっとぉーー!!二人とも!それは話がちがうっ!!」

「…ふふっ、あはは!」

「!!!」


 このやり取りにクラウディアが思わず吹き出して笑うと、三人がハッとしてクラウディアの顔を見てきた。


「…?私が、どうかした…?」

「やっと、」

「え?」

「やっと笑った!!」


 三人が嬉しそうにクラウディアを見ている。




(え…?)



「…私、そんなに笑ってなかった…?」





 驚くクラウディアに、ローラが苦笑しながら言う。


「…えぇ。この二ヶ月くらい…接客している時以外でディアナの笑顔を見ていなかったわ。」

「!そんなに…」

「にこりとはしてたけど、笑ってなかったのが気になってて…」


 二ヶ月といったら、フィンリーと会ってからずっとという事だ。


「仕事は楽しいって言うし、何に悩んでるのかはわからなかったけど…」

「あ…」


 マーシャだけでなく、三人にも気づかれていたのだ。それだけ笑顔がなかったのなら、気づかれるのは当然とも言える。


「何か悩んでいるなら、聞いてあげたかったけど…」

「ディアナはなんか過去にいろいろありそうだし、私たちに話せないことなのかな〜って。」

「言いたくないことは、言わなくてもいい。」


 そこまで気づかれていたとは。同年代の女の子はやはり鋭い。


「だから、どうにかディアナが元気になる方法はないかなって三人で考えて…」


 それで、今日強引にでもクラウディアを連れ出したのだという。


(そこまで考えてくれていたなんて…)


「うん、……ありがとう…楽しかったわ。」


 三人の温かさに、また自然と笑みがこぼれる。


「よかった!って、何泣いてんのっ!?」

「!」


 クラウディアは、自分でも気付かぬうちに、涙を流していた。


「ふふ、ううん。楽しい。」

「もぉ〜何!?へんなディアナ!」

「笑いながら泣いて、不気味。」

「レベッカ!もう、すぐそんなこと言う!」

「っ、あはははははっ!」


 四人の楽しそうな笑い声が、街の賑やかさに混ざっていく。




「さぁさぁ、お腹空いたっ!食べに行こう〜!」

「私、アレ食べたい。」

「どこだっけ?」





 そしてクラウディアは涙と笑顔とともに心が決まった。


(…大丈夫。私はここで生きていける。)


 ヴィレイユで、シエールの一員として、ディアナとして。











 そして、フィンリーとは、別の世界で。



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