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6 ……誰に?

 シリルとデュオが話をしている頃、エリザベート(リラ)は寝室から隣の部屋へと戻っていた。


 今朝、目が覚めると昨夜掛けて寝た布団の上に、もう一枚布団がかけてあり、あのもふもふの細長い湯たんぽは無くなっていた。


(あれ、気持ち良かったな……)



 部屋へ戻ると丸耳メイドが待っていて、私を見るなり頭を下げた。


「ど、どうしたんですか⁈」

「昨日は失礼な態度をとり、大変申し訳ございませんでした」


 丸耳メイドはそう言うと、昨日冷たい態度を取った訳を話してくれた。


 彼女はシリル様が私専用に付けてくれた侍女で熊獣人の女性。

 名前はモリー、年齢は秘密。


 昨日は、シリル様に出来るだけ冷たく素っ気ない態度をとる様にと云われており、その通りにしていたが、今日からは普通に接していいと言われたらしい。


 シリル様は、リフテス人の姫が嫌だったのだ。

 リフテスの馬車があるうちに、追い返そうとしていたのだろう。

 でも、私を送って来たリフテスの馬車は、今朝早くに帰ってしまったから。もう仕方がないと諦めたのだろうか?



 モリーさんは、昨日とは打って変わったように、笑顔で私の世話をやいてくれた。

 普通? よりも少し過剰な気がするけど。


 温めた柔らかいタオルで顔を拭いてくれ、着替えの服を用意してくれた。


 昨日、石鹸で洗った髪がパサパサしているからと、梳きながら特製のオイルをつけてくれた。

 香りの良いそのオイルのおかげで、髪はツルツルになり輝いた。


 こんな風に手をかけてもらうなんて、まるで小さな子供になったみたいだ。


 今朝、着替えにと用意してくれた服は、子供が着る様なフリルの着いたピンク色のワンピースだった。


「あの、この服も、もしかしてラビー様のお洋服ですか?」

「はい。新しい服を届けてもらう事になっているのですが、まだ届いておりません。エリザベート様のお体に合う物がすぐにご用意出来ず、ラビー様の物をいただいて参りました。本日のところは、この服を着て頂いてもよろしいでしょうか?」

 

 モリーさんはお似合いになられると思うのです、と洋服を広げて見せる。

 確かに、サイズもちょうど良さそう。

 ちょっと私には可愛いすぎる気もするけれど、せっかく用意してくれたのだ。

 そう思って受け取った。


「ありがとうございます。ただ、新しい服は用意していただかなくても大丈夫です。私、服はリフテスから持って来ているのです。馬車に積んでいたので、それが何処かにあるはずなのですが……」


 とりあえず、持っていた服の中でも良い物を数着トランクに詰め持って来ている。

 昨日着ていたドレスだけは、リフテス王から渡された物だったけど。

(ドレスなんて持っていなかったから)



 荷物の事を尋ねたが、なぜかモリーさんはニッと笑うだけで答えてくれなかった。


 捨てたのかしら?

 人臭いって昨日言っていたし。

 あ、でもあれはシリル王子様に言われていたからで……いや、臭いのは本当だったのかも。


 なんて考えていると、モリーさんが申し訳なさそうに話し始めた。


「エリザベート様、昨夜のお食事は足りなかったそうですね」

「えっ……」

「申し訳ございません。どの様な物がお好みか分からず、一緒に来られていたリフテスの方にお聞きして、言われた物をお出ししたのです」


「そうでしたか……」

(まさか、リフテスの人が……‼︎)



「はい、あのちょっと少なめでした。でも、とても美味しかったです」


 そう答えると、モリーさんは嬉しそうに微笑んだ。




「今朝はちゃんと、こちらで出す量をご用意させていただきました。ケーキがお好きだとお聞きしましたので、そちらもご用意しております」


「ケーキ?」

「はい、コックが腕によりをかけ作りました。お口に合えばよいのですが」


(ケーキが好きだと誰に聞いたの? ケーキが好き……好きだけど、私そんな事言った?)


 誰にも話していない事を、聞いた様に言われて不思議に思っている間に、テーブルの上には所狭しとたくさんの料理が並べられていく。



 ドライフルーツの入った物や白いフワフワな物、長く捻れた形の物など、いろいろな種類の山盛りのパン。具沢山の物と琥珀色のキレイなスープが2種類、それに、たくさんの野菜サラダとキレイにカットされたフルーツ。香りの良いお肉料理が、いくつも大きなお皿に盛られ置かれる。

 いろいろな種類のケーキも並べられた。



「うわぁ! こんなにたくさん……ありがとうございます」



 お礼を言ったその時、ぐううっ、とタイミングよくお腹が鳴った。


 私は、恥ずかしくてははっ、と顔を赤らめた。


 モリーさんは「さぁ、早く食べてください」と微笑むと、温かな紅茶を出してくれた。


 いざ、食べようと思ったが、さすがにこの量は私一人には多すぎる。


 けれど、並んでいるフォークやスプーンは一人分。


 もしかして、獣人の方たちはこれぐらいを一人で食べるのだろうか?

 でも、さすがに多すぎない?

 そう思って、私はモリーさんに尋ねてみた。


「あの、これは私一人の分ですか?」

「そうです。何か……もしや、足りませんか⁈」


 違いますと首を振り、私は尋ねた理由を話した。


「いえ、私一人にはとても多すぎて食べきれそうにありません。でも、残してしまうのも、せっかく作っていただいたのに……申し訳なくて」


 食べ物を残すなんて、そんな贅沢は出来ない。けれど、これを全部食べ切るのは無理だ。


 そうだ、残った分は昼食に回してもらおう。



 目の前の朝食を見ながら考えていると、モリーさんがパチンと手を叩いた。


「そうですわ! シリル様とご一緒に食べたら良いのです。少しだけお待ち下さい。すぐに連れて来ます」

「えっ」


 言うが早いか、モリーさんはサッと部屋をでて行った。

 何故か扉にはガチャリと鍵を掛けて。



 毎回しっかりとかけられる鍵は、私が外に出て行かないようにだろうか?

 ここから出ても、私には行く所なんてないのに。


 それに、モリーさんはシリル様を呼んで来ると言ったけど、来ないと思うよ?



 昨日、お前には触れたくないって言われているもの。

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