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44 城の中へ

 日が沈み、月が顔を出す。


 城への侵入経路を話していると、ルシファ様がふと「メリーナ様は転移魔法は出来ないのですか?」と尋ねた。


「転移? ゼビオス王みたいなものかしら?……あれは私には出来ないわ、でもね……」


 メリーナは、一人ずつならば移動させる事が出来るらしい。ただし、それには条件がある。


 絆を持つ者が移動先にいる事。


 この場合の絆とは、家族や長い間同じ時を過ごした者、運命の繋がりがある者だとメリーナは言った。


 バーナビーさんの奥さんとニコくんには、馬達と共に空き家に居てもらう。


 城で危険な事が起きた時、バーナビーさんは家族を辿りここに戻す事が出来る。


 ルシファ様とシリル様も愛馬を(馬もいいの?)辿り戻れるのだとメリーナは言った。

 ラビー姉様とメイナード様は二人のどちらかを戻した後に送ればいいらしい。


(長く一緒に暮らしているから、それに二人は家族も同然だから……ちょっと羨ましい……)



 少し寂しく思っていたら「リラはシリルと強い繋がりがあるから大丈夫よ。それに私ともね」とメリーナは微笑みながら言ってくれた。


 シリル様は宿命の相手だから?

 メリーナは、長い間一緒に暮らしてきた『家族』だからだろうか……。


(……嬉しい)






 これで、いざという時の帰り道の確保は出来た。


(いざという時……なんて来ませんように)




「なるべく見つからない様に行くしかないわね」


 メリーナが、窓から周りの様子を伺いながら呟いた。

 その横で、同じ様に外の様子を伺っていたメイナード様は、ふと何か思いついたように目を輝かせ、メリーナに笑顔を向ける。


「ねぇ、メリーナ様、この家の様に僕達も見えなくならないの? それが出来たら潜入も簡単でしょ?」


 そう聞くと「無理よ」と短い答えが返ってきた。


「えーっ、どうして?」


「この家は見えないのではないわ、見えているけれど気がつかないのよ。それに私のこの魔法は、生き物には使えないの。家や馬車の荷台なんかは出来るけれど……そうね、何かに入れば可能だわ。例えば籠や箱をかぶって……」


 メリーナが言うと、メイナード様が手を横に振った。


「メリーナ様、それじゃ動き難いよ」

「それもそうね」


 じゃあとりあえず、とメイナード様が指をクルクルと動かして、人数分の紺色のマントを出す。


「侵入するからね、怪盗みたいな格好の方がよくない?」


 颯爽とマントを羽織ったメイナード様は、みんなに向けてパチリとウインクをする。


「メイナードは形から入るタイプなの」


 ラビー姉様はそう言って、楽しそうにマントを着た。


 マントにはフードが付いていた。

 耳の長いラビー姉様とメイナード様がそれを被ると、フードの形も合わせたように変化をする。



 ……耳付き、可愛い。



 シリル様とルシファ様のフードも、同じ様に耳の形に変わった。


 うわぁ…………可愛い…………。


 マントを羽織りながら彼らの耳付きフードに見入っていると、シリル様がスッと近づき、私を見て目を細めた。


「可愛いな、リラはなんでも似合う」

「えっ」


 シリル様はそう言って、甘く微笑みながら私の頭を撫でる。


(…………? シリル様?)



 その様子を横目で見ていたメリーナは、母親の様な口調でシリル様に告げた。


「ダメよシリル、その先は人の見ていない所でやりなさい」


「人のいない所……だったらいいんですか?」

「ええ、どれだけでも構わないわ」


 目深に被ったフードから、シリル様を見上げたメリーナはフフッと笑いながら言う。


「分かりました」


 嬉しそうに笑うシリル様の尻尾が、パタパタパタと揺れる。



 ーーーー? 二人は何を話してるのだろう?

 今、シリル様は頭を撫でていただけだよね?

 ……その先って?


 よく分からずに首を傾げていると、ラビー姉様がサッと寄って来て「今ね、シリルったらリラにキスしようとしていたのよ。凄いわね、封印が解けた途端にこうなるなんて……ふふふ」と教えてくれた。



 ええっ⁈

 そんな雰囲気全く感じなかったのに?








 いろいろあったが(私的に……)準備は整った。


 出発前にメリーナが口を酸っぱくして私に話す。


「いい、リラは決してシリルから離れない事。私やラビー達に何が起きてもよ? 約束して」


「はい、約束します」


 よろしい、とメリーナは頷き、次にシリル様に顔を向ける。


「シリルはリラを優先して、私達はいざとなれば此処へ戻って来る。分かったわね?」


「言われなくても、リラの事は命に変えても守ってみせる」

シリル様は真剣な眼差しで私を見る。


「それはダメ、命に変えちゃダメです! 必ず一緒に……」


 思わずシリル様に縋りついてしまった。

 シリル様は柔らかく笑みを浮かべ、私の頬をそっと撫でる。


「もちろん、必ず一緒にマフガルドへ帰ろう。モリーが結婚式の準備をして待っているから」


 そうだった、モリーさんはそう言っていた。



『帰ったらすぐに結婚しよう』シリル様は、甘い声で囁いた。






 夜空に雲が広がり、さっきまで出ていた月を覆い隠した。

 

 途端に闇が深くなる。


 その闇に紛れるように、私達は城へと向かった。


 空き家から、一番近い場所にある城の裏口には、二人の兵が立っていた。

 そこに向け、バーナビーさんがフッと息を吹くと、兵達は力が抜けたようにその場に座り込んだ。


「寝ました。さぁ、行きましょう」


 バーナビーさんの魔法は、息を飛ばして相手を眠らせるというものだった。

 その即効性は凄いものだ。


「この魔法は、相手の魔力が私以上の者には効きません。それに一度に三人まで、たいしたものではないのです。ま、だから捕まってしまったのですが……。しかし、この魔法は他の者から気づかれ難く便利なのです」


 突然隣の者が眠ったとしても、そう騒ぎたてる者はいないらしい。

 それに眠るだけで、後から具合が悪くなる訳でも、痛いわけでもないのだと教えてくれた。


「でも、目覚めた後に追いかけて来たら大変だから、縛っておくよ」


 ルシファ様は、スヤスヤと寝ている兵に向け、手をかざしポツリと呪文を唱え魔法の紐で縛る。


 兵達を隅に置き、扉を静かに開ける。

 そこから見える場所には人の気配は無かった。


 シリル様を先頭に、私達は城の中へと入って行く。


 城の中に入るとすぐに、私はニコくんに聞いた様に両手で糸を握り、強く念じた。


(お願い、私と繋がる者達、アレクサンドルお父様の居場所を教えて……)


 願いを聞いた糸は、ポウと一度光を放ちスゥーッと伸びはじめた。



「………………⁈」


 おかしい…………。



「どういうこと?」

「何故? 二本だけ? それも一本は凄く短い……」


 皆、糸を凝視し驚きを隠せない。



 糸は確かに伸びている。


 糸は私と繋がりのある者、王様、王子様達、王女様達と側室のお腹に宿る子供、合わせて十一本に分かれて伸びるはずだった。


 ……しかし、私の持つ糸の先はたったの二本しかない。


 その内、一本は私の背丈ほどの長さの青い糸。

 そして、指ほどの長さの赤い糸が一本。


 糸の長さはその者の背丈ほどに伸びるとニコくんは言っていた。


 青い糸は男性だ。


 王子様達は会った事も見た事もないけれど、大きい方達だと聞いたことがある。


 ……あの日見たリフテス王はどうだっただろう?


 青い糸は真上に伸び、赤い糸は真下を向いている。



 真下を向く糸、これは何を示しているの?


 ……地下? でも、城の地下はあの地下牢があるだけのはず。



「リラと繋がりのあるもの全てに伸びる、と言っていましたよね?」


 メリーナが、バーナビーさんに尋ねる。


「はい、そのはずです。今まで、ニコの糸が間違った事は一度もありません」


 バーナビーさんは、糸の先を見て驚きを隠せない。



「じゃあ王子様達は、近くにいないってことじゃない?」


 メイナード様が話すと、バーナビーさんは首を横に振った。


「いえ、その場合でも少しは伸びるのです。その赤い糸の様に……」


「じゃあ既に亡くなって、この世にいないとか……」


 ルシファ様は真下を向く赤い糸を見ている。


「いえ、それはないわ。八人もの王族が亡くなれば知らぬ者はいないはず。ブノア大臣も騎士達もそんな事は話していなかった……」


 そう話したメリーナは、赤い糸を見て何か考えているようだ。



 赤い糸は女性だ。

 王女様達は私を除き、六人はいるはず。

 しかし、赤い糸は一本、それも短い。

 短い糸、これはまだ生まれていない、側室のお腹の中にいる子供の事なのだろうか?


 他の糸は何故伸びないのだろう……?




 皆は頭を悩ませていた。



「ここで考えていても仕方がないわ、その青い糸の先に向かいましょう、それはきっとアレクサンドル様のはずよ」


 メリーナの話に皆は頷き、とりあえず青い糸の示す方角へと進むことにした。



 先程と同様に、行く先にいる兵をバーナビーさんが眠らせて、それをルシファ様が魔法の紐で縛っていく。


 糸は階段の上へ向かっていた。

 二階、三階と登り、リフテス城の最上階である四階に着くと、糸は右へと曲がった。


 そこに見えた廊下に兵は一人もいなかった。

 なるべく足音に気を付けながら、私達は進んでいく。



 次に、糸は廊下の奥を示した。



 薄暗い廊下の突き当たりに、二つの大きな人影が見え、そこにバーナビーさんが息を吹き飛ばす。少し時間がかかったが、眠らせる事に成功した。


 青い糸は、さらにその突き当たりへと向かい、そこから左へと示した。


 左へ向かうと糸の先は、沢山の鍵が掛けられた両開きの扉を示した。



 シリル様が扉に手をかけると、鍵はカチャカチャと小さな音を立て、次々と外れていく。


 全ての鍵が外れた扉を、シリル様がゆっくりと押し開いた。


 部屋の中には、香の煙が立ちこめている。


「……うっ」

「おえっ、息苦しい……」


 皆、思わず袖口で鼻と口を覆った。



 パチン、とシリル様が指を鳴らす。

 部屋のカーテンが一斉に開き、窓が次々と開け放たれた。

 小さな風が巻き起こり、部屋の中の煙を外へと出していく。


 煙が出てしまうと、部屋に一つだけあった照明に明かりが灯された。



 ぼんやりと見えてきた部屋は、全てが灰色で統一されていた。

 まるで、色の無い世界にいる様な気さえする部屋。


 その中央に鎮座する天蓋付きの大きな寝台に、横たわる人影がある。


 青い糸は真っ直ぐにその場所を示していた。



(……お父様?)


 その時、横たわる人影がモゾモゾと動きだした。


 気怠そうに上半身を起こし、こちらをかえりみる。


「……だれ……」


 男の人とも、女の人とも分からない、か細い声が聞こえた。

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